司法試験の勉強方法の一つとして、条文の素読があります。

 

私も、司法試験・予備試験の対策の一つとして取り入れていましたが、ただ単に頭から1条ずつ読んでいく方法では、眠気は生じるものの、試験対策としての効果を実感できませんでした。

 

そこで、自分なりに工夫して、以下のように条文の素読を行っていました。

 

条文素読の目的

条文を素読する目的を考えてみると、

①法律の全体像をつかむこと、

②試験本番で正確かつ素早い条文検索ができる能力を身に着けること、

の2つが思い浮かびます。

 

この①と②は関係していて、法律の全体像をつかんでいるからこそ、法律の体系のどこに探したい条文があるかが自然と思いつき、素早い条文検索が可能になります。

 

また、素読を繰り返していく中で、個々の条文がどこに配置されているか、条文の配置の流れ(立法者による配置の意図)を理解していくことで、法律の全体像をつかむことができるのだと思います。

 

①の「全体像をつかむこと」はどの科目でも重要ですが、②の「条文検索能力」は、条文数の多い民法・会社法や、条文の見出しがついていない刑事訴訟法で特に重要になります。

 

この2つの目的を達成するために、私は段階的に素読の範囲を増やし、具体的には、

(1)目次だけを読む

(2)目次と条文の見出しだけを読む

(3)目次と条文の見出しと本文を読む

の順に、条文を素読する範囲を増やしていきました。

 

(1)目次だけ読む

読書を効果的に行う方法論として、本の目次を意識して読み進める、というものがありますが、それを条文の素読に応用し、まずは各法律の冒頭の目次だけを素読の対象としました。

 

目次だけだとすぐに読み終えることができるので、短答・論文過去問の問題集・解説書や演習書を1冊読み終えた際、科目全体を振り返るために、目次だけを読んでいました。

 

目次だけで意味があるのか、と思われるかもしれませんが、例えば、民法の成年後見制度に関する条文は、総則編の「行為能力」の章(第1編第2章第2節)と、親族編の「後見」の章(第4編第5章)に分かれています。

 

繰り返し目次を読むと、このような、複数の章にまたがって一つの制度を定めている条文の配置を頭に定着させることができます。

 

また、特に会社法は目次が緻密に作られており、司法試験本番で問われる可能性が高い条文を、目次から素早く検索することが可能です。

 

例えば、募集株式の発行等をやめることの請求(会社法210条)は、株主側の立場から、不利な株式発行を阻止する手段の一つとして、受験生として押さえておくべき条文だと思います。

 

この条文は、会社法の「第2編 株式会社 第2章 株式 第8節 募集株式の発行等 第5款 募集株式の発行等をやめることの請求」に配置されていて、目次からそのものズバリの条文を探し出すことができます。

 

会社法に限らず、試験本番で探したい条文の条文番号が思い出せないときは、目次から探すことが時間短縮になります。

 

目次を繰り返し読み、各法律がどのような目次で構成されているかを熟知しておくことは、条文検索能力の向上に直結します。

 

(2)目次と条文の見出しだけ読む

司法試験の試験科目の中でも、民法・会社法は約1000条、刑事訴訟法は約500条、民事訴訟法は約400条と、条文の分量が多いです。

 

また、会社法に顕著ですが、複雑な構造の条文があったり、1つの条文が1ページ以上続くなど、単純に読むだけではやる気をそがれる可能性が高い条文も多くあります。

 

そこで、目次を複数回素読した次の段階では、法律の全体像をつかむため、目次に加えて、条文の見出しを素読することにしました。

 

例えば、会社法ですと、まず、目次を読んだ後、 「第一編 総則 第一章 通則 (趣旨)第一条 … (定義)第二条 … (法人格)第三条 … (住所)第四条 … (商行為)第五条 … 第二章 会社の商号 …」 という感じで、条文の本文は飛ばして、目次と見出し、条文番号だけを読んでいきます。

 

見出しを読んでいて、この見出しの条文に何が書いてあるか気になるな、とか、この条文は前に演習書で見た気がする、というものがあった場合には、条文の本文も確認するようにしていました。

 

ただし、目次と見出しを素読するのが目的なので、本文は読んでもさらりと目を通すだけにしていました。

 

