北山猛邦 『オルゴーリェンヌ』


オルゴーリェンヌ (ミステリ・フロンティア)/北山 猛邦

¥2,052
Amazon.co.jp




書物が駆逐される世界。旅を続ける英国人少年クリスは、検閲官に追われるユユと名乗る少女と出会う。追い詰められた二人を救おうと、突如現れた少年検閲官エノ。三人は、少女が追われる原因となった“小道具”をいち早く回収すべく、オルゴールを作り続ける海墟の洋館に向かったが…。そこで彼らを待っていたのはオルゴール職人たちを標的にした連続不可能殺人だった!先に到着していたもう一人の少年検閲官カルテの支配下に置かれた場所で、三人は犯人を突き止めるべく、トリックの解明に挑む。待望の“少年検閲官”シリーズ最新作。(Amazonより)




静かに滅びゆく世界。
その世界では、《ミステリ》や書物は犯罪の原因になるとされ、見つかれば即燃やされ、その者も罰せられる。
それを遂行するのが、少年検閲官と呼ばれる、心を持たない少年たちだ。


そんな少年検閲官エノと、ミステリの禁止された世界でミステリ作家になることを夢見る少年クリスの出会いを描いたのが前作『少年検閲官』で、その久しぶりの続編が本書。




タイトルの「オルゴーリェンヌ」とは、その者自身がオルゴールである「少女自鳴琴」を指す。


カリヨン邸というオルゴール職人が住まう屋敷から逃げてきた少女ユユと出会ったクリスは、なんやかんやあって少年検閲官エノと共に再びカリヨン邸に赴き、そこで連続殺人事件に遭遇する。


本書は、異世界ミステリでありながら、館ミステリでもあり、孤島ミステリでもあるというお得な仕上がりとなっており、そのどの要素も高水準であるという稀有な傑作だ。



もうひとりの少年検閲官カルテとのやりとりや、冒頭で掲げられる童話のようなプロローグ、退廃的な世界で起こる殺人事件、ミステリと書物とガジェットを巡る謎。


二段組み381ページの中にこれでもかと詰め込まれていながら、そのどれもが興味深く面白い。



事件は三つもの解答が提示され、最終的にひとつの解が正しいのだとしても、それぞれが自分の納得のいく答えだけを胸に収めて去っていく。


著者らしい物理トリックも惜しみなく披露され、なんといっても意外な犯人。


「意外な犯人」という触れ込みで本当に意外だと思うことなんて滅多にないが、今回は本当に意外だった。


切なく哀しい結末まで含め、練りに練られたミステリとストーリーが堪能できる。




この時期に相応しい、雪と滅びに彩られた世界の物語。


おススメです。