ねぇ、「ミリンダ王の問い」って知ってる?

昔、宗教って呼ばれた、集団催眠としか思えないような非科学的なものがあったでしょ?
かつて東洋って呼ばれたセクションで発生した仏教の聖典の1つなんだけど、その中に「名前と存在」に関する教理問答があるのね?

そう、よく知ってるね!
車(馬車/ 牛車)を指して、「車と呼ばれるのは一体どこの部位なんだ?」と問う。
それに対して答える「車という実態はない。あるのは…」っていう問答ね。


あーうん。全然関係ないんだけど、何となく貴方の腕時計見てたら、思い出しちゃって。
何それ?フランク…三浦?面白いね?
…え?笑ってないよ!ホント!ホントに笑ってないから!ふふふ。

でね、時計からちょっとこんな連想してみたんだけど、聞いてくれる?

って、コラ!いつまでも不貞腐れないの!
私それ、貴方らしくていいと思うよ?
らしいってどういう意味かって?ふふ。気にしない、気にしない!


でさ、仮にね?

一つずつ歯車を組み上げて時計を作るとして、もし歯車が全部、完全に結合しちゃったらどうなるのかな?
あー、ギアが噛み合うって意味じゃなくって、完全にくっついて離れない状態の事ね。
パーツが融合して、1つになった形をイメージしてもらうと分かり易いかな?

歯車の役割が、何かと何かを連結して力を伝達する事だとしたら、連結される両者が分離可能であるからこそ、歯車には機能と意味が与えられる。
そう言えるよね?

じゃあもし、その両者が歯車も含めて不可分となったなら、全体として成立するオブジェクトに対する一つの意味しか賦与できなくなる。
そこには、本来歯車が持っていた筈の機能・意味は失われ、それどころかその存在自体も既にない。

これが更に進展して、時計全体が不可分になったらどうなるかな?
時計の針と一緒に、文字盤まで一緒に回転する。
時計としての機能も意味もなくなるけど、全体の結合体としての時計だけはその場に残る。
時計を象った、時計らしきオブジェクト。

ねえ、こんな形になった時計を、貴方はまだ時計と呼び続ける事ができる?

………

そうだね。

それを所有する、観察者としての人間に対して、時間を提示する機能こそ喪失したものの、正確に針と文字盤が回転し続ける限り、時を刻む機能自体は決して失われていないよね?

思うんだけどさ?
結局、人と人との関係性もこんなものなのかな?

観察者が、自分にとって都合のよい機能や意味を、身勝手に相手に投影してるだけ。
結局、見えるところだけじゃ足りないから、見えないところにありもしない幻影を見て、恣意的な価値を一方的に押し付けてるだけなのかなって。
もしかしたら、その事によって削ぎ落とされちゃう何かがあるかもしれないのにね?

それに、刻む時が正確であったとしても、その同期が取れていなければ、それは誤解やすれ違いに繋がる可能性がある訳でしょ?
同じ場所で抱き合うなら、同じ時刻に合わせてないと出逢う事さえできないし、遠く海を渡った先から声を交わすのなら、やっぱり時差くらい意識するのが常識だよね?

言いたい事、もう分かっちゃった?



ネットワーク・タイム・プロトコル?
何の話よ!違う違う!
相変わらず天然なんだから。ふふふ。


続けるね?

時間を表示する事ができなければ何も分からないけど、それでも分からないなりに相手の事を思いやって、本当は何を表示したいのかなって想像する事はできるし、必要であれば、時刻の同期だってできる。

そう。気付いた?
これってさ、自分の意志で時間を変えてるって事なんだよね?

別の表現をするなら、時を刻む正確性はそのまま維持するけど、その時を刻む目的…時計としての本分である時間の提示は、全て相手に合わせる。
もしこんな事をする時計があったのなら、それって「全てを貴方に捧げます」って自己表明と一緒だよね?

でもね?
私なら、こんな回りくどいやり方よりも、やっぱり目に見える形でストレートに「I Love You」とか「I'm Yours」とか言って欲しいかな?

別にデジタルの時計だったら全然問題ないし、今時、多国語I/Fを備えた喋るAIウォッチなんて珍しくも何ともないでしょ?

え?歯車の話は、どこに行ったかって?
なんで、こういうところは天然ボケできないかな~?
ホント、歯車ずれて、おまけにネジまで飛んでるんじゃないの?
じょーだん!ふふふ。


あー、何だろ?
一緒にいる事を誓い合った二人…実は分かりあえてたつもりが、すれちがってました…、
そんな切ない想像したら、何となく寂しい気分になってきちゃったな。

ねぇ、こっち向いて…
そう、強く抱きしめて?

分かってる…分かってるよ?
こうしても一つになんてなれないし、それが寂しさの生んだ一時の無聊を慰めるだけの意味のない行為だって。

でもさ?少なくとも、互いの胸の鼓動が刻む、時の流れだけは感じられるでしょ?
私たちは歯車じゃないし、その機能もない。
この鼓動の脈拍も、共に歩む時の流れですら、その形状も密疎も噛み合わない可能性があるし、同期もとれていないかもしれない。

だけど、どんなに不器用でも、どんなにすれ違っても、ただ一緒に回る事は…時を刻む事はできるよね?
そうやって…今を一緒に生きてるんだって、そう思う事くらい、きっと許されるよね?

だって人間って、宗教なんてものも心の底から信じられる生き物なんだからさ?


…ねぇ、私ね?

私の時間、その全てを貴方に捧げる事ができるよ?

だからね?
私と一緒に…


ずっと一緒に、生きてくれますか?