司法試験受験生に限らず、法律の勉強を始めた殆どの人にとって最初の大きな壁となるのが入門段階です。

 

私は法学部出身だったので、大学の講義で指定された芦部信喜『憲法』や、当時本屋に平積みだった内田貴『民法』(全4冊。当時は「ウチミン」と呼ばれていました。)から法律学に足を踏み入れたのですが、これらの基本書を読むと、「日本語として文章を追えるのに意味を理解できない」という不思議な感覚を感じるばかりで、法律を学ぶことが面白いとは思えませんでした。

 

上記の基本書は、私が大学生当時の流行りの基本書でしたが、1時間で5~10ページほどしか読むことができず、内田貴『民法』4冊を読むのに大学1年生の1年間丸々かかった上に、読んだ内容はほとんど記憶に残っておらず、落胆したことだけは今も覚えています。(今振り返るとなんて膨大な時間を無駄にしてしまったのだろうと思います。)

 

基本書が難しすぎるなら、と学者の先生が書いた入門書を読んでもその感覚は変わらず、自分は法律の勉強に向いていないのかな…と諦めかけていた頃、法律の面白さに気付かせてくれたのは、予備校の入門書です。

 

私は、大学時代は司法試験の受験を本気で考えていた訳ではなかったので、司法試験予備校のことはあまり意識していなかったのですが、大学の生協で『伊藤真の憲法入門』を読んで、何だこの分かりやすい本は!とびっくりしました。

 

それまで、つかみどころのない感覚だった日本国憲法が、憲法13条の個人の尊重原理を中心に体系立てるとこんなに分かりやすくなるのかと、感激と言える位の驚きと法律学の面白さを感じました。民法など他の科目についても、伊藤真の入門シリーズは同様の分かりやすさで、当時販売されていた六法全てのシリーズを一気に読み通しました。(今は、行政法と法学入門を含めて8冊出版されているようです。)

 

このシリーズを読んだことで、大学の講義や基本書が言っていることが、例えば「憲法のこの分野のこの論点についての議論を説明しているんだ」というように、自分の頭の中で体系として位置付けることができるようになり、法律を学ぶことがどんどん面白くなっていきました。

 

社会人になって、司法試験・予備試験の受験を決めたときも、まずはこのシリーズを読み直すところから始めました。自分が面白いと思えない勉強は理解が深まらず、長続きもしないですから、勉強の最初の一歩は、できるだけ分かりやすい教材からスタートするべきです。

 

なお、上記で文句をたれた内田貴『民法』ですが、大学卒業後も捨てずに取っておいたので、予備試験・司法試験の勉強を開始した後、辞書として使いました。他に民法の基本書は買わなかったのですが、予備試験・司法試験とも民法は比較的安定した成績だったので、辞書として必要十分な役割を果たしてくれたと思っています。(しばらく改訂がされていないようなので、現在の受験生があえて買う基本書ではないのでしょうが)

ですので、基本書は基本書で必要な場面はありますが、入門段階では、避けた方が無難です。

 

また、今では、学者の先生が書かれた本の中にも、初学者の学習にきめ細かく配慮されたものもあります。ですが、初学者に分かりやすく伝えるノウハウという点では予備校の方が蓄積があると思うので、法律を初めて学ぶ方には、やはり司法試験予備校が出版する入門書をお勧めします。他の予備校のものは読んだことがないので、私がお勧めするのはもちろん伊藤真の入門シリーズです。