ラヴィ・ティドハー 『完璧な夏の日』
完璧な夏の日〈上〉 (創元SF文庫)/ラヴィ・ティドハー

¥1,080
Amazon.co.jp
完璧な夏の日〈下〉 (創元SF文庫)/ラヴィ・ティドハー

¥1,080
Amazon.co.jp
第二次世界大戦の直前、世界各地に突如現れた異能力を持つ人々は超人と呼ばれ、各国の情報機関や軍に徴集されて死闘を繰りひろげた。そして現在。イギリスの情報機関を辞して久しい超人のひとりフォッグは、かつての相棒と上司に呼び出され、過去を語り出す。能力の発現、初めての仲間との出会い、そして激しい闘いの日日…。2013年度英ガーディアン紙ベストSF選出作。(Amazonより)
なにが素晴らしいって、この邦題。
『完璧な夏の日』。タイトルからしてもう完璧じゃないか。
しかもそれは、とある少女のことを指してそう呼ぶのだ。これで読みたくならないわけがない。
時系列は複雑に前後する。
まずは現在、戦争が終わったあとの世界で、主人公の一人であるフォッグは、もう一人の主人公(と言っていいだろう)の相棒オブリヴィオンと久々の再会を果たすが、それは楽しい再開というわけではなく、かつての上司オールドマンからの呼び出しだった。
彼らは三人とも、とある博士の実験に巻き込まれ、ユーバーメンシュ(超人)となった異能力者たちだ。
世界には、そんなユーバーメンシュたちが複数存在している。
そんな世界における第二次世界大戦を、過去と現在を行き来しながら、フォッグは回想していく。
と言ってもそれを記述するのは、「われわれ」と称する謎の存在。
この存在の正体は最後まで語られることはないが、解説にちょっとした考察があって、たぶんそんな感じなんだろうなと思う。
霧を自在に操るフォッグ。
あらゆる物体を消してしまうオブリヴィオン。
その他にも、雪嵐を操るシュニーストロム、大鎌のレッド・シクル、虎に変身するタイガーマン、異能力たちの能力を無効化してしまうウルフマンなどなど、『Xメン』のような超人たちが次々に登場するところは、さながら『ワンピース』などの少年漫画のようでもある。
しかし物語は、『Xメン』よりも『ウォッチメン』に近い。
なにせ戦争の物語。
痛快娯楽劇が始まるわけがなく、戦争に繰り出された超人たちの心に積み重なるのは、重い死と狂気ばかり。
そして戦争が終わったあとも、超人たちに引退はない。
歳を取らない彼らは、同じ容貌のまま、死ぬまで超人として生きなければならないのだ。
そんな暗い物語の唯一の光は、タイトルにもなっている一人の少女。
クララ。
ゾマーターク(夏の日)とも呼ばれる、無垢な少女。
戦時中、フォッグは彼女と出会い、恋に落ちる。もうぞっこんである。
残念なのは、ミステリアスなクララの書き込みが浅いこと。
なぜフォッグがあれほどまで彼女の虜になったのか、読者にいまいち伝わってこない。
原題はタイトルが『THE VIOLENT CENTURY(暴虐の世紀)』で、『完璧な夏の日』じゃないのも頷ける。クララあんまり出てこないし。
そして、ラストの展開。
ああフォッグ。お前はどうしていつもそう身勝手なのか。
残される者の悲哀を考えたことはあるのか?
「人間は、なにかしら信じられるものが必要なんだ」と言った相棒のオブリヴィオンの気持ちを、お前は考えたことがあるのか?
なんてことを思ってしまうくらい、オブリヴィオンのその後が心配です。
ともあれそんな彼らの戦争の世紀を、淡々とした筆致で描いた傑作。
個人的にはすごく好きな作品だけど、どうやら賛否は分かれるらしいので、ぜひ読んで確かめてみよう。
タイトルは「夏」。
でも、冬に読むほうがシチュエーション的には合ってます。
完璧な夏の日〈上〉 (創元SF文庫)/ラヴィ・ティドハー

