ねぇ、運命って信じる?
何処までも続くような深い海、不純物のない澄んだ空気、空には透き通るような無数の星…
二人でこうしてるとさ、私たちを取り巻く時間や空間、その全てが奇跡のように思えちゃって。
そう思うと、何か運命って奴も何となく信じたい気分に…
って、コラコラ!
私が質問してるんだから!
… … …
え?何?
もう1回言って。潮風でよく聞こえないよ!
… … …
聞き逃したそっちが悪い?
何よケチ!もう1回くらい言ってくれてもいいじゃない?
「運命の赤い糸だったら信じてる」なんて今日日珍しいピュアな言葉なんだから。
って、ゴメンゴメン!
顔赤くしちゃってカワイイ!ふふふ。
…はいはい、いつまでも拗ねない!
私は、そうね…
運命ってものがあったとして、それは誰が決めたものか?
そう問いかけてみると、私たちの目の前にある海・空気・無数の星を創り出した宇宙の大いなる意思…結局は神様みたいな概念を想定する事になるよね。
私たちは偶然地球という環境に適応して思考力を持った生き物になったけど、残念ながら海の中では生活できないし、星まで飛び上がる翼も持ち合わせていない。
その意味では運命って、こういった取り巻く全ての環境…制約に縛られる事になるしね。
で、そうやって神様を想定すると…、カルヴィニズムって知ってるかな?
そうそう、昔の西欧セクションで起こった今は廃れた宗教ってカルチャ…キリスト教の改革派ね。
その最大と言ってもいい特徴に「予定説」っていうのがあるんだけど、人は天国に行くか地獄に行くか、それはあらかじめ神様によって決定されている…予定されているっていう考え方ね。
つまりは、善行に努め如何に聖人君子のような人生を歩んでも、神様に地獄行きと決められちゃった人は地獄行き…決してその決定を覆す事はできない。
勿論逆も同じ。どんな生き方をしようとも、天国行きのチケットを持つものは必ず天国に行けるって事ね。
でも、この時代の平均的な考え方に照らし合わせると、「頑張っても結果が変わらないなら、やるだけ損じゃね?」って話になるよね。まぁ、当然っちゃ当然。
でも、カルヴァン派の人たちは、こんな風に悩んだんだよね。
どうすれば、自分が天国に選ばれた者だと知り得るか?
そもそも、神の決定を世俗の民が探ろうとする事自体が不遜に当たるのではないか?
で、結局どんな結論を出したと思う?
「与えられた天職を持って社会秩序に貢献する事が、神の栄光を増す事に繋がる」
…そんな風に考えて、ひたすらに神の栄光に奉仕するために職業労働に努める事で、間接的に天国と言う“神の選びの確信”を得ようとしたんだね。
運命を信じるか?って聞かれると、私はこの立場に近いかな。
… … …
違う違う。
運命はあるって思ってるんじゃなくって、結論はね、「あってもなくても、どっちでもいい」だよ。
そんなのずるいって?
でもね、さっきの宗教の話から「神の栄光への奉仕」って概念を取り去ると、本質はきっと同じなんだよね。
運命があるから、選びの確信を得るために努力するって言うのと、
運命なんて信じないから、自分で自分の道を切り開くために努力する、
結局目指す方向は一緒でしょ?
だったら私は運命どうこう論じるより、今この瞬間は私が選んだ結果だって後悔なく言えるような生き方をしてみたいかな?
… … …
でもやっぱり、自分の思いは神様に決められたものじゃなくって、運命に抗って自分で掴み取ったものだって信じたいって?
ふふ、そんな風に言ってくれて嬉しい。
運命の赤い糸だって、神様じゃなくって自分で選んだ人に自ら結んであげたいもんね?
そうだ、思い出した!
ちょっと手、貸してくれる?
… … …
じゃーん!ペアリング!
赤い石のワンポイントがチャーミングでしょ?ふふふ。
運命があってもなくても、それが証明されるとしたら、今この瞬間の現実をおいて他に在りえないって思わない?
だったら存在してもしなくても見えない赤い糸より、このペアリングを眺めて「私たちはちゃんと自分たちで選んで、自分たちの意思で繋がってるんだ」って思えた方が随分いいでしょ?
予定説に対して、ミルトンは「例え地獄に堕とされようと、そんな救いのない神は尊敬できない」って批判したんだけど、
全知全能の神様でも「運命を決定できない人間を創れるか」っていう全知全能性を破綻させるパラドックスで対抗できるかもしれないよね?
だから私はね、楽園から追放されてもいい、運命の呪縛だって怖くない。
破綻した神様の前で、“貴方が選んでくれた”っていう運命の選びさえ確信できれば、他に何もいらないよ。
ねぇ?このリングを付けて、運命の証明を重ねていってくれる?
… … …
リングじゃ互いに繋がってないって?
何でそこで茶化すかなぁ…、今いい雰囲気だったでしょ?
はぁ~…、そもそも運命の比喩って、何で糸なんだと思う?
絶対性を強調するなら、強度的に鎖とか女郎蜘蛛の糸の方が間違いなく効果的でしょ。
つまり、ここで言う糸は物理的な媒介物じゃなくて、象徴としてのモチーフなんじゃないかな。
だったら運命を前に、物理的な接続状況を議論するなんてナンセンスでしょ?
そもそも目に見えない糸だったら、目に見えない思いで代替する事だってでき…
… … …
え?嘘、気付いてたの?すごーい!
Destiny of Red String…
Destiny of Red Stone Ring…
ご名答!この二つを掛けてました!
ふふ、貴方の発想と一緒ね?
… … …
運命の赤い糸よりも幼稚だって?
そうかもね?でもいいじゃん!
何か似たもの同士みたいで、運命感じたでしょ?