ケヴィン・ウィルソン 『地球の中心までトンネルを掘る』


地球の中心までトンネルを掘る (海外文学セレクション)/ケヴィン・ウィルソン

¥1,944
Amazon.co.jp




代理祖父母派遣会社で祖母として働く女性、人体自然発火現象で死ぬことを恐れながら弟と暮らす青年、折りヅルを使った奇妙な遺産相続ゲームに挑む一族の男たち、ある日裏庭でトンネルを掘り出した三人の若者……ほんの少しだけ「普通」から逸脱した日々を送る人々の生活と感情の断片を切り取った11のエピソードが、どれも不思議としみじみした余韻をもたらす短編集。シャーリイ・ジャクスン賞、全米図書館協会アレックス賞受賞作。(Amazonより)




いわゆる“奇妙な味”系のストレンジフィクションに分類される話かと思うが、それとも少し違った趣のある短編集。


収録作は、


「替え玉」

「発火点」

「今は亡き姉ハンドブック:繊細な少年のための手引き」

「ツルの舞う家」

「モータルコンバット」

「地球の中心までトンネルを掘る」

「弾丸マクシミリアン」

「女子合唱部の指揮者を愛人にした男の物語(もしくは歯の生えた赤ん坊の)」

「ゴー・ファイト・ウィン」

「あれやこれや博物館」

「ワースト・ケース・シナリオ株式会社」




どの短編も、抜群に良い。


世間や周囲に上手く馴染めず、どこか生きづらさを抱える主人公たちの哀切と諦念とほのかな希望が、重くなりすぎないユーモアの滲む筆致で描かれる。


とにかくこの語り口がたいへん読みやすく、訳の上手さも相まって非常に心地いい読書だった。


ヘンテコな話や荒唐無稽な職業がたくさん出てくるが、わりと現実的な着地点を迎える(あるいは迎えそうに思える)というのが、この手の小説にしては珍しいかもしれない。
そのあたりが、既存の“奇妙な味”系文学とは少し違うところ。




個人的なお気に入りは、「発火点」「ツルの舞う家」「地球の中心までトンネルを掘る」「ゴー・ファイト・ウィン」「あれやこれや博物館」。


「弾丸マクシミリアン」はやや異色で、ちょっとホラーっぽい。『世にも奇妙な物語』で映像化されそうな。




とはいえどれも面白いのでおすすめです。(税込みで2000円を超えないという、翻訳書にしては高くないお値段も嬉しい)


海外文学でここまで自分にフィットしたのは久しぶりかもしれない。


ぜひとも他の作品の邦訳もお願いします。