条文の見出しを読むと、目次だけでは分からなかった、各法律の章・節・款の中にどのような条文があるかを把握することができるので、個人的には法律の全体像を把握するために大変有効だと思います。

 

特に、条文数の多い会社法は、見出しだけでパパッと素読していくことで、株式の章と新株予約権の章で同じような条文配置になっていることに気付くことができるなど、苦手意識の解消に効果があったと感じています。

 

(3)目次と条文の見出しと本文を読む

目次と条文の見出しを読むことに慣れてきた段階で、いよいよ条文の本文も含めた素読に移ります。

 

本文も含めての素読となると、かなりの分量になるので、編又は章の単位など、ある程度まとまった単位で区切って素読を行いました。

 

私の場合は、一日で法律全体の素読を終えられるのは、憲法や行政手続法・行政事件訴訟法など、100条に満たない法律だけで、他の法律は複数日に渡って素読を行いました。

 

条文素読が複数日に渡る場合には、編又は章を読み終えるごとに目次に戻り、前後の編・章を確認するなど、できるだけ、法律全体がどのような条文配置になっているかを忘れないように心がけました。

 

また、論文過去問や演習書で見たことがあるといった記憶を頼りに、「この条文は論文でよく聞かれているな」「この条文は短答でしか聞かれていないな」と、自分の頭の中で条文の重要度にランク付けをしながら素読を行いました。

 

会社法については、素読に要する時間に対して論文で出題される可能性が低いだろうと判断し、清算(475条~574条)や社債(676条~742条)の条文は、見出しの素読に留め、条文本文は素読しませんでした。

 

ただし、重要だとは思っていなかった条文が実は重要なものだったと後で気付くこともあるので、会社法以外の法律は、全ての条文を素読しました。

 

なお、学習用六法についている参照条文については、1つの条文をピンポイントに調べた際、関連する条文にたどり着くために有効だと思いますが、法律そのものではなく、市販の六法の編者が書いたものなので、素読の対象とはしませんでした。

 

素読に使用する六法

私の場合は、以下のように使用する六法を変えていきました。

(1)受験初年度にデイリー六法を購入

(2)初回の予備試験の論文試験後は、持ち帰った予備試験用法文を使用

(3)2回目の論文試験後から口述試験合格まではその年に持ち帰った予備試験用法文を使用

(4)予備試験合格後は、市販の司法試験用六法を購入

(5)初回の司法試験受験後は、持ち帰った司法試験用六法を合格まで使用

 

なお、刑事訴訟法には、オリジナルの法律には見出しがついておらず、憲法には見出しだけでなく目次もついていませんが、市販の学習用六法には各出版社が便宜上の目次と見出しを付けています。

 

そのため、刑事訴訟法・憲法について、目次・見出しの素読を行うためには、市販の学習用六法を使う必要があります。

 

また、デイリー六法を選んだのは、会社法の準用条文について、条文本文の中に、準用元の条文の見出しをカッコ書きで表示しており、読みやすかったからです。

 

(余談ですが、学習用六法にはポケット六法という王者がいるので、デイリー六法はより使いやすい六法になるよう、細かいところも含めて毎年工夫をこらしているように思います。)

 

学習の初期段階では、上記のように学習しやすいよう配慮された学習用六法を使用した方が、法律の全体像をつかみやすく、効果的だと思います。

 

受験2年目以降は、試験本番での条文検索を意識して、予備試験用・司法試験用六法を使用していました。

 

試験本番で配布される法文は、ポケット六法やデイリー六法とは大きさが違うので、試験本番で違和感を感じることがないよう、予備試験用・司法試験用六法に使い慣れておくことは大切です。

 

私は、受験2年目以降は市販の六法はほとんど使わず、憲法・刑事訴訟法の目次・見出しの素読に受験初年度に買ったデイリー六法を使う位でした。

 

施行規則について

会社法、民事訴訟法、刑事訴訟法については施行規則が短答・論文過去問や演習書で出題されています。

そこで、過去問・演習書で出題された規則は、法律の条文の側に書き込みをしておき、素読の際は、書き込みのある規則も読むようにしていました。

 

例えば、民事訴訟法133条の側に「規53」と書き込んでおき、民事訴訟法133条を読む際には、民事訴訟法施行規則53条もあわせて読む、という具合です。

 

