ねぇ、ミームって信じる?
そうそう、進化生物学者の「リチャード・ドーキンス」が提唱した概念で、初出は『利己的な遺伝子』だったかな?
人の文化を伝える遺伝情報であり、脳内にコピーされて拡散する複製子。遺伝子(ジーン)との類推で創られた造語だけど、遺伝子と同じように進化するって性質があるみたいね。
まぁ、この辺の定義は人によって違いはあるみたいだけど、文化情報を伝達して進化を促すものとざっくり解釈しておけば概ね間違いじゃないのかな。
ちなみに、ドーキンス自身は具体例として、言葉・音楽・ファッションなんかを挙げてるみたいね。
…え、急に何でって?
ほら、もうすぐクリスマスでしょ?どこもかしこもクリスマスムード一色。
綺麗なイルミネーションだったり、途切れる事なく流れるメロディだったり、空間を埋め尽くすような特別な演出が心を掻き立てるって事もあるんだろうけど、それだけじゃ説明のつかない何て言うか…空気自体が別なものに変わったような感じがして。
みんなの期待感みたいなのが伝播して空間に満ち満ちてる…自然と心がルンルンしちゃうって感じ?
あ…!今、浮かれてるとか思ったでしょ!?
… … …
うっわぁ~、すっごい冷静。
そこはもうちょっとムードとか考えて欲しいなぁ。私のミーム伝わらなかった?ふふふ。
でも、その着眼点はきっと的を射てるよね。
遺伝子ってのは塩基配列によるコードだから、ある意味これはデジタルデータ。だからこそ二重螺旋によるエラー訂正機能を実装できたり、欠損のない完全な複製も可能になる。まぁ、失敗する事もあるけど。
でも、ミームの方は完全なデータ化は不可能。きっとこれは原理的なもので、敢えて対照的に言うならアナログデータに相当するよね。
勿論アナログデータだって複製も伝達もできるけど、そのためには媒介になるものが必要不可欠。その過程でサンプリングによる不可逆性を持った情報の欠損が必ず起こる。デジタル網を通した会話とか、映像・画像の圧縮と同じイメージかな。曲線のグラフを棒グラフに置き換える時に絶対に間引かれちゃう部分ね。
ねぇ、もしもさ?その零れた情報の中に文化を創った人・発信した人の思いとか願いが保存されているって考えると、気持ちが醸し出す空気感みたいなものが自然と醸成されるって解釈できると思えない?
だってミームって概念自体が、ある意味“外部”に情報が存在するって認める立場な訳でしょ。
ミームを受け取った人も同じように解釈と拡散、欠損を繰り返す。ミーム自体の自己保存的な自発的複製も勿論想定できるけど、やっぱり人自体が影響力を持つ以上、人を解する拡散の方がより効果が高いかなって。
そうして、人を通した複製・拡散を繰り返す過程で、次々に零れていく人の思い…それが増幅して場に定着する。或いはその零れた情報自体が、サブリミナル的な高揚作用をもたらすとか、そんな可能性もゼロじゃないでしょ?
例え複製されない情報が泡みたいに弾けて消える運命だったとしても、人から人への伝播速度・頻度が高ければ、相対的に空間に留まる寿命も長くなるって事だし。
じゃあさ、ちょっと方向変えて、ミーム自体に意味ってあると思う?
… … …
うんうん。相変わらず冷静だね。氷点下。そろそろ雪でも降るんじゃないかしら?ロマンスを補うために。ロマンスの神様、私はここですよ!ふふふ。
まぁ、確かにあなたの言う通りかな。
私たちの祖先のホモ・サピエンスは他のホモ属と比較して身体能力は劣っていたのに、唯一生き残る事ができた。
これは脳の差異…空想能力に長けていた事が大きいって言われてるわね。
ここで言う空想ってのは、神様だったり国家だったりとか、形のない概念を創り出す力。概念的象徴の下に力を集結させる事ができる能力、これによって組織的に霊長類の頂点に立つ事ができたと。
実際、ホモ・サピエンスと現人類では、脳ってそんなに大きく変化してないんだよね。
だけど、この進化の歴史より遥かに短い時間で人類は飛躍的な進歩を遂げてる。如何に空想力があっても、当時のホモ・サピエンスが現代の機械文明を見たら卒倒するでしょうね。
これはつまり、脳自体ではなく、脳の中の情報密度、或いは情報の体系・構造自体が変化したと考えられる。まさに遺伝子が生命を進化させたのと同じように。
ここに一定の意味を見出すなら、情報自体の合理的選別・淘汰を促し、極めて短時間で進化をもたらしたって成果は評価できるわね。
この論説、ミーム自体を信じるかどうかその立場に関わらず、概念的な意味としては説得力ある気がするね。こういうものの常として、一回確立しちゃえば簡単に模倣拡散のコンセプトモデルになったりするし。
でもさ、やっぱちょっとロマンティシズムには欠けるんだよなぁ。
うーん…これはサブリミナルより、もっと直接的な刺激を与えた方がいいのかしら?
