アメリカの映画では良く夫婦揃って、カウンセリンに行くシーンを見たことがあると思う。ブラッドピット主演映画『Mr.スミス&Mrs.スミス』など冒頭から夫婦でカウンセリングをけているシーンから始まっている。その他様々なドラマや映画で使われているシーンだ。それだけアメリカ人にとって身近な風景なのだろう。
 いったい何がこういったカウンセリングを必要としているのだろう。アメリカ人にとって日常は非常にストレスフルだと言わざるを得ない。例えば、全米43都市に拠点を持つインテグラ不動産情報社が無作為に1305人の成人に電話でインタビューしたところ職場で約10%の人が暴力行為を見たと言い、43%の人が何らかの言葉の暴力を目撃している。さらに65%が職場でのストレスが問題であると答えているのだ。
 さらに12%はストレスで会社を休み、そして19%はストレスで会社を辞めたことがあると答えているのだ。
 国際労働機構(ILO)のエコノミスト ローレンス・J・ジョンソン氏の1999年9月の調査によると「ヨーロッパの人たちは夏休みなど休暇をながく取るのでアメリカ人より労働時間が比較的短い。1980年代には日本人の長時間労働が盛んに指摘されてきたが最近10年間で10%減りました。しかしアメリカ人の労働時間は4%増えているのです」
 また全米疾病管理予防センター(CDC)によれば米国での職場の殺人が毎年20件そして暴行、襲撃、脅迫等の事件が94万件発生している。そういった職場でのアメリカ人の肉体的なストレスのほか精神的なストレスやトラウマや恐怖感にとらわれていることは言うまでもない。そういった負の精神的な要因が職場での暴力行為を引き起こしているに違いない。
 こういったストレスフルなアメリカ社会の背景にあるものは何であるのか、それはつまり常にポジティブに生きなければならないという脅迫観念なのでははいのか。
 ポジティブ・シンキングの火付け役となったのは1950年代のベストセラー『ポジティブ・シンキングのパワー』ノーマン・V・ピール著 邦題『積極的考え方の力』相沢勉訳
、ダイヤモンド社刊という書物であったのだ。
 ピール氏は牧師である。神父ではなく牧師である。カトリックでは神父なので、ピール氏はプロテスタントということになる。アメリカ人はプロテスタントが非常に多いのも影響してかこの書籍は2年半ベストセラーとなりノンフィクション書籍としては空前の売り上げとなる。一つの社会現象となったのだ。
 その後更に心理学や医療、神学に影響を与えカウンセリング治療や大学の医師養成プログラムに取り入れられた。
 教会のボクシは「信じる者は救われる。信じるものには全ての可能性が与えられる」と説教した。
 しかしこのポジティブ・シンキングは良いことばかりではなく更にストレスを生む原因となり、更にアメリカ人をカウンセリングに向かわせる事になっていった。
 ポジティブ・シンキングの人は自分の考えが絶対に正しいと考えており、それを人に強引に押し付けようとしている。また、人の話を聞こうとしないのだ。
 そこで、ポジティブ・シンキングに異論を唱える人物が出てきた。
 『ポジティブ・シンキングのポジティブパワー 不安に対処する自己防衛的ペシミズム』を出版したウェルズリー大学心理学部のジェリー・K・ノレム助教授は「ポジティブ・シンキングは現代人が不安やプレッシャーに対応するうえで効果的な方法と言えないばかりか、逆に障害になっている」と主張している。
 つまり、どんな事態でも最悪の状況を想定して準備したほうが良いといういうことであろう。最悪の状況を想定することで大体は良い結果をもたらすのだ。実際人生は良いことばかりではなく、ポジティブ・シンキングだけでは乗り越えられない事が多い。しかも最悪の状況を想定すれば、逆にポジティブな人生を最悪の状況でも選択することができるのだ。
 以上のようにアメリカの文化の一つとしてカウンセリングを受診する習慣があり、そして50年代のピール牧師のポジティブ・シンキングによるブームが逆に多くのアメリカ人を苦しめる事となり、例えば職場等での暴力行為を起こしそれを見て更に心の傷やストレスを抱えさらなるストレスを生む悪循環となっているのだ。
 これも一つのアメリカの文化である。