クリスマス星のモミの木の秘密 | ✧︎*。いよいよ快い佳い✧︎*。

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主人公から見ても、悪人から見ても、脇役から見ても全方位よい回文世界を目指すお話




こちらの話を昨年書いてブログにあげた事で
かけがえのない繋がりとご縁を、
本当にありがたいメッセージを
たくさんたくさんいただきました。

このお話を読まれていなくても
わかっていただけるように書いていますが
よかったら、ぜひ併せて
私からのプレゼントとして
受け取っていただけたら幸せです
  
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  ーーどこかで誰かが妖精なんていないと言うたびに、妖精がひとり死ぬんだーー


  右から2番目に見える星にいる、永遠の少年はそう話していたという。
  
  だけどここ、クリスマス星では全く反対のことが起きる。

  どこかで大人の誰かが、夢なんて叶わない。幸せにはなれないと口にするとき、エルフたちが生まれるのだ。

  地球から431光年離れたところに輝くクリスマス星には、一本の巨大なモミの木がある。
  見上げても天辺がわからないほど大きく、首も腰も反り返るせいで痛くなってしまうくらいのモミの木。

  その、見えない頂点にある星がチカチカと虹色に点滅するときがある。それは、エルフが誕生する知らせだ。
  
   最初は、一人ふたりだったエルフの数が、気づくと100人を超えていた。
   いっとき、あまりにもエルフたちが増えてしまって、大賑わいになったことがある。 

   クリスマス星はとても小さくて、子どもたちの声や手紙を受け取る事務所、プレゼントを作るおもちゃ工場、ラッピングをほどこす仕上げルーム、保管庫、ソリやトナカイたちを休ませたりする場所などで、めいっぱい。

  だけどサンタさんは、ただ微笑んで、誕生したエルフの頭を優しく撫でてこう言うのだ。



「ようこそ、クリスマス星へ。よく生まれて来てくれた」


  エルフたちが増えるということは、それだけ、人間たちの心から希望が失われていっているということ。
  
  それならば、子どもたちじゃなく大人に贈り物を届けたほうが良いのではないのかと、生まれたばかりの新入りエルフがサンタさんに訊ねた。  

  すると、サンタさんは、これで良いのだとだけ答えて、「おや。また仲間を迎えに行く時間が来たようだ」と、モミの木の星の知らせを見て笑った。
  
 



  一番最初のきっかけは、太陽がしたクシャミ。
  そこで生まれた小さなほうき星は、広大な宇宙を走り抜けた。

   燃える身体の炎がわずかなものとなり、ああ、もう消えてしまうのだとわかったけれど、ほうき星は満足だった。
   駆けている間目にした光景は、永遠に等しいほど素晴らしいものだったから。

   だから、もう充分だ。そう思っていたのだがーー


  ズドーン‼︎ という衝撃を以って、ある星にぶつかった。
  完全に終わりを感じていたはずなのに、まだ意識がある。感覚もある。


「大丈夫?」

 
  どこからともなくかけられた、声も聞こえる。

   
「あなたが突然、私にぶつかってきたから、何とか怪我をしないように助けたかったのだけど……見ての通り、私には何もなくて」

  ごめんなさい、と謝られた。怪我をさせたのは、むしろほうき星の方なのではないだろうか。
  だって、とてつもなく巨大なクレーターを作ってしまっていたのだから。

  その声の主はわからないが、言われた通り周りには草一つ、花一本生えていない。
  山もなければ川もない、だだっ広い土の平面ばかりが広がっていた。


「ひとりぼっちで寂しかったから、友達が欲しいと願ったの。あなたの姿を見つけて」
「僕は流れ星じゃないのに?」
「違いなんてわからなかった。ただ、綺麗だなあって」


  よくよく話を聞けば、声の主はこの星そのものだと言う。
  思わず願いをかけたと言われて、ほうき星はちょっぴり照れ臭い気持ちになった。
  

 「これまでにも私に降り立った人たちはいたけど、何故かすぐに出て行ってしまったわ。とてもがっかりしていた。黄金があるわけじゃないのかって。だから、あなたが私と話をしてくれて嬉しいの」


 嬉しいと星が呟くと、ポンと音を立てて突如地面から芽が出た。
 それも、ほうき星だった自分の燃え跡地から。


「えっ⁉︎ これはどういうこと?」
「私にもわからないわ……! こんなこと初めてだから! 私に芽が出るなんて」


  喜びの色が乗った声が響くと、今度はその芽がぐんぐん上に向かって伸び始めた。 
  双葉が落ちてまた次の葉が出てーーまるで早送りをしているかのように、あっという間に、一本の樹になろうとしていく。


「あなたは誰なの? もしかして神さま?」
「まさか! 僕はただのほうき星だよ」

  
  ついさっき、燃え尽きて終わるはずだった、塵だ。


   星がじわじわと震えている。涙をこらえているようだ、とほうき星がぼんやり思っていると、今度は天から雨が降り始めた。
  すると、みるみるうちに辺りに緑が、花が芽生え、川が流れていく。

