すでに書いた通り,エホバの証人の教理には,①「旧約聖書」・「新約聖書」を1つの貫かれたテーマで統合的に解釈・説明することと,②それが「今我々が現に生きている,この21世紀に全ての集大成・大円団を見る」「だから今生きているこの現世で人生の全てを信仰に捧げないといけない」と説明すること,という2つの大きな特徴があります。

 

そして,「旧約聖書部分」については,紀元前6~7世紀頃を舞台とする「ダニエル書」の解釈が決定的な根幹をなしているため,彼らの教理のうち,ダニエル書に関わる部分について,長く説明したいと思います。

 

16 最も重要な部分―ネブカドネザル王の夢(紀元前624‐582年頃)

 

1 分裂した2つのイスラエル王国(北イスラエル王国と南のユダ王国)には,良い王(エホバに従う王)もいたが悪い王(エホバに反逆する王)が多かった。

それで,エホヤキムという最後の悪い王がいた時代に,エホバはついに,分裂した2部族のほうのイスラエル王国(南のユダ王国)が一時的に滅ぼされることを許すことにした。(バビロン捕囚と呼ばれる出来事)。

 

 このようにエホバが許容したので,当時のバビロニア王国のネブカドネザル王は,紀元前617年に一度,南のユダ王国を降伏させ,その後再度逆らった南のユダ王国を滅ぼすために,紀元前607年に首都のエルサレムを徹底的に滅ぼし,神殿も破壊され,イスラエルの主要な人物は,バビロンに流刑囚として連れて行かれた(バビロン捕囚)。

このバビロン捕囚の間に,全人類を導く極めて重要な予言がなされることになった

(ちなみに,北の10部族イスラエル王国は,紀元前740年にアッシリアに滅ぼされている)

 

2 イスラエル人のバビロン流刑の間,ネブカドネザル王はエホバの力で不思議な夢をいくつか見た。また,ネブカドネザルと一緒にいたエホバの僕「ダニエル」も同じ時期に不思議な夢を見た。

その不思議で極めて重要な夢は大きく分けて2つで,その後の世界全体の趨勢を示す預言だった。(特に際立って重要なのは,2番目の「高い木」の夢である。)

 

①夢その1 「巨大な像の夢」と「巨大な獣の夢」

 

ⅰ.ネブカドネザルが見た夢のまず1つは,「頭が金,胸と腕は銀,腹と腿は銅,脚部は鉄,脚は一部は鉄・一部は粘土でできている不思議な像」の夢で,巨大な石が突然飛んできて,鉄と粘土でできた「足」の部分を直撃し,像全体が粉々になる,という夢だった。

(ダニエル書2章というところに書かれている)。

 

ⅱ.同じようにダニエルは,もう1つ不思議な夢を見た。
順番に次々と奇妙な獣,最初は「鷲の翼をもつライオン」,次に「歯の間に3本のあばら骨を持つ熊」,次に「4つの翼と4つの頭を持つ豹」,次に「10本の角を持ち,恐ろしく,すさまじく,際立って強く,鉄の歯を持つ最強の獣」が現れて,最後に「その10本の角から,高慢なことを語る口を持つ角が現れる」,という夢を見た。そして最終的に「雪のように白く,清らかな『日を経た方』」が現れ,その最後の「口を持つ奇妙な角」は殺され火で滅ぼされた。

(ダニエル書7章というところに書かれている)。

 

ⅲ.二人が見たこの奇妙な夢は,「世界の王国」についての趨勢を示していた。

ネブカドネザルの見た「像」,ダニエルの見た「獣」はどちらも世界大国を表していた。

・「金の頭」と「鷲の翼をもつライオン」はバビロニア王国

・「銀の胸・腕」と「歯の間に3本の骨を持つ熊」はメディア・ペルシャ王国

・「銅の腹・腿」と「4つの翼・頭を持つ豹」はギリシャ帝国

・「鉄の脚部」と「10本の角を持つとてつもなく恐ろしい獣」はローマ帝国

・「鉄と粘土が混ざった脚」と「高慢なことを語る口を持つ角」は,現代社会の英米世界強国を表していて,この予言は,バビロン時代以降の世界の強国の趨勢を示している。

 

