「まだ、寒いね…」

吐く息が白い

「歩くの、遅せーからじゃねーの?」

吐息の隙間から上目遣いで、前を行く背中に視線を送る

「…イジわる」

身体を震わせながら、赤くなった手に白い息を吹きかける

「…寒いんなら、もっと…寄れば?」

視線を逸らしながら、右腕と身体の間に作られた空間…細い腕が辛うじて入るくらいの隙間

「ううん…いい…やっぱ寒くないから…」

立ち止まって振り向く姿に向かい、俯いたまま答える

「あ、そ」

突然歩き出す背中に、慌てる

「ねぇ、どこ行こっか?」

早歩きでペースを合わせながら、斜め上の横顔を見つめる

「………」

離されないように、ただ付いていくだけの不安

「そうだ!見たい映画あったんだけど…行かない?」

明らかに賑やかな街から遠ざかっている、幻のように消えそうな姿

「恋愛映画なんだけどさ、等身大の若者を描いてて、胸キュン恋愛を追体験できるって評判なんだ!」

丘へと続くまだ雪の残る道、このままいなくなっちゃうような錯覚

「ねぇ!聞いてる!?」

一瞬立ち止まり振り向く、優しい眼差し

「いいから、黙って付いて来なよ」


丘の上には、辛うじて公園と呼べる程度の慎ましいスペースがある。

空に向かい切り取られたような開けた空間からは、私たちの住むこの街を一望する事ができる。
その景色は、宝石のような色とりどりの灯りが散りばめられ、星空を泳いでいるような幻想的な時間に浸る事ができる。

そんな幻想を抱いて、二人で真夜中にここへ来たのはいつの頃だったか。

現実には、ポツリと灯るだけの微かな明かりが、寂しさを増長させるだけで、期待は見事に裏切られた。
それが私たちの住む街。
胸が躍るようなロマンスは、シネマのスクリーンの向こうか、何処か遠い世界にしか存在しない。
そんな現実を付き付けられた空虚な夜。


「…やっぱり、寒いね」

護るように、自らの身体を抱く
身体を震わせながら、赤くなった手に白い息を吹きかけ…

唐突に掴まれる手
熱い温もり


「映画なんて、誰かが作ったフェイクだろ?」

驚きで目が丸くなる

「でも、ここ…何にも…ないよ?」

真剣な眼差しで見つめ返す、瞬きをする事も忘れていた

「何もなくてもいいだろ?
オレがいる。オレだけはいる。それじゃダメか?
遠くへ行かないで…
そう思ってるなら、離さないように、しっかり掴んでろよ。」

絡ませた指に力がこもる

…うん…


消え入りそうな最後の言葉は、白い息と共に消え去る。
ボクは、聞こえなかった振りをした。

何もない白い世界の中、残されたように佇む二人。
物語じゃない、現実の風景。
その影は闇夜に溶け、この世界がボク達のためだけに存在するような錯覚を与える。

言葉じゃなくても伝わるんだ。
触れ合った指先を頼りに、そっと身体を抱き寄せ、確かな存在を胸の中に感じる。

白い息と共に、キミの言葉も結晶となり、ボクの胸に届いた。
白い世界が、僅かに淡く染まったのが分かったから。

今、この瞬間はキミとボク、二人だけの世界。

そして、この静止した果てしないときの中で…


…キミだけが、ボクの傍にいた…


Bind the White Album - Who said Love is Blind ? -



【著者解説】
ねぇ、主観と客観の違いって何だと思う?

きっとそれは、視点の違い、その程度のもの。
でも、この僅かな差異は、とてつもなく重く、そして遠い。
一歩引いた視点。それは他人の思考を想像する力。
そしてそれこそが、皮肉にも人と人との絶え難い距離感であり、心の隙間だから。

冒頭から始まる「言葉」と「描写」の句点なき短文の連続は、客観への連続性の表明。
客観性の追及は、超越的視座へと変わり、第三の声が二人の輪郭を明瞭にする。
交わっても重なる事のなかった境界線、結局はそれを超克できたのは、ボク達の心以外にありえなかった訳だ。

またまた出ました、大風呂敷!ビッグスカーフ!?ビッグスヌード!?!?
イヤッハーー♪٩(ˊᗜˋ*)و❤


さて、気を取り直して、冷静且つ客観的に行こう(爆)

これは、某ゲームにおける、ホワイトデーをテーマとした、ギルド独自イベント企画の発起人の立場から、告知義務の一環として、執筆したものである。
#実際には、ちょいとロマンス要素を注入しようと思ったら、無尽蔵なラブロマンスが、筆を止める事を阻んだ結果に過ぎないのだがw

”ホワイト”の語感から、真っ先に連想したのが、
"無彩色に染め合う心"、”無償の愛”、”二人で綴る新しい未来"、
そんなところだろうか。

そして、そこから導き出された、明瞭な像を結んだ1つのイメージ。

「何もない真っ白な世界で、身を寄せ合う二人」


そんな心象風景を、稚拙で至らぬ事を覚悟の上、言葉に換言してみた。
その過程で、二人を隔てる境界も距離もなくなり、溶け合う事ができたなら。
この物語は、そんなとりとめもない事を願う、ボクの健気な挑戦。

キミに…届いたかな?