小川洋子 『沈黙博物館』


沈黙博物館 (ちくま文庫)/小川 洋子

¥734
Amazon.co.jp




『博士の愛した数式』などでおなじみ、小川洋子の長編小説。




耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、切り取られた乳首…「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」―老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が死者たちの形見を盗み集める。形見たちが語る物語とは?村で頻発する殺人事件の犯人は?記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。(Amazonより)




博物館技師である青年がとある村へやってきて、依頼主である老婆から「形見の博物館」を造るよう命じられる。


老婆の娘(本当の娘ではない)である少女と共に形見を収集して、博物館は着々と完成しつつあった。




小川洋子の静謐な筆致のおかげか、殺人事件や爆弾騒ぎまで起こるのにほとんど凄惨さはない。


しかしそのことが逆に不気味でもあり、この一見平穏な村にはとんでもない秘密が隠されているのでは……?とやや警戒しながら読み進めた。


結論を