先日、耳を疑うような情報が入ってきました。
がんの治療に、
イソジン(ヨウ素)を飲む?!
がん専門の医師でもなんでもない医師の思いつきが、メールや口コミなどで広まったそうです。
朝日新聞記者の長野剛氏の記事を
引用させていただきます。
https://m.huffingtonpost.jp/amp/2018/09/09/isojin-milk_a_23518877/
(以下は長野剛氏の記事の本文からの抜粋の一部です。青字部分)
医師が提唱「イソジン⽜乳」の怪 うがい薬入りの牛乳でがんが消える?メールと⼝コミで拡散も
(本文引用、青字部分)
(提唱者の)医師のメールは、イソジンを牛乳100㏄に1滴の割合で混ぜ、24時間冷蔵庫で寝かせたものを毎日飲むことを勧めている。
(中略)
■提唱者の医師「とにかく勧めているだけだ」
果たしてどのような根拠で、医師はイソジン牛乳を提唱し、広めているのか。2017年11月、西日本の地方都市を訪ね、話を聞いた。
この医師は、市内にビルを構える病院の80歳代の理事長だった。専門は整形外科で、病院でがん患者を診ることはないと話した。
それがなぜ、がんの治療法を提唱するのか。
「とにかく考えることが好きでなぁ」
大学卒業後、研究者の道に関心があったものの、父親の経営する病院で働くために帰郷。若い頃に学んだ細胞組織学の知識を元に、様々な仮説を考えるようになったという。
自らの考えを裏付けるための実験などは行わなかったが、1990年前後から、考えを論文にまとめ、学術誌に投稿するようになった。
「これがなぁ、さっぱり採用してもらえんのよ」
あるとき、採用を断られたある学術出版社から、「メディカル・ハイポッセシーズ」という学術誌の名前を耳にする。日本語に直せば「医療仮説」になるこの学術誌は、医学に関連して「考えたことを書く学術誌」だと聞き、そこに投稿した。
「論文を送ったら大歓迎で」「掲載料はとられた。ナンボか忘れたけど」
初の論文掲載が1992年。その後もメディカル・ハイポッセシーズに投稿を続け、計17編の論文を発表した。そのうち2002年に発表されたものがイソジン牛乳についてのもの。独自のがん理論に基づく治療法の提案だった。
論文はまず、がんは、細胞が細胞分裂を繰り返し、成熟していく過程で、細胞分裂が失敗して発生するものだと説く。失敗する原因は、細胞分裂で生まれる不純物だ、とする。
一方で、がんは十二指腸では「発生しない」(実際は少ないながら発生する)ことから、十二指腸の消化酵素が細胞分裂を失敗させる悪い物質を分解し、がんを防いでいると、論文では考察している。
イソジン牛乳の仕組みについて、「消化酵素を全身に広げたら、全身のがんが無くなるんじゃないかということ」と医師は説明した。
普通は腸内にとどまっている消化酵素を、ヨウ素の力で血液に送り込み、全身をめぐらせる。すると、酵素の力でがんが防げるのではないか。それを可能にし得るのが、ヨウ素と牛乳の脂肪が結びついた沃化脂乳液。つまり、イソジン牛乳という論理だ。
とはいえ、医師1人の「考え」だけでは普通、「治る」とは言えないはず。「論より証拠」の言葉の通り、実際に医療の世界では、「実際に人に試して有効だった」と確認されたものだけが、有効な治療法として認められている。
そうした根拠についても聞いた。
「記憶にあまりないが、5~6人は治った人はいる」
「彼らの主治医は沃化脂乳液(イソジン牛乳)で治ったとは言わん。抗がん剤とかで治ったと言うわけ」
「けしからんと思っとるね」と、医師は話した。しかし、患者が主治医の治療も受けていたなら、その治療で治ったと考えるのも自然だ。論理的に、イソジン牛乳だけで治ったと言い切ることができる根拠を、医師が取材に示すことはなかった。
医師は、イソジン牛乳療法を紹介するメールを、全国の「おそらく100団体を超えている」数の患者会に送り続けてきた、と説明した。情報を伝え聞いたがん患者が医師を訪ね、教えを請うこともたびたびあったという。「治った」というのは、そうした人々からの報告が根拠だと語った。
なぜ、自説を拡散するのか。医師は「がんが治る人が増えて欲しいわけや」と語る一方、患者が試すことで、イソジン牛乳ががんを治すかどうかの情報を得たい、という意図があることも認めた。
自らの考え以外に「根拠」がない療法を患者に勧めることへの責任の認識についても、聞いた。
「患者には必ず主治医がいて、相談すれば主治医がやめなさいと言う。それでも(イソジン牛乳を)やる人に期待している」。そして「エエことじゃないかもしれんね」とも話した。根拠のないまま患者に試す行為の是非については、「自分がしているわけではない。とにかく勧めているだけだ」と説明した。