えいっ!
どう、美味しいでしょ?さっき買ったたい焼き。私、餡子よりチョコが好きなんだ!
あ、全然関係ないけど、『およげ!たいやきくん』って知ってる?そう、「子門真人」の不朽の名曲。
あれって、色んな意味でスゴイよね!
盲目的無知から始まり実践に移り、そして最後はあの結末。色んな出逢いから結論に至るまでのストーリの中で、「たいやき君」は自己の内に閉じこもるような、自分だけに通用するような解釈を決してしない。
きっと彼は、ホントは自分が一介のたい焼きに過ぎないって理解していたからこそ、他者…広義の世界に理解されない自分だけの内在理論を披露したところで、それが現実に成立する事はないって分かってたんだと思う。
この不可避性を受け入れる諦観の内に宿る潔さ…私はここにギリシャ悲劇に繋がるものを見たね!
…って、この話続けると、またサブマリン的に潜航しちゃうからやめとくね!
私も「たいやき君」くらいの潔さは持ってるつもりだから。ふふふ。
あ、見て見て!…って、サブマリンじゃないんだから、上、上よ!
ほら、クリスマスツリー!綺麗~!最近は21世紀初期への懐古主義の影響で、また逆さツリーが流行ってるみたいね。
…あ、何か演奏始まるみたい。折角だから聞いていこうか?
『サンタが街にやってくる』、クリスマスのスタンダードナンバーだね。
このシャッフルのリズム、何か思わず口ずさみたくならない?でも私、歌詞知らないんだよね。
ねぇ、何か即興で詩を当ててくれない?『およげ!たいやきくん』以外の詩でお願いね。できるでしょ?ふふふ。
… … …
道やお店に飾られている綺麗なクリスマスツリーより
もっと直接的な、官能的な魅力に僕の目は釘付けになった…
この季節が終わっても、きっと僕はその姿を探してしまうだろう…
あ、無茶ぶりだったけど意外にステキかも。
ちょっと切なさを感じちゃう詩だけど、もしかしてその「探しちゃう姿」って私の事だったりする?
え?何、PDAのスクリーン同期しろって事?
どゆこと?
…って、ラーメンじゃないっ!!
ってゆ~か、ツリー云々より、この布巾への虐待感が酷いわよっ!?
で~!このTwitterアカウント、一体誰なのよ!
あんまり詳しく知らないけど、この名前、昔日本であったバスルームの文化でしょ!?
… … …
あぁ、21世紀の偉人を完全再現したAIなのね。
じゃあ、会話とかもできるんだ?
えっと…「これから私たち、ラーメンパーティやるんだけど、一緒に来る?」
…って、嘘だよ、嘘!!
ラーメン食べないし、食べても誘うわけないじゃん!本気にしないでよ!
まさかの渾身のポジティヴ!
「のこった」に掛けて「怒った」とか言うかと思ったけど、中々ステキな反応ね。この人、偉人って言うだけあって何か不思議な癒し感。絶対憎めない的な。
よりによってラーメンの嘘ついたのすっごく悪い事な気がしてきたから、お詫びにフォロワになってあげた方がいいかしら?
でもそれはまた今度…って事で強制スリープモードにさせてもらったよ。ラーメンの話はこれでおしまい!
…あ、でも、AIを引き合いに出すのはスゴクいいかも。
あなたって相変わらず天然っていうか、寧ろ天才ね!ふふふ。
さっきのミームの意味だけどね、実は私の質問の趣旨はちょっと違うんだ。
ミームが果たした役割的観点からの意義じゃなくって、ミームが何らかの情報を持つとして、その情報自体の裏にある意味…そんなものが存在するかってお話。
うん、言ってて私も分かり難いなぁって思った。例えばそうだなぁ…ミームが文化情報を伝えるなら、何で伝わるミームと伝わらないミームがあるのかな?
ミームの代表例に言語があるけど、人間以外の動物でも鳴き声で複数の個体の統制を取ったり、コミュニケーションを図る種族もある。
じゃあ何で、ゴリラとかオランウータンのミームは人間には伝わらないのかな?
そこの物陰で物欲しそうにこっち見てる猫ちゃんだって、このたい焼き食べたら美味しいって思う筈よ?
…ほら、怖くないよ。お姉さんの大好きなたい焼きあげるから、こっちおいで!
わっ!ホントに来た!かっわいいぃ~~!!
ねぇ、この猫ちゃんには「たい焼き」のミーム、伝わると思う?
… … …
そうだよね。
ミームに限るものでもないけど、拡散って言っても、基本的に発信する者から受信する者への一方通行って性質が根底にある。
発信する時点でミーム自体に“意味”がある、或いは受信者が正常に受け止めた段階で、あらかじめミームが持っていた“意味”が解釈されるって感じちゃうけど、実際はそうじゃないんだよね。寧ろ逆。
文化として定着するには量の拡散も不可欠だから、発信者と受信者で同じ解釈ができて初めてその瞬間に“意味”が成立する。
逆に言えば、発信者の意思に反して異なる解釈がされた場合には、発信者の想定した“意味”とは全く違うものになるし、解釈が成立しない関係性にあるものに対しては“意味”自体どこにもなくなっちゃうかもしれない。つまりは同じ解釈が成立したその後で、“意味”が事後的に立ち上がり、そしてそれを確かめる術は厳密にはない。
猫ちゃんの鳴き声と同じかな?
