早川書房編集部・編 『伊藤計劃トリビュート』

 

 

 

 

 

 

伊藤計劃が2009年にこの世を去ってから早くも6年。彼が『虐殺器官』『ハーモニー』などで残した鮮烈なヴィジョンは、いまや数多くの作家によって継承・凌駕されようとしている。伊藤計劃と同世代の長谷敏司、藤井太洋から、まさにその影響を受けた20代の新鋭たる柴田勝家、吉上亮まで、8作家による超巨大書き下ろしアンソロジー。(Amazonより)

 

 

 

 

早川書房はいつまで伊藤計劃の名前で商売するつもりだ、というツッコミはさておいて、伊藤計劃以後のSF作家たち(中堅から新人まで)が集まった700ページ超えの巨大アンソロジーである。

 

 

自作シリーズの一編だったり、今後出す長編の一部だったりするものもあるが、とにかくどれもレベルが高い。

 

 

 

収録作は、

 

 

藤井太洋 「公正的戦闘規範」

 

伏見完 「仮想(おもかげ)の在処」

 

柴田勝家 「南十字星(クルス・デル・スール)」

 

吉上亮 「未明の晩餐」

 

仁木稔 「にんげんのくに」

 

王城夕紀 「ノット・ワンダフルワールド」

 

伴名練 「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」

 

長谷敏司 「怠惰の大罪」

 

 

 

 

どれも甲乙つけがたい面白さだけど、個人的には「仮想の在処」と「にんげんのくに」と「ノット・ワンダフルワールド」と「怠惰の大罪」がお気に入り。

 

 

 

特に巻末の「怠惰の大罪」はあまりにも別格で、SFだとか伊藤計劃だとかどうでもよくなってくる。

 

 

話は、キューバを舞台にした死と暴力が吹き荒れる麻薬戦争、そこで麻薬王にのしあがったカルロス・エステべスの物語だ。

 

 

SF要素はほとんど無いに等しい。(人工知能が密売人捜査の役に立っているくらい)

 

 

描かれるのはひたすらに、腐った人間たちが集うキューバの一角で流される血、渦巻く暴力、路上のゴミのように日常的な死。

 

 

この中編だけ他と毛色が違い過ぎるので、ここに収録したのは正しかったのかと思うくらいに凄い。

 

 

 

これがまだ長編の第一章だとは。

 

 

早く完成した長編が読みたい。

 

 

 

 

分厚いし値段もそこそこ(とはいえこのページ数にしては安い)だけど、傑作揃いのアンソロジーです。