■イソジン牛乳、専門家は「単なる空想と同じ」
こうした行為や考えについて、国立がん研究センター(東京・築地)のがん対策情報センター長として、一般向けにがんに関連する情報を発信している若尾文彦医師に聞いた。
若尾さんにはまず、十二指腸の消化酵素によるがん予防効果に関する研究を探してもらった。研究者向け論文検索サイトで調べた限りでは、イソジン牛乳提唱医師の論文以外はなかった。従って、この独自理論が研究者によって検証されたことはなく、「根拠」は医師の論文以外にないことになる。
その上で、医師の論文も、読んでもらった。
「仮説に仮説を重ねた非論理的な推論に過ぎません。それぞれの仮説を証明する実験データもなく、単なる空想と同じです。科学的根拠としての信頼度は最低のレベルと考えます」
そして、そうした仮説に基づいた療法を不特定多数の患者に伝えることの倫理的な是非については、「仮説を実証するために実施するということであれば、問題だと思います」と指摘。主治医の治療との併用で「治った」という「5~6人」のケースが、治療効果に対する根拠になるかについても、若尾さんは「根拠性があるとは言えません」と否定した。
がん専門家の視点に照らせば、全く肯定の余地がないイソジン牛乳療法。ただ、その理論は学術誌、メディカル・ハイポッセシーズに掲載され、医師自身、それで「自信が付いた」と語っている。
メディカル・ハイポッセシーズのサイトは自誌について、「従来の学術誌に拒否されるような過激な仮説に、発表の場を提供する」と説明する。出版元のエルゼビアは、多数の専門誌を出版する学術出版界の大手。日本法人から、英国にいるメディカル・ハイポッセシーズ編集者のメールアドレスを聞き、編集方針を尋ねた。しかし、送信から半年以上経っ9月現在、返信はない。
若尾さんは「学術誌もピンからキリまであることは、残念ながら事実。編集方針を理解して読むだけなら許容範囲ですが、悪意がないにしても、論文投稿者らに誤解を生むようなことがあれば、有害と考えざるを得ません」と批判した。
(引用ここまで)
イソジン牛乳については、TwitterやFacebookで多数の医師が非難されていました。
大須賀 覚 医師もそのおひとりです。
「こんなことが許されるのかと呆然。癌の専門家でもなく、癌患者の診療すらしていない医師の、ただの思いつきが広まって、癌患者が惑わされている。個別症例の結果を見ても、治療効果は判定できないという基礎も知らない。癌患者のためにという思いがあったとしても許されない。」
(大須賀覚医師のTwitterより )
https://twitter.com/satoruo/status/1039065965097623553?s=21
ここからは、私の意見です。
記事の最後のところで大野智医師への取材で書かれていたことに注目します。
「イソジン牛乳の場合、根拠薄弱な療法を医師が勧めるという点でそもそもルール違反。ですが、こうした療法が広がる現状には、通常の医療現場で患者さんの不安に対するケアが十分行われていない、という背景もあると思います。患者さんの心のケアをはじめとして、医療界全体で取り組むべき課題です」
大切なのは、がん患者リテラシーと、心のサポートなのかもしれないと私は感じます。
まず、患者自身が患者リテラシーを高めること。
自身の病の進行度(現状)と、ベストな治療法をしっかり主治医に聞くこと。話すこと。自らも勉強すること。
治療については、主治医のお話を聞いて、話し合える関係でいたいです。
そのためには自身の病気について学び、知識を得ることが必要になってきますし、当然に、主治医と良い関係性を築いておきたい。
その上で、多忙な主治医とのコミュニケーション不足を、フォローしてくれる医療チーム(緩和ケアチーム)との連携もあってほしいですね。
.私の場合は、臨床心理士さんと、専属の看護師さんが、心と治療のサポートをしてくださっています。
これはがん専門病院の強みだと思います。
有難い環境です。
いずれにしても、、、
たとえ他人からは「おまじない」と言われてしまうような民間療法でも、それが心の安定になるなら、そのかたには効果があるのだと思います。。
実際、そういった民間療法で効果があったと言われている方もいらっしゃいます。
しかし、身体に害があるような根拠のない治療法には注意が必要だと感じます。
「メーカーによればイソジンは、正規のうがい薬としての使用ですら、副作用の報告例がある」
だそうです。
「神よ、願わくばわたくしに
変えることのできない物事を
受け入れる落ち着きと
変えることのできる物事を
変える勇気と
その違いを常に見分ける知恵とを
さずけたまえ」
by ニーバの祈り
今に生きる❣️