【SIDE CHANYEOL】
「ジョーンデっ」
背後から大きな声で呼びかける。きょとんとした顔で振り返る、お前の顔に、ほら、クリーンヒット。
顔にあたってぽすっと音をたてた枕がそのまままっすぐ下に落ちて、両目を瞑って口だけ笑って、ふるふるしているお前は、まるでトムとジェリーとかのカートゥーンムービーのキャラクターみたいだ。
「やーーーーーーったなぁーーーーー!」
すぐさま枕を引っつかんで、俺を追いかけてくるお前。両手で大きな枕を抱えてぽすぽす俺を叩いてくるけど、枕ごと抱えてぐるっと回して、布団に投げ落としてやるの。
「あっ汚いぞお前!」
「やっふう!」
意味のわからない声をあげて、セフンとタオが参戦してくる。ずらっと布団を並べた貸し別荘のリビングは、あっという間に戦場と化す。飛び交う枕の爆撃を避け、イシンヒョンは頭に布団を被って、部屋の隅っこのほうに芋虫みたいにもぞもぞと移動していく。我関せずのギョンスは、髪の毛が逆立つぐらいの近くを枕が掠めても、微動だにせずソファに腰掛けたまま携帯をいじっている。
「やい、こっち向けチャニョラ!」
よく通る澄み切った声に思わず振り返ると、今まさに、俺の頭上めがけてジョンデが枕を振り下ろすところ。すんでのところでかわして、さっと横っ飛びにとんで逃げようとすると、追いすがろうとしたお前が布団に足をとられてバランスを崩す。
咄嗟に腕をつかんで引き寄せた。俺の胸のあたりに勢いよくお前の身体が飛び込んでくる。思ってたよりそれは軽くて、抵抗なく引き寄せられちゃったもんだから、腕を引いたままの勢いで俺も後ろにひっくり返ってしまう。
「うわ、」
驚いたようなジョンデの上目遣いの視線が一瞬スローモーションみたいに俺の視界を掠めて、あ、と思った次の瞬間には、俺は天井を向いて布団の上にひっくり返っていた。
「…いってぇ…。」
したたか打った腰をさすりながら起き上がろうとすると、俺の半分立てた膝の間から、んっしょ、っと腕をついて、お前も身体を起こしてきた。すぐさま立ち上がって警戒態勢に入ろうとする俺のトレーナーのすそをつかんで立ち、少しのびあがって俺の耳元で、
「だいじょぶ?」
と聞くお前。
「へーき。」
ぽんぽんっと軽く尻を叩いてみせると、見上げるお前は眉を八の字に寄せて笑い、それからぎゅっと俺に抱きついてくる。上から、その癖っ毛の後ろあたまを見おろしていたら、背後からタオの枕で思いっきり頭をはたかれた。
すぐに始まる次のラウンド…と、思ったところで、たまたま寝室から出てきたジョンミョニヒョンの顔に、俺が投げた枕が綺麗にヒットしてしまったものだから、部屋が一瞬、水をうったように静まり返る。
「…ま…枕投げは、修学旅行の華ですよヒョン…」
俺がもぞもぞと言ったのが余計だった。
「早く、寝ろ。」
ヒョンが唸って、水は一気に零度の氷にまで冷え込み、要領のいいマンネたちは、はあーい、と言って、あっという間に洗面所に逃げ出してしまう。俺とお前ははあはあ息を切らせたまま、顔を見合わせた。と、そのとき、冷えた空気をものともしない、のんびりした声が室内に響く。
「あー、ねー、ジョンデ、これ…」
イシンヒョンだ。お前は、これ幸い、といった風情で、ヒョンそれはね、こっちに挿すんだよ、とか言いながら、イシンヒョンのiPodの充電の面倒を見に行ってしまった。小言を言うつもりだったらしいジョンミョニヒョンは、出鼻をくじかれた様子で、はぁ、とため息をついて寝室に引っ込んでしまう。らっき、と思いながら、俺は乱れた布団の上にごろんと横になる。
「チャニョラ、それちゃんとまっすぐに直しといてよ。」
ギョンスが携帯から一瞬だけ顔をあげて布団を指さした。はい。やります。パク・チャニョル、謹んで、やらせていただきます。
とか言いつつ、適当に押したり引っ張ったりして布団の位置を整えている俺に、ギョンスのダメだしが入る、その間も、部屋の隅っこのほうに座り込んだお前は、イシンヒョンとなにやら額をくっつけんばかりにして話し込んでいて、何を話しているのかは聞こえないけど、たまにこっちにも聞こえるような声をあげて笑ったり、唇を尖らせて何か一所懸命にヒョンに説明しているお前って、やっぱなんか可愛いよな、とか俺は思っているわけで。
トレーナーのフードをすっぽりかぶったイシンヒョンの表情はこちらからは見えなくて、ただお前の透き通った笑い声だけが、ときどき俺の耳をくすぐる。
デビュー前、一番最後に入社してきたお前だったけど、学年が同じ俺とベッキョン、ギョンスとお前は、すぐにつるむようになったじゃん?負けず嫌いで、体格じゃ絶対勝てっこない俺にも全力でつっかかってくるお前と、全力でふざけあってるのが好きだった。いろんなゲームやって、勝った、負けたで大騒ぎして、叱られそうな罰ゲームとかも結構やったよな。
正式なチーム分けが発表されて、お前の中国行きも同時に決まって、宿舎が別々になって、そうしてデビューしてから一年ぐらいのKとM別々の活動期間。俺が知らない、色んなことがあったんだろうなと思う。相変わらず人懐っこいお前は、再びの合同活動になってからも誰とでも一緒にいる気さくなやつだったけど、でも、俺、なんかわかっちゃったんだよね。
ぼんやりいつでも雲の上みたいなイシンヒョンが、お前のことだけは何故かしらちゃんと見てるとことか。あのふわふわした中国語なまりの韓国語でヒョンがお前を呼ぶときに、ぱっと明るくなるお前の表情とか、そういうの。そういうので、なんかわかっちゃった。ような気がする。
…だからたまに、俺はこうやって全力でお前に構ってるの。めっちゃくちゃやりあった後には、お前必ず、ぎゅってハグしてくれるじゃん。あのときの、上から見おろすお前の頭と、見上げるお前の睫ばしばしの瞳に。俺、正直、弱いんだよね。
…fin
全力でふざけてはいるんだけど、チェンとかちったいものくらぶに対してどっかしら手加減してるようなとこもあるチャニョルは、周囲のこともいろいろよく見てる子で、当事者同士が気づいてないことにも、気づいちゃったりしてるようなとこがあるような気がするんです。場面設定はSHOWTIMEあたりのおとまりロケ。
