酉島伝法 『皆勤の徒』
皆勤の徒 (創元SF文庫)/酉島 伝法

¥1,037
Amazon.co.jp
百メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手はそこで日々、異様な有機生命体を素材に商品を手作りする。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物だ。甲板上と、それを取り巻く泥土の海だけが語り手の世界であり、そして日々の勤めは平穏ではない―第二回創元SF短編賞受賞の表題作にはじまる全四編。連作を経るうちに、驚くべき遠未来世界が読者の前に立ち現れる。現代SFの到達点にして、世界水準の傑作。文庫化に際し、著者によるイラストを5点追加。(Amazonより)
デビュー作にして日本SF大賞を受賞した異形の連作中編集。
文庫化の帯に書かれた円城塔の惹句が実に的確。
曰く、「地球ではあまり見かけない、人類にはまだ早い系作家」
収録作は、
「皆勤の徒」
「洞(うつお)の街」
「泥海(なずみ)の浮き城」
「百々似(ももんじ)隊商」
序章と終章に加え、各編のあいだに断章もある。
とにかく凄い。
なにが凄いって、全部が凄い。
ページを開いて目につくのが、夥しい造語で構築された異形の世界。
表題作のあらすじとしては、頭のおかしい社長に使役されるうだつのあがらない社員の日常……といったもの。しかしその世界はおよそこの世のものとは思えない状態になっており、主人公とおぼしき従業員の名前は「グョヴレウウンン」だったりする。
他にも「隷重類(れいちょうるい)」「皿管(けっかんもどき)」「體内(たいない)」などなど、ふりがな無しには読めない独特の言語が津波のように押し寄せて、1ページごとの密度が尋常じゃない。
むせかえるようなぐちょぐちょねちょねちょな世界を舞台に、やがておぼろげに見えてくる“人類”の断片。
ちなみに、表紙に描かれている変な生物は「外回り」と呼ばれる。
「智天使(ケルビム)」と呼ばれることもあり、その理由はのちのちわかる(かもしれない)。
それに加えて、著者自身が描いたという挿絵がまた凄まじい。
『風の谷のナウシカ』のグロい部分だけを練り上げたような異形っぷりと繊細な筆で、この世界を想像する際の大きな手助けとなる。
この挿絵がなかったら、著者の創り上げた世界の半分もイメージできなかっただろう。
書店でパラパラッとページをめくってみるだけで、この本があまりにも異質だということはすぐわかるのでぜひどうぞ。
そんなだから、一見これはぐちょねちょの世界を舞台に気持ち悪い生物が跋扈する幻想小説なのかと思うところだが、実は遠未来の人類を描いたハードSFなのである。
巻頭の表題作が(たぶん)一番未来の話で、一番わけがわからない。
読み進めていくうちに、徐々にこの世界がどういうものなのか、どういった経緯でこうなってしまったのかが、なんとな~くわかってくる(そんな気になる)仕組み。
解説にもあるように、最後の「百々似隊商」が一番わかりやすいというか読みやすいので、これから読んでみるのもアリかもしれない。(ジブリで映画化してもいいんじゃないかと思ったけど、ダメかな)
自分はなんとなく「こういうことだろうか……」と理解しながら読み進め、大森望氏の解説でくっきりとした輪郭を得た気がする。
氏の言う通りなら、これは確かにSF以外のなにものでもない。
物凄くわかりにくく書かれた、ウルトラハードSFといえよう。
それにしたって、なにもここまで異形にしなくても……と思うくらい、異形だ。
そんなわけで、決して万人におすすめはできないが(途中で挫折した人も多いらしい)、日本SFの新たな指標となりうる大傑作であることは間違いない。
読み応えのある小説を欲する向きには必読の書です。
皆勤の徒 (創元SF文庫)/酉島 伝法

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百メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手はそこで日々、異様な有機生命体を素材に商品を手作りする。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物だ。甲板上と、それを取り巻く泥土の海だけが語り手の世界であり、そして日々の勤めは平穏ではない―第二回創元SF短編賞受賞の表題作にはじまる全四編。連作を経るうちに、驚くべき遠未来世界が読者の前に立ち現れる。現代SFの到達点にして、世界水準の傑作。文庫化に際し、著者によるイラストを5点追加。(Amazonより)
デビュー作にして日本SF大賞を受賞した異形の連作中編集。
文庫化の帯に書かれた円城塔の惹句が実に的確。
曰く、「地球ではあまり見かけない、人類にはまだ早い系作家」
収録作は、
「皆勤の徒」
「洞(うつお)の街」
「泥海(なずみ)の浮き城」
「百々似(ももんじ)隊商」
序章と終章に加え、各編のあいだに断章もある。
とにかく凄い。
なにが凄いって、全部が凄い。
ページを開いて目につくのが、夥しい造語で構築された異形の世界。
表題作のあらすじとしては、頭のおかしい社長に使役されるうだつのあがらない社員の日常……といったもの。しかしその世界はおよそこの世のものとは思えない状態になっており、主人公とおぼしき従業員の名前は「グョヴレウウンン」だったりする。
他にも「隷重類(れいちょうるい)」「皿管(けっかんもどき)」「體内(たいない)」などなど、ふりがな無しには読めない独特の言語が津波のように押し寄せて、1ページごとの密度が尋常じゃない。
むせかえるようなぐちょぐちょねちょねちょな世界を舞台に、やがておぼろげに見えてくる“人類”の断片。
ちなみに、表紙に描かれている変な生物は「外回り」と呼ばれる。
「智天使(ケルビム)」と呼ばれることもあり、その理由はのちのちわかる(かもしれない)。
それに加えて、著者自身が描いたという挿絵がまた凄まじい。
『風の谷のナウシカ』のグロい部分だけを練り上げたような異形っぷりと繊細な筆で、この世界を想像する際の大きな手助けとなる。
この挿絵がなかったら、著者の創り上げた世界の半分もイメージできなかっただろう。
書店でパラパラッとページをめくってみるだけで、この本があまりにも異質だということはすぐわかるのでぜひどうぞ。
そんなだから、一見これはぐちょねちょの世界を舞台に気持ち悪い生物が跋扈する幻想小説なのかと思うところだが、実は遠未来の人類を描いたハードSFなのである。
巻頭の表題作が(たぶん)一番未来の話で、一番わけがわからない。
読み進めていくうちに、徐々にこの世界がどういうものなのか、どういった経緯でこうなってしまったのかが、なんとな~くわかってくる(そんな気になる)仕組み。
解説にもあるように、最後の「百々似隊商」が一番わかりやすいというか読みやすいので、これから読んでみるのもアリかもしれない。(ジブリで映画化してもいいんじゃないかと思ったけど、ダメかな)
自分はなんとなく「こういうことだろうか……」と理解しながら読み進め、大森望氏の解説でくっきりとした輪郭を得た気がする。
氏の言う通りなら、これは確かにSF以外のなにものでもない。
物凄くわかりにくく書かれた、ウルトラハードSFといえよう。
それにしたって、なにもここまで異形にしなくても……と思うくらい、異形だ。
そんなわけで、決して万人におすすめはできないが(途中で挫折した人も多いらしい)、日本SFの新たな指標となりうる大傑作であることは間違いない。
読み応えのある小説を欲する向きには必読の書です。