「にゃんにゃんにゃん!」
…私は今「かわいいね」って言ったつもりだけど、もしこの猫ちゃんが今のを猫語と受け止めてくれたなら全然違う“意味”になったかもしれない。受け止めてもらう事さえできてなければ、“意味”なんて間違いなくない。
そして、何れの場合も私にそれを確かめる術はない。
このたい焼きも同じ。
ワンコインで買ったけど、その金銭的価値と“意味”が、本当にイコールかって言うと誰もそんなの決められれない。
勿論原材料費だったり、他のたい焼きと比較したテイスト的水準とかから、慣例的に妥当な価格を設定する事はできるけど、それは“意味”とは全くの別物。
そもそもたい焼き…その原材料も含めて、どうして食事の観点からだけで“意味”を決める事ができるのか。百歩譲っても、無数にある食材の中で、どうして横並びの“意味”を決定できるのか。極論言ったら、不味い物より美味しい物の方が“その物自体の意味的価値”が上だってどうして措定できるのか。
猫ちゃん、たい焼き全部食べちゃったけど、仮に私と同じ意味で美味しいと思ったとしても、それは猫ちゃんにとってたい焼きである必要はない筈。せいぜい与えられた餌。つまりはたい焼きのミームである必然性はない。
じゃあ何なんだって問われれば、そんなもの猫ちゃんだって神様だってジャッジできないでしょ?
こういった適合性とか、恣意的な意味決定に対する否定性を考えると、ミームってすっごく流動的で限定的で不定のものだって言えそうかな?
ミームが全ての人間に同じ意味を届けてくれるって思うのは、きっと錯覚なんだよね。
で、さっきのAIの話だけどさ、ここまでのお話を踏まえて一つの問題提起ができる。
果たしてAIに、ミームは伝播するか?
「機械に心は宿るか?」の代わりに、ロマンティックに言うと「AIに愛は理解できるか」ってとこかな?
もし、受信だけじゃなくって、新たなミームの発信なんてものもAIにできるようになったら『マインドウイルス』…意図的なミームの大規模感染なんてのもあり得るかもしれないね?
… … …
さっきの「にゃんにゃんにゃん!」の可愛さは、絶対AIには分からない?
ちょっと嬉しくなっちゃうような言葉だけど…え、何?もしかしてAIに妬いてる?ふふふ。
まぁ、それは置いといて、でも強ち間違いじゃないかもね。
結局ミームが受信者優位である事が何よりのファイアウォールになるかもしれないし、その性質がアナログ的だったらAIの悪意…仮にそんなものがあったとして、そこは純粋なデータに間引かれるかもしれないし。
何?まだ妬いてるの?しょうがないなぁ…この猫ちゃんみたく抱っこしてあげよっか…って、ちょっと!何処行くのよ!!
こらこら、演奏の邪魔しちゃダメだって!
… … …
うっそ、スゴっ!あなた楽器演奏できたの?そんな事、一言も言ってなかったじゃない!
ってゆ~か、ホントすいません、邪魔しちゃって。直ぐ行きますので。
… … …
もう!サプライズは嬉しかったけど、そんな心配いらないから!
さっきの演奏、通奏低音の上にはメロディだけじゃなくって、ちゃんとあなたの思いも乗ってたわよ。他の人にとってはデジタルな棒グラフでも、私の胸にはちゃーんと届いた。すっごく柔らかい抱き留めるような曲線。
ほら、きっとAIだって敵わないって認めるよ。試しに聞いてみよっか?
ラーメンより熱々な二人で、お腹いっぱいって意味なんでしょうね!身を引いてくれるみたい…な~んちゃってね!
AIさん、ちょっぴり頬赤らめちゃってカワイイ!私やっぱ、フォロワになろうっと!…って、だから妬かないの!!ふふふ。
さてさて、お後がよろしくなったところで…
明日がイブで、明後日がクリスマス。さっきの演奏で、サンタさんからのプレゼントが終わりなんて事ないでしょ?
まだまだクリスマスムードは続くし、私の気持ちも、もっとルンルンしちゃう!
…浮かれてるとこ、AIが見てるって?
気にしないよ。だってさ、こんなに愛しさに満ちたミームが空間いっぱいに煌びやかに輝いてるんだもん。
ちょっとくすぐったいけど、愛に限って言えば、その感染源はAIじゃなくって生身の人間なのかもね。
ねぇ、あなたにも私のミームの意味、ちゃんと届いてるでしょ?
だからね…
もっと強く、抱き寄せてもらっても…いいかな?
【関連】サンタが街にやってくる
Comming Soon...(多分;)
※2017/12/31追記