ⅳ.そして,「鉄と粘土が混ざった脚」を砕いて滅ぼす「石」と,「高慢なことを語る口を持つ角」を滅ぼす「日を経た方」とは,エホバ神またはエホバ神が用いるメシアの王国である。つまり,「英米世界強国」が世界を支配している現代のこの時代に,神は「ノアの家族以外の全ての人」をかつて滅ぼしたように,「エホバの証人以外の全世界の人々」を滅ぼすことになる。


WATCH TOWER BIBLE AND TRACT SOCIETY OF PENSYLVANIA
『NEW WORLD TRANSLATION OF THE HOLY SCRIPTURES』 Appendix B9 

 

②夢その2 天まで届く高い木

ⅰ.別の時,ネブカドネザルは,もう1つ別の夢を見た。

・彼は,世界の真ん中に天に達するほどの途方もなく高い木の夢を見た。

・ところが,天使が空からやってきて,木の「根株部分」を残してその高い木を切り倒した。

・その木の根株は残され,鉄と銅のたがをかけて,一定期間成長ができないようにされた。

・天使は,「7つの時が過ぎ去る」までその木の成長を止め,「7つの時」が過ぎ去った場合,たがは外されて再度,成長を始めることとされた。

 

ⅱ.この,天まで届く高い木は,「エホバ神の支配権」を表している。
エホバはいつも,自分を代表する王国,つまり「神の王国」を持つことで支配権を行使する。

そして,当時のバビロニアの時代に地上で神の支配権を象徴していたのはイスラエル王国(南のユダ王国)だった。
(※エホバの証人は,「神の王国」によりエホバの支配権が行使される,という概念に非常に強いこだわりがあります。各地にある彼らの集会場に,「王国会館」という名前がついているのは,これが理由です。)

 

ⅲ.木が根株だけを残して一度切り倒されたというのは,つまりは,紀元前607年にエホバの支配権を地球上で代表する南のユダ王国がバビロンに滅ぼされたことを意味している。

そうすると,その「紀元前607年のユダ王国の滅び」から「7つの時」が過ぎると,再び,神の王国は復活することになる。

すなわち,「7つの時」がどれだけの時間なのかが聖書から割り出せれば,神の王国が再び支配を始めるときがいつか計算できる。

 

ⅳ.この点,聖書の別の書である黙示録には「1260日が三時半である」と書かれている。

つまり,「7つの時」はその2倍の2520日ということになる。

そして,聖書のさらに別の書である民数記には,1日は1年という規則が書かれている。

つまり,「7つの時」は2520年になる。

 

ⅴ.紀元前607年から2520年が過ぎれば,「神の王国が復活することになる」のだから,紀元前607年から2520年後である「西暦1914年」が,神の王国が復活し,「この世の終わりの日」が始まる特別な年になる。

 

※つまり,西暦1914年を境に,それ以降,この現実世界は「終わりの日」に突入しており,それまでの数千年の人類の歴史とは比較にならないほど特別な重要な時代に突入している。

 

ものみの塔聖書冊子協会発行 『あなたは地上の楽園で永遠に生きられます』(1982,1991)140‐141頁

 

※このように,エホバの証人教理では,「エホバの主権」というものがどのように立証されるのかが,人類の創世から現代までの1番の一貫したテーマになっています。

そして,エホバは,一定の期間,悪魔サタンと不完全な人間(後に不完全な人間が作り上げる様々な強大な国家)に地上の支配をさせてみるものの,人類の創世の時から「それらを滅ぼす定められた時」を決めており,紀元前4000年頃の人類の創成期にはそれがいつかはわからなかったものの,ダニエル書が書かれた紀元前536年頃には,「定められた時」が概ねいつ頃であるかの極めて重要なヒントがすでに人類に与えられていた,と教えています。

しかし,それをより正確に理解するには,キリストの到来とその後の時間の経過がなお必要だったというのが教理の続きになります。

「今の時期が重要」だとなぜ教えるのか,そして,どのようにその「定められた時」についての教理が,他の様々な教理に裏打ちされ,理論的に強化され,現実感を抱かせるのかについては,後の「新約聖書についての教理」の部分と,最後のまとめのところでわかりやすく書く予定です。

文責 弁護士田中広太郎