2月28日(水)
Criminal Law
Kenneth Lawson(Associate Faculty Specialist)
日本の刑法にあたるCriminal Lawを担当するのは、ハワイ大学ロースクールの准教授スペシャリスト(Associate Faculty Specialist)であるケネス・ローソン先生。ローソン先生は、18年間刑事事件の弁護人として活動した実績があり、シンシナティでロースクールの教鞭を執っていたが、自身も詐欺的な手段で規制薬物を入手するという犯罪で、24月の懲役刑として服役した経験を有している。現在はハワイ大学ロースクールで教えながら、ハワイ・イノセンス・プロジェクトという冤罪救済や誤判防止のための改革事業における共同ディレクターを務めている。
講義の内容は、いきなり「あなたがトイレでいきなり殴打された場合、合理的な疑いを入れない程度の証明には何が必要か?」の質問を学生にぶつけることから始まった。それぞれの学生がひととおり答えたところで、今度はアメリカの死刑制度について説明があった。アメリカ合衆国では、現在38の州で死刑制度があり、薬物、電気、ガス、絞首、銃殺などの執行方法が執られている。次いで学生に対して死刑制度の賛否を問い、死刑制度賛成の学生に対し、なぜ死刑制度が必要なのかを質問した。
アメリカは、これまでに350人の冤罪を生み出している。その多くは1993年から始まったDNA鑑定によって冤罪が明らかになったものであるが、それら冤罪による平均収監年数は14年に達しており、死刑執行後に冤罪が確定した例もあるという。これらの冤罪は、裁判における誤判により生み出されたものであるが、その誤判の原因として以下の理由が示された。1)目撃証言の誤り、2)虚偽自白、3)情報提供者の虚偽、4)警察官・検察官の非行行為、5)信頼性の内科学的証拠。
講義の内容は、いきなり「あなたがトイレでいきなり殴打された場合、合理的な疑いを入れない程度の証明には何が必要か?」の質問を学生にぶつけることから始まった。それぞれの学生がひととおり答えたところで、今度はアメリカの死刑制度について説明があった。アメリカ合衆国では、現在38の州で死刑制度があり、薬物、電気、ガス、絞首、銃殺などの執行方法が執られている。次いで学生に対して死刑制度の賛否を問い、死刑制度賛成の学生に対し、なぜ死刑制度が必要なのかを質問した。
アメリカは、これまでに350人の冤罪を生み出している。その多くは1993年から始まったDNA鑑定によって冤罪が明らかになったものであるが、それら冤罪による平均収監年数は14年に達しており、死刑執行後に冤罪が確定した例もあるという。これらの冤罪は、裁判における誤判により生み出されたものであるが、その誤判の原因として以下の理由が示された。1)目撃証言の誤り、2)虚偽自白、3)情報提供者の虚偽、4)警察官・検察官の非行行為、5)信頼性の内科学的証拠。

(ケネス・ローソン先生。模擬法廷の柵に腰かけて講義をする独特のスタイル。)
この中から、まず2)虚偽自白についての説明があった。なぜ被疑者は虚偽の自白をして自分の罪を認めるようなことになったのか? 虚偽自白をする場合、被疑者が若者である場合や薬物常習者であることが多い。捜査官に誘導されたり、睡眠を与えられなかったり等の圧力を掛けられ、自白が強要されたり、楽になるために虚偽の自白をしてしまう場合が多いという。アメリカではミランダ準則により、身柄を拘束する時に被疑者の権利開示及び告知がなされるが、その中に黙秘権についての権利告知がなされる。被疑者の多くは自分が無罪であることを証明するために、黙秘権があるにも関わらず多くの情報を供述してしまうことが多い。ところが実際は、無罪を証明したいのであれば、弁護士が来るまでは沈黙している方が良いとされている。なぜならば、被疑者が供述することで、捜査機関はその供述と矛盾する証拠を見つけることが可能になってしまうこと、強姦等の性犯罪容疑では、性行為の合意性を主張することにより、性行為があったことそのものを認めることになり、それらが不利な証拠として裁判で扱われることも多いからである。
さらに、裁判所の誤判の原因のひとつとして、検察の非行行為について説明があった。アメリカの検察官には「正義の追求義務」があり、検察側に誤りがあることが発覚した場合、その誤りを認めることが正義であり義務であるとするものである。誤りを認めないために被疑者に有利な証拠を開示しないということは、即ち、真犯人の取り逃がしを幇助するようなものである、という意識を根拠としている。具体例としてはジョン・トンプソン事件が挙げられた。この事件では、被疑者が無罪である証拠を検察は持っていたにも関わらず、公判廷でその証拠を開示せずに死刑判決が確定した。被疑者は、死刑執行直前まで長期間収監された。検察官が友人にその事実を告白し、友人が当局に通報したことによって死刑執行は回避され、被疑者は無罪となった事件である。当時アメリカには、判例を根拠としたブレイディ・ルールと呼ばれる者が存在しており、検察は被告人に有利な証拠がある場合にその証拠を開示する義務があるとするものである。このブレイディ・ルールを根拠として、有罪判決後であっても、被告人に有利な証拠が存在する場合には開示しなければならないという規則も制定された。この規則は、確定判決を受けた被告人の裁判をやり直し、冤罪を明らかにするという意味において有効に機能している。