民事訴訟法施行規則53条は、「訴状には、請求の趣旨及び請求の原因(請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し…(以下略)」と規定しています。

 

この条文は、「請求の趣旨」「請求の原因」「請求を理由づける事実」が異なる概念であることを定めている上に、「請求の原因」をカッコ書きにより定義しており、要件事実を考える上での立脚点となる条文として、民事訴訟法施行規則の中でも特に重要な条文だと思います。

 

その他にも、会社法では、株主総会における取締役等の説明義務が免除される場合に関する会社法施行規則71条や、刑事訴訟法では、法309条の異議申立ての事由について定める刑事訴訟法施行規則205条など、法律だけでなく規則まで読まなければきちんと理解することができない制度は多くあります。

 

ですので、過去問・演習書で規則が出てくると面倒に感じるところではありますが、自分が使用している六法に書き込みをしておくと、条文素読がより一層効果的になると思います。

 

なお、民事訴訟法と刑事訴訟法については、規則の重要性が特に高く、予備試験の法律実務基礎科目や口述試験で聞かれる可能性は充分にあり、司法試験で聞かれることもありえると考えていました。

 

そこで、法曹会『民事訴訟第一審手続の解説―事件記録に基づいて』と『刑事第一審公判手続の概要 〈平成21年版〉 - 参考記録に基づいて』を通読しながら、それぞれの本に出てくる規則を六法に書き込み、素読の対象に含めていました。

 

準用条文を定める条文

条文を素読していると、その条文を読んだだけではさっぱり分からない条文が出てきます。その代表的なものが、引用条文を定める条文です。

 

例えば、刑事訴訟法222条1項は、捜査段階における押収・捜索・検証について準用条文を定めていますが、222条1項だけを読んでもあまり意味はありません。

 

私も、刑事訴訟法の学習を始めてからしばらくの間は、この222条1項を見るたびに、どうしてこんなに準用条文が多いのだろうと苦手意識がありました。

 

ですが、これはもう諦めて一度読むしかないと、222条1項とあわせて準用されている条文を一気に確認してみると、222条1項が準用している条文と準用していない条文に意味があることに気付くことができました。

 

例えば、222条1項が準用している99条には、「…必要があるときは、証拠物…と思料するものを差し押さえることができる。」とあり、この規定は、差押えの範囲がどこまで認められるかが問題となる際の出発点となる条文です。これは確かに準用する必要があるなと分かります。

 

また、222条1項は、「…第110条から第112条まで、第114条…」を準用しており、113条は準用していません。そこで、113条を確認すると、113条は、検察官・被告人・弁護人が差押え等に立ち会うことができる旨を定めています。

 

そこで、捜査段階では差押え等への立会いは認められていないのか?と思って222条を確認すると、222条6項に、必要があるときは、被疑者に立ち会わせることができる旨が規定されています。

 

つまり、違う内容を定める必要があるから、あえて222条1項で準用しなかったのだとわかります。

 

そして、ここから、捜査段階と公判段階でなぜ異なる規定を設けたのかについて、自分で考えを巡らせることもできますし、演習書等の解説をより深く理解することも可能になります。

 

準用条文をまとめて規定している条文は、このように、準用している条文だけでなく、連続して準用している中で抜けている条文がある場合には、どうしてこの条文を準用しなかったのかを考えると、理解が深まります。

 

なお、刑事訴訟法222条1項については、私自身、平成27年度予備試験の口述試験で222条1項が準用する111条(必要な処分)について条文番号を回答することを求められました。

 

論文試験でも出題される可能性が高いところですので、面倒くさいことは諦めて、222条1項が何を準用して、何を準用していないかは、自分で六法を引いて確認しておいた方が良いと思います。

 

2~3回確認をすると、その後の刑事訴訟法の勉強がすごく楽になります。

 

なお、論文試験のことを考えると、準用条文の確認は、司法試験用又は予備試験用法文を用いて行った方が良いでしょう。

 

以上が、私が工夫してみた条文の素読方法です。論文を解く際の出発点は必ず条文になりますから、自分なりの方法で素読を行い、六法に慣れ親しんでおくことは重要な受験対策になると思います。