早川書房編集部・編 『伊藤計劃トリビュート』
![]() | 伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA) 1,231円 Amazon |
伊藤計劃が2009年にこの世を去ってから早くも6年。彼が『虐殺器官』『ハーモニー』などで残した鮮烈なヴィジョンは、いまや数多くの作家によって継承・凌駕されようとしている。伊藤計劃と同世代の長谷敏司、藤井太洋から、まさにその影響を受けた20代の新鋭たる柴田勝家、吉上亮まで、8作家による超巨大書き下ろしアンソロジー。(Amazonより)
早川書房はいつまで伊藤計劃の名前で商売するつもりだ、というツッコミはさておいて、伊藤計劃以後のSF作家たち(中堅から新人まで)が集まった700ページ超えの巨大アンソロジーである。
自作シリーズの一編だったり、今後出す長編の一部だったりするものもあるが、とにかくどれもレベルが高い。
収録作は、
藤井太洋 「公正的戦闘規範」
伏見完 「仮想(おもかげ)の在処」
柴田勝家 「南十字星(クルス・デル・スール)」
吉上亮 「未明の晩餐」
仁木稔 「にんげんのくに」
王城夕紀 「ノット・ワンダフルワールド」
伴名練 「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」
長谷敏司 「怠惰の大罪」
どれも甲乙つけがたい面白さだけど、個人的には「仮想の在処」と「にんげんのくに」と「ノット・ワンダフルワールド」と「怠惰の大罪」がお気に入り。
特に巻末の「怠惰の大罪」はあまりにも別格で、SFだとか伊藤計劃だとかどうでもよくなってくる。
話は、キューバを舞台にした死と暴力が吹き荒れる麻薬戦争、そこで麻薬王にのしあがったカルロス・エステべスの物語だ。
SF要素はほとんど無いに等しい。(人工知能が密売人捜査の役に立っているくらい)
描かれるのはひたすらに、腐った人間たちが集うキューバの一角で流される血、渦巻く暴力、路上のゴミのように日常的な死。
この中編だけ他と毛色が違い過ぎるので、ここに収録したのは正しかったのかと思うくらいに凄い。
これがまだ長編の第一章だとは。
早く完成した長編が読みたい。
分厚いし値段もそこそこ(とはいえこのページ数にしては安い)だけど、傑作揃いのアンソロジーです。