雑誌 『新潮 2015年 01月号』


新潮 2015年 01月号 [雑誌]/著者不明

¥1,030
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いつもは小説雑誌は「読んだ本」の勘定に入れないんだけど、今回は舞城王太郎の長編並みの読み切り中編「淵の王」のがあるから感想ブログを書いてみた。


そもそも『新潮』を初めて買った。
小説雑誌自体滅多に買わない。買うのは『SFマガジン』くらいか。




というわけで連載や書評は割愛し、読み切りの中短編だけを記載。



舞城王太郎「淵の王」

ガルシア=マルケス未邦訳短篇集

池澤夏樹「イスファハンの魔神」

金井美恵子「シテール島への、」

堀江敏幸「五右衛門の火」

絲山秋子「コノドント展」

いしいしんじ「秘宝館」

青木淳悟「二年生の曲がり角」

小山田浩子「うかつ」

ブライアン・エヴンソン「グロットー」




まず凄まじいのが、舞城の「淵の王」。


3パートに分かれており、それぞれの主人公らしき人物を見守る守護霊?のような(ハッキリ明記されてない)存在による二人称という珍しい文体で語られる。


初めは普通の女の子の日常だった。


しかしその女の子は、まったく唐突に「私は光の道を歩まねばならない」とつぶやく。


やがて異変が起こる。


かつての親友である女の子のピンチに駆けつけたはずの主人公は、得体の知れない“闇”に出会うが、それを認識しているのは語り手の守護霊(みたいな存在)だけなのだ。


“闇”は守護霊に気付き、それを喰らう。


そうして次のパートが語られる。



パートが移るごとに、怪異は勢いを増していく。


3つ目のパートでは、ついにその“闇”は顕在するが、やはりそれがなんなのかはよくわからない。


空間に空いた穴。
小さなブラックホールのような穴は、悪であり魔であり、それは人間の悪意の元に現れる。



こうして説明していてもよくわからないが、とにかく怖いのは間違いない。


ホラーといえばホラーだが、この怖さは娯楽としてのホラーというより、得体の知れない“悪意”にまつわる恐怖だ。


その悪意が顕在化し、穴となり、災いが降ってくる。そんな原初的な恐怖。



ラスト付近では、著者のデビュー作『煙か土か食い物』を少し彷彿とさせる怒涛の展開。



いや素晴らしい傑作。
この中編の為だけでも買った甲斐はありました。






その他の短編では、池澤夏樹「イスファハンの魔神」と、ブライアン・エヴンソン「グロットー」が良かった。


エヴンソンはすでに『遁走状態』という短編集が刊行されてるけど、「グロットー」は舞城「淵の王」にも似た不条理な悪意が炸裂するダークな短編。


面白かったので、『遁走状態』もそのうち買おう。




それ以外はあまりピンと来ず。


金井美恵子「シテール島への、」はめちゃくちゃ読みにくかった。


著者の作品は初めて読んだけど、こんなに読みにくい日本語の文章があるのかと驚いたくらい読みにくい。
ほとんど読経を読んでるような気分だった。ある意味凄い。






というわけで「淵の王」を読むためだけでも買う価値はあるんですが、月刊誌なのでもうとっくに違う号になっちゃってるんですよねぇ。


なので普通の書店で手に入れるのは難しいかと思うので、Amazon等、ネットでお買い求めください。