年刊日本SF傑作選 『さよならの儀式』


さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)/著者不明

¥1,404
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2013年に発表された日本のSF短編から選りすぐった作品を収録するこのアンソロジー。


これまでは架空の漢字四文字(『虚構機関』とか『量子回廊』とか)をタイトルにしてたけど、どれがどれやらわからなくなってきたし、毎回考えるのが大変なので今回からは収録作からタイトルを取る方針にしたらしい。




というわけで収録作。


宮部みゆき「さよならの儀式」

藤井太洋「コラボレーション」

草上仁「ウンディ」

オキシタケヒコ「エコーの中でもう一度」

藤野可織「今日の心霊」

小田雅久仁「食書」

筒井康隆「科学探偵帆村」

式貴士「死人妻(デッド・ワイフ)」

荒巻義雄「平賀源内無頼控」

石川博品「地下迷宮の帰宅部」

田中雄一「箱庭の巨獣」

酉島伝法「電話中につき、ベス」

宮内悠介「ムイシュキンの脳髄」

円城塔「イグノラムス・イグノラビムス」

冲方丁「神星伝」

門田充宏「風牙」(第5回創元SF短編賞受賞作)





宮部、円城、冲方の三作はすでに初出媒体で読了済なので、ここではスルー。


そのとき書いた感想はこちら。


『SF JACK』

『SF宝石』




さて今回は、なんといっても「今日の心霊」の藤野可織と、「食書」の小田雅久仁が知れたのがよかった。



小田雅久仁は知ってはいたけど、作品を読んだのはこれが初めて。


ある日偶然「本を貪り食う女」を目撃して以来そのことが頭から離れず、自らもとうとう本を食べ出してしまう男の話。


ダークな幻想小説として一級品。
文章も達者で、他の中短編もぜひ読みたい。短編集待ってます。



そして『爪と目』で芥川賞を受賞した藤野可織は、カメラで何かを撮影すると必ず幽霊(しかもグロい)が写ってしまうmicapon17という女性について書かれた話。


面白いのがこの心霊写真、当のmicapon17(ちなみにこれはブログ用のアカウント名)本人だけは、写真に写る幽霊を見ることができないのである。


micapon17が何気なく撮った日常の風景をブログにアップすると、それを見た人々から非難のコメントが殺到し、炎上。本人はわけがわからない。


そんな心霊写真を芸術として崇める写真好きの面々が書いたレポート風に綴られる物語。


ちなみに、各収録作の末尾には作家の「著者のことば」があるんだけど、藤野さんはそこも面白かったのでセンスのある人なんだと思う。他の作品も読みたい。






そして毎回恒例、短編SFの新人賞である創元SF短編賞の受賞作「風牙」は、これまでの受賞作の中でも好きな部類に入る傑作。


いわゆるサイコダイバーもので、正直SF的にはなんら新味はない。


しかしドラマ的な部分に不覚にも心を掴まれてしまい、ラストなんてちょっと感動すらおぼえた。


読ませる力は確かなので、今後の活躍が期待されます。





他には、石川博品「地下迷宮の帰宅部」、宮内悠介「ムイシュキンの脳髄」あたりが良かった。





例年になく短編SFが豊作だった2013年を網羅するにはもってこいの一冊でした。