ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 『故郷から10000光年』

 

 

 

 

 

 

粒子加速研究所の大惨事が、地球を壊滅させ、ひとりの男を時間の乱流へと押し流した。だが男の意志は強かった。彼はおのれの足で失われた“故郷”へと歩いて帰るべく、遥かなる旅に出立したのだ―。「故郷へ歩いた男」ほか、ティプトリーの華麗なるキャリアの出発点である「セールスマンの誕生」、最高傑作と名高い「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」など、全15篇を収録するSFファン待望の第一短篇集。(Amazonより)

 

 

 

 

『たったひとつの冴えたやりかた』や『愛はさだめ、さだめは死』などでおなじみ、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアのデビュー短編集。

 

 

収録作は、

 

 

「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」

 

「雪はとけた、雪は消えた」

 

「ヴィヴィアンの安息」

 

「愛しのママよ帰れ」

 

「ピューパはなんでも知っている」

 

「苦痛志向」

 

「われらなりに、テラよ、奉じるはきみだけ」

 

「ドアたちがあいさつする男」

 

「故郷へ歩いた男」

 

「ハドソン・ベイ毛布よ永遠に」

 

「スイミング・プールが干上がるころ待ってるぜ」

 

「大きいけれども遊び好き」

 

「セールスマンの誕生」

 

「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」

 

「ビームしておくれ、ふるさとへ」

 

 

 

 

通底するテーマは、“故郷”。

 

 

どの短編の登場人物も、いまいる故郷、あるいは遠く離れた故郷を切実に追い求め、必要としている。(それは著者自身にも通ずるテーマらしい)

 

 

 

ティプトリーの文章は、時になにがなんだかわからなくなる斬新さがあって、お世辞にも読みやすいとは言えないものが多いし、この本にもそういう短編がいくつかある。

しかし読み進めていくとそれにも段々慣れてきて、むしろその手法が魅力にさえなっていく。

 

 

 

本書は第一短編集だからか、意外なほどコメディタッチなものも多い。

 

 

でも個人的に気に入ったのは、「ヴィヴィアンの安息」、「苦痛志向」、「故郷へ歩いた男」、「ビームしておくれ、ふるさとへ」などのシリアス系かな。

 

 

特に巻末の「ビームしておくれ、ふるさとへ」は、あまりにも切実な“故郷”への望念に、こちらの胸まで苦しくなる。

 

 

これだけ毛色が違うけど、ティプトリーという作家を知るうえで欠かせない傑作だと思う。

 

 

 

 

 

というわけでおすすめなんですが、もう絶版になっており、電子化もされてないので読みたいときは古本を手に入れるしかないのが残念。