KAN が亡くなってしまった。
闘病中であることは知っていたけれど、今月上旬、公式アカウントの「解禁で〜〜〜す!!!」という投稿とともに一部の作品がサブスク解禁されたと知って喜んだし、その数日後にはビートルズの “新曲” の MV を「やっと観た!」と投稿していて動きがあったから、え?そんな…と固まってしまった。
KAN は、間違いなく、私の音楽の好みや音楽に対するスタンスみたいなものを形作ってくれたアーティストの一人だ。
「愛は勝つ」が有名で私も「愛は勝つ」で知ったと思うのだが、それで知ったということを忘れてしまうくらいに、アルバム『野球選手が夢だった。』にぶっ飛んだ。
そのころ私は洋楽などほとんどちゃんと聴いてなく、「日本語の歌」ばかり聴いていたわけだけど、その歌詞の大抵が「歌詞用の日本語」って感じだったのに対し、KAN の歌は普段喋ってる言葉がそのまま歌になったような、こんな普段の会話みたいのが音楽になるんだ!?という驚きがあり、何より鮮やかだった。しかもそれが全部気持ち良いし、「Happy Birthday」なんて衝撃だった。
“どっちだっけ ねえ あのこの好みは えっと
シャンパン ワイン それともシェリー?”
なんて出だしから最後の最後まで、シャンパンの蓋がシュパン!シュパン!と次から次へと開けられていくようだった。言葉によってメロディが踊り出すのか、メロディによって言葉が踊り出すのか。こんな音楽聴いたことない!
どれも歌詞と音楽が切り離せなくて、「歌詞だけ思い出す」とか「曲だけ思い出す」ということができない。歌詞を思い出したら曲が流れ出すし、曲を思い出したら歌詞が鳴り出してしまう。
「けやき通りがいろづく頃」の奥深さは以前書いたし(『ROMANCE』に触発されて)、「恋する二人の 834km」で 834km ってどれくらいだろうって思ったし、「千歳」に描かれた男女の一筋縄ではいかない感情、「1989 (A Ballede of Bobby & Olivia)」のストーリーテリング。私がポップ・ミュージックにオペラとかミュージカルとか組曲を感じたのは、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」より KAN の「1989」が先だと思う。クーラ・シェイカーの「303」を聴いたときは、KAN の「青春国道202」が先だ!とか思ったし。
次のアルバム『ゆっくり風呂につかりたい』では、もっとすごいことになってて、いきなり “ぼくは確かに変な顔の男(ひと)” だもの。“変な顔” って武器になるのか!ってはじめて思ったよ。自分で堂々と歌っちゃうんだからね。“変な顔なら時間かかってもしょうがないでしょう” って、知らんわ! “気をおとすなよ 変な顔の男” って、こっちが慰められちゃったよ!
同じころ “東京少年” も好きだったけど、ルッキズムとかジェンダーとか、私、KAN とか笹野みちるからとっくに食らってたわ!
かと思えば、「プロポーズ」の良い男ぶり、「永遠」のちょっと怖いくらいの神聖さ。
「信じられない人」では、“いきなりラテン系のノリだしてごめんね” って、曲についての歌詞って良いんだ?みたいな。
「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」も大好きだったけど、この曲は「愛は勝つ」と対をなしてる気がする。
「恋人」もさり気ないけど、本当すごい。「ときどき雲と話をしよう」もね。
ホント、語り出すとキリがない。
ミスチルの「Over」を聴いたとき、KAN じゃん!って思ったし、KAN を聴いてたおかげでそこまでミスチルをありがたがらずに済んだのかも知れない。(aiko も KAN 大好きだよね)
それから十数年後、浜崎あゆみのコンサートの音楽監督に小林信吾の名前を見つけたとき、私はすぐに KANだ!と思って嬉しくなった。小林信吾は、「愛を勝つ」もそうだし、KAN とたくさんの名曲を作ってる。あゆは信吾さんのことを「ボス」と呼び、今でもそう思っているんじゃないかなぁ。
その小林信吾も 2020年に亡くなっている。
KAN のことは、アルバム『東雲』くらいまでは聴いていたけど、他にいろんなアーティストを好きになって、聴かなくなっていた。
けれど、変わらず好きだったので、2001年 2月に「KAN CONCERT TOUR -2001年 宇宙の旅-」を観に行った。さいたま市じゃなくて浦和市だったころ。結局、KAN のコンサートを観ることができたのはその一回きりになってしまったけど、宝物だ。「愛は勝つ」を生で聴けて感動した。
訃報があった日の夜、こんな話が飛び込んできた。
その日、山崎まさよしのコンサートがあって、KAN の話があったという。山崎まさよしと KAN は「YAMA-KAN」というユニットを組んでリリースもしてるんだって。私は知らなかったよ。
山崎まさよしといえば、つい最近、数曲しか歌わず払い戻しになったというニュースがあった。
山崎まさよし、公演について謝罪しチケット払い戻し「当初予定していた内容と異なる公演となった」
https://hochi.news/articles/20231023-OHT1T51215.html
そのニュースがあった後、病床の KAN から電話があり、KAN は「山崎を知ってる人も知らない人も、歌を聞きに来てるんだから、歌わなきゃ駄目だよ」と叱ったという。それが最期になってしまった、叱って逝かれたと。
その話をした後、山崎まさよしは涙しながら「僕はここにいる」を歌ったそうだ。
この話を聞いて、私はしばらく眠れなかった。
なんて素敵な人を好きになったのだろう。
音楽って、人間って、素敵だね。
話してくれた山崎まさよしさん、そのことを投稿してくれた方、本当にありがとう。
そうだなぁ。
私は、東京を歌わせたらエレファントカシマシが日本一!いや、世界一!と思っているのだけれど、KAN だってすごいんだ。良かったら、この 2曲だけでも聴いてみてくれないか。歌詞を読んでみてくれないか。
「東京ライフ」
私は、ベストアルバム『めずらしい人生』のリテイクバージョンで聴いた。まだ中学生か高校生で、働いたこともなかったけど、働くってこんな感じなのかと思った。実際働くようになって、より響いた。学生のときも、社会人になってからも、そして今も、響く。
“雨が降っても 道をえらべば 傘をささずに歩ける
きずつかないで 生きてくために 時々 自分もだます”
“いくら好きでも 信じあっていても それぞれ 言い分はあり
小さなことを ほっておけなくて 大事なこと見失う”
「まゆみ」
“決して自分のことせめたりしないで”――この言葉に何人の人が救われるだろう。可もない、不可もない。それは深刻、これも深刻。
“ひとはだれもみな
それぞれの悲しみを抱きしめ
いつも夢を見てるよ
きっとだれかに
小さな叫びがとどく日まで”
ってところで決まって泣きそうになる。
どうだろう?
東京を歌わせたら世界一のエレファントカシマシにも負けてなくないですか?
(なぜだかこれをエレカシ好きな方に聴いて欲しいのです。信吾さんのこともあるから、あゆ好きな方にも聴いて欲しいのです)
まだまだたくさん良い曲あるし、私もすべて聴けてないので他にもいろいろあるのだろうけど、今思ったのはこの「東京ライフ」と「まゆみ」でした。
KANさん。
最後がビートルズの新曲についての投稿だなんて、あまりにも KANさん過ぎるよ。
東京ドームでのポール・マッカートニーのコンサートでお見かけして、人がたくさんいるにも関わらず、握手していただきました。
あなたが “やまだかつてないWink” に提供した曲が、「さよならだけどさよならじゃない」でしたね。
本当にありがとうございます。