さらに5)信頼性のない科学的証拠について言及された。これらの信頼性がない科学的証拠(Junk Science)はかなりの部分に及んでおり、DNA鑑定以外は、鑑定者の主観に左右されることが明らかになっているという。映画やテレビドラマの中で、犯罪の重要な証拠のひとつとして指紋がよく描かれているが、パソコンを使用して瞬時に指紋の照合ができるシステムなどは存在していない。さらに指紋が個人を特定する証拠たり得るか否かの議論があり、指紋の固有性は未だに実証されていないとの説明があった。指紋鑑定の信頼性においても、鑑定人の主観にその結果は左右され、鑑定人バイアスが掛かっている現状の説明があった。指紋鑑定の場合、証拠として採取された指紋と被疑者の指紋が同一であるか否かの鑑定になることが多く、鑑定人の「被疑者が犯人に違いない」という先入観が鑑定の結果に大きな影響をもたらしており、それは調査の結果明らかになっているという。これらは指紋鑑定だけに限らず、歯型照合、毛髪検査、筆跡鑑定などでも同様であり、FBIの内部調査などでもその信頼性が低いことは明らかになっているという。目撃証言の確度についても、記憶の先入観や照明の明るさ、距離、短時間の目撃、対象物手前の障害物の影響、高ストレス状態等で、その確度は大いに揺らぐという。また、犯行現場の目撃者に、顔写真を複数示してその中に目撃した犯人がいるかどうかを供述してもらう捜査は日常的に行われているが、それについても、捜査官が写真のラインナップを選択する限りにおいて、そこには恣意的選択が含まれており、目撃証言の確信に記憶の歪みを生じさせることが多いと言われている。
さらに、裁判所の誤判の原因のひとつとして、検察の非行行為について説明があった。アメリカの検察官には「正義の追求義務」があり、検察側に誤りがあることが発覚した場合、その誤りを認めることが正義であり義務であるとするものである。誤りを認めないために被疑者に有利な証拠を開示しないということは、即ち、真犯人の取り逃がしを幇助するようなものである、という意識を根拠としている。具体例としてはジョン・トンプソン事件が挙げられた。この事件では、被疑者が無罪である証拠を検察は持っていたにも関わらず、公判廷でその証拠を開示せずに死刑判決が確定した。被疑者は、死刑執行直前まで長期間収監された。検察官が友人にその事実を告白し、友人が当局に通報したことによって死刑執行は回避され、被疑者は無罪となった事件である。当時アメリカには、判例を根拠としたブレイディ・ルールと呼ばれる者が存在しており、検察は被告人に有利な証拠がある場合にその証拠を開示する義務があるとするものである。このブレイディ・ルールを根拠として、有罪判決後であっても、被告人に有利な証拠が存在する場合には開示しなければならないという規則も制定された。この規則は、確定判決を受けた被告人の裁判をやり直し、冤罪を明らかにするという意味において有効に機能している。
さらに5)信頼性のない科学的証拠について言及された。これらの信頼性がない科学的証拠(Junk Science)はかなりの部分に及んでおり、DNA鑑定以外は、鑑定者の主観に左右されることが明らかになっているという。映画やテレビドラマの中で、犯罪の重要な証拠のひとつとして指紋がよく描かれているが、パソコンを使用して瞬時に指紋の照合ができるシステムなどは存在していない。さらに指紋が個人を特定する証拠たり得るか否かの議論があり、指紋の固有性は未だに実証されていないとの説明があった。指紋鑑定の信頼性においても、鑑定人の主観にその結果は左右され、鑑定人バイアスが掛かっている現状の説明があった。指紋鑑定の場合、証拠として採取された指紋と被疑者の指紋が同一であるか否かの鑑定になることが多く、鑑定人の「被疑者が犯人に違いない」という先入観が鑑定の結果に大きな影響をもたらしており、それは調査の結果明らかになっているという。これらは指紋鑑定だけに限らず、歯型照合、毛髪検査、筆跡鑑定などでも同様であり、FBIの内部調査などでもその信頼性が低いことは明らかになっているという。目撃証言の確度についても、記憶の先入観や照明の明るさ、距離、短時間の目撃、対象物手前の障害物の影響、高ストレス状態等で、その確度は大いに揺らぐという。また、犯行現場の目撃者に、顔写真を複数示してその中に目撃した犯人がいるかどうかを供述してもらう捜査は日常的に行われているが、それについても、捜査官が写真のラインナップを選択する限りにおいて、そこには恣意的選択が含まれており、目撃証言の確信に記憶の歪みを生じさせることが多いと言われている。

講義の最後に、被疑者の目撃証言を体感する疑似プログラムの体験があった。あるシーンの動画が上映され、その後、そのシーンに登場した人物を、複数の写真の中から選ぶというプログラムである。動画上映後に6名の写真が示され、動画の登場人物と同一と思われる人間を学生各自が選んだ。先生が最後に示した回答は、その中に動画の登場人物は存在しないという衝撃的なものであり、人間の記憶というものがいかにあやふやで信頼性が低いかを痛感することになった。これらの目撃証言が、裁判において重要な証拠とされていることに、今さらながら戦慄し、裁判における目撃証言がいかに脆弱なものかを改めて知ることになった次第である。
(文責:法科大学院1年次・佐々木邦)