森川智喜 『キャットフード』


キャットフード (講談社文庫)/森川 智喜

¥572
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極上のキャットフードを作りたい――化けネコ・プルートは人肉ミンチの生産に乗り出した。コテージに見せかけた人間カンヅメ工場に誘(おび)き寄せられた四人の若者。が、その中に人間に化けた黒ネコ・ウィリーが混ざっていた。化けネコどうしの殺傷はご法度。一体どいつがネコなんだ!? 食われたくないなら、頭を絞れ!(Amazonより)




本作はミステリーだが、その設定はかなりファンタジーなものとなっている。



まず、ネコが人語を話す。
そしてネコの中には、少数だが“化け猫”が存在しており、化け猫はその名の通り自由自在に変身できるのだった。
これらはもちろん、人間たちの知らないことだ。


そんな化け猫のプルート(♀)は、頭の良さと野心の強さを発揮して、人肉を使用したキャットフードを作って大儲けしようと企む。


同じく化け猫であり主人公のウィリー(♂)は、人間に化けて一緒に遊ぶのが大好き。今日もまた緋山くんという人間に化けて、友達3人(男2人女1人)ととある島に旅行にやって来た。(緋山くんは実在するので、本物の彼は置いてけぼりをくらった)


さてウィリー(緋山くんに化け中)一向がやって来た島はなんとプルートの人肉工場で、プルートはいそいそとやってきた人間4人を殺してキャットフードにしようと目論む。


だが当然4人の中には1人というか1匹のネコ(ウィリー)が混じっており、この島がプルートの工場だと気付いたウィリーは、プルートの企みを阻止せんと孤軍奮闘する。


ネコは基本的に飼い主以外の人間の生死には無頓着だが、野良猫のウィリーを可愛がってくれる女の子(狼森さん)が食われるのは避けたい。その友達もできれば無事本土に戻ってほしい。


そんなわけで、人間たちをミンチにしたいプルート(とその部下)と、そんな人間たちをミンチにさせないように頭を捻るウィリーの頭脳対決が切って落とされた。



こんなファンタジックな設定がなぜミステリーとして成立するかといえば、「ネコは同族殺しが御法度」という人間と同じような法律があり、そして島にやって来た人間4人のうち「誰がウィリー(が化けている人間)か、プルートにはわからない」という状況があるからだ。


プルートは一刻も早く4人の人間をミンチにしたいが、その中の1人はネコ。殺してしまったらマズイ。


もちろん読者には緋山くんこそウィリーであるとわかっているわけだが、プルートにはわからない。


かくして、いかに自分が化け猫だとバレずに他の3人を本土に帰すか、ネコとは思えないほど頭を使うウィリーくんの奮闘が始まるのだった。




そして中盤、名探偵の名を冠する三途川理(さんずのかわことわり)という人間が、プルートの助っ人としてやって来る。


こいつが物凄い変人……というか最低なやつで、自分の飼い猫(プルート)が人語を介する化け猫だと知ってもたいして驚かず、そんな飼い猫が人間を食おうという計画にも反対するどころか嬉々として乗っかってくる。


最低だけどどこか憎めない……いや憎めるけど、作者はこのキャラをいたく気に入ってるのがありありと伝わってくる描写で生き生きと描かれる三途川は、これまた憎たらしいことにたいへん頭が良い。


ちょっとウィリーに押され気味だったプルートは、この飼い主であり助っ人であり名探偵の三途川の計画によって、徐々にウィリーを圧倒していく。






というのが本書の大体の設定。


作品の分量自体は少ない。文庫で250ページ弱。


なのに設定を説明するだけでこんなに長くなるw


でもまぁ、普通に読めば普通に理解できるので、難しいとかややこしいとかはありませんのでご安心を。




これがデビュー作とのことだが、こいつはなかなか凄い。


中盤の頭脳戦なんて、実にロジカル。こんなにファンタジックな設定なのに。



ラストの一捻りも見事で、次作『スノーホワイト』が本格ミステリ大賞を受賞したのも当然か。





というわけで、軽さの中に緻密な論理が詰まっているミステリー。


おススメです。