  まるで、これまで止まっていた時間が動き出したように。



「君は、友達が欲しいと願っていただけではないのかい?」
「ええ、そうよ。私は、私の願いを叶えるための夢の種を運んでくれる、友達が欲しいと願ったの」


  そして猛スピードで、星が口にした願いは、次々目の前で形になっていった。

  
  一年に一度でいい。この星から作り出したプレゼントを、この広大な宇宙に生きるたくさんの子どもたちにあげたい。

 すると、それを手伝うためにサンタさんが生まれ、プレゼントを作る工場ができた。
 
  プレゼントを配るソリを引いてくれる相棒は、サンタさんは当てがあるからスカウトをしに行くと瞳をキラキラさせたので、任せることになった。


  プレゼントを作る仲間はどうしようか? とほうき星が訊ねると、夢見る心を忘れてしまった大人たちがいいと言った。
  それが、エルフが誕生する仕組みの始まりだった。
  

  思っていた以上に大人たちの心は乾いていて、エルフは数えきれないほどになっていく。 

  それでも受け入れ続けて笑っていられたのは、クリスマス星から生まれたサンタさんには、何もかもが見えていたからだ。



  ある年のクリスマスが終わったときだった。

  今年もお疲れさまの意味を込めて、巨大なモミの木にオーナメントや灯りの飾りを、エルフたちが一つずつつけるのが恒例で。

 そうして気づけば鮮やかな明かりに彩られ、華やいだツリーになり、感嘆の声が漏れているなか、サンタさんがエルフたちにご褒美をくれることになったのだ。

  今年の分のオーナメントを飾りながら、サンタさんからの思いがけない提案を聞いたエルフたちは、頰を薔薇色に染めて口々に手を上げて頼んだ。


  人間の子どもになりたい! って。


  サンタさんは驚きながら、ひときわ嬉しそうな目をして、約束した。その願いを叶えることを。

  エルフたちは、自分もプレゼントをもらう側になりたい、子どもたちと友達になりたいと、胸をときめかせていた。  

  そんなエルフは、クリスマス星でのことを忘れるために眠りについたまま、サンタさんの贈り物の箱のなかに入った。
  プレゼントを受け取るには、クリスマス星での働きを覚えていないことが条件だったからだ。

  だけどなかには、プレゼントはいらないから、手を繋ぎにいきたい、ぎゅっと抱きしめにいきたい、そんな風に願うエルフもいた。


「泣いているのがわかっても、助けることも、声をかけることも、温めてあげることもできなかったから、家族になって傍にいたいんです」

  
 すでに、誰のところへ行きたいかまで決めていた。


 「そこに行くのは、とても大変かもしれないよ。それでも、そうしたいかい?」


  サンタさんが、真面目な顔つきで見つめた。それは、まるで最後の確認を取るように。


「はい。それでもです! ここに行かなければ、意味がありません」

  
  強い眼差しで答えるエルフを見つめて、サンタさんは特別に、その気持ちを持ったまま、人間の子どもになることを許してくれた。

  そして、自分がこうと決めた家に、サンタさんに送り届けてもらったのだ。

  エルフはクリスマス星に変わらず誕生しているけれど、人間の子どもになるエルフも少しずつ増えて、巨大なモミの木の飾りも一層華やかになっていく。

 ここにいるエルフは、大人たちのなかにある忘れ去られた夢でできている。けれどその夢は、自ら望んでまた元の場所へ還っていくのだ。


 だから今日も、サンタさんは一番にエルフを迎え、微笑んで祝福をする。


「ようこそ、クリスマス星へ。よく生まれて来てくれた」


 モミの木のてっぺんに輝く、ほうき星が知らせる合図に目を細めながらー……





「黄金があると思ってがっかりしていく、と言っていたよね。それは、きっと君がピカピカだからなんだ」
「ピカピカ?」
「気づいていなかったんだね。君はまるで太陽が自分で燃えているように明るいのに、月のように熱くない。本当に、ピカピカ光っているのさ」


  地球では、このクリスマス星のことを北極星と呼ぶらしいと、サンタさんが教えてくれた。


「道に迷ったら北極星を探せばいい、なんて言われていたんだって」
「そう……そうなの。そうなの……」


  星の涙は雪になった。冷たくはない、溶けもしない。口に含むとわたあめのように甘い、不思議な雪になった。


  迷子になった人を照らしてあげたい……


  星の一番の願いは、ほうき星が衝突する前から、とっくに叶っていたのだと知って。


 
「ありがとう。やっぱりあなたは流れ星なのよ。私の願いを叶えてくれたの」


  燃え尽きるはずだったほうき星がぶつかった、ひときわ明るい星。それがクリスマス星。
  
  奇蹟に奇蹟を重ねて起きたクリスマス星の秘密は、ほうき星と、クリスマス星の化身であるサンタさんしか知らない。

  クリスマス星は、鈴の音に耳を澄ませ、旅立つエルフたちを見送りながら、どこにいても必ず目に映るように光る。


  金銀財宝が眠ると間違われて海賊に狙われても、どんなにがっかりされても。 
  その気持ちだけは今も変わっていない。


  みんなが道を見失わないように。
  寂しくならないように。
  迷子になんてならないように……遠く離れたここからいつも、君たちを照らしているんだよーー。





【クリスマス星のモミの木の秘密】



End.


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お読みいただき
本当にありがとうございました

実は先程閃いて出来上がったものです。

皆さまの過ごされる聖夜が、
たくさんの愛と温もりで
満たされていますように……

Merry Christmas!