¥1,080
Amazon.co.jp
完璧な夏の日〈下〉 (創元SF文庫)/ラヴィ・ティドハー

¥1,080
Amazon.co.jp
第二次世界大戦の直前、世界各地に突如現れた異能力を持つ人々は超人と呼ばれ、各国の情報機関や軍に徴集されて死闘を繰りひろげた。そして現在。イギリスの情報機関を辞して久しい超人のひとりフォッグは、かつての相棒と上司に呼び出され、過去を語り出す。能力の発現、初めての仲間との出会い、そして激しい闘いの日日…。2013年度英ガーディアン紙ベストSF選出作。(Amazonより)
なにが素晴らしいって、この邦題。
『完璧な夏の日』。タイトルからしてもう完璧じゃないか。
しかもそれは、とある少女のことを指してそう呼ぶのだ。これで読みたくならないわけがない。
時系列は複雑に前後する。
まずは現在、戦争が終わったあとの世界で、主人公の一人であるフォッグは、もう一人の主人公(と言っていいだろう)の相棒オブリヴィオンと久々の再会を果たすが、それは楽しい再開というわけではなく、かつての上司オールドマンからの呼び出しだった。
彼らは三人とも、とある博士の実験に巻き込まれ、ユーバーメンシュ(超人)となった異能力者たちだ。
世界には、そんなユーバーメンシュたちが複数存在している。
そんな世界における第二次世界大戦を、過去と現在を行き来しながら、フォッグは回想していく。
と言ってもそれを記述するのは、「われわれ」と称する謎の存在。
この存在の正体は最後まで語られることはないが、解説にちょっとした考察があって、たぶんそんな感じなんだろうなと思う。
霧を自在に操るフォッグ。
あらゆる物体を消してしまうオブリヴィオン。
その他にも、雪嵐を操るシュニーストロム、大鎌のレッド・シクル、虎に変身するタイガーマン、異能力たちの能力を無効化してしまうウルフマンなどなど、『Xメン』のような超人たちが次々に登場するところは、さながら『ワンピース』などの少年漫画のようでもある。
しかし物語は、『Xメン』よりも『ウォッチメン』に近い。
なにせ戦争の物語。
痛快娯楽劇が始まるわけがなく、戦争に繰り出された超人たちの心に積み重なるのは、重い死と狂気ばかり。
そして戦争が終わったあとも、超人たちに引退はない。
歳を取らない彼らは、同じ容貌のまま、死ぬまで超人として生きなければならないのだ。
そんな暗い物語の唯一の光は、タイトルにもなっている一人の少女。
クララ。
ゾマーターク(夏の日)とも呼ばれる、無垢な少女。
戦時中、フォッグは彼女と出会い、恋に落ちる。もうぞっこんである。
残念なのは、ミステリアスなクララの書き込みが浅いこと。
なぜフォッグがあれほどまで彼女の虜になったのか、読者にいまいち伝わってこない。
原題はタイトルが『THE VIOLENT CENTURY(暴虐の世紀)』で、『完璧な夏の日』じゃないのも頷ける。クララあんまり出てこないし。
そして、ラストの展開。
ああフォッグ。お前はどうしていつもそう身勝手なのか。
残される者の悲哀を考えたことはあるのか?
「人間は、なにかしら信じられるものが必要なんだ」と言った相棒のオブリヴィオンの気持ちを、お前は考えたことがあるのか?
なんてことを思ってしまうくらい、オブリヴィオンのその後が心配です。
ともあれそんな彼らの戦争の世紀を、淡々とした筆致で描いた傑作。
個人的にはすごく好きな作品だけど、どうやら賛否は分かれるらしいので、ぜひ読んで確かめてみよう。
タイトルは「夏」。
でも、冬に読むほうがシチュエーション的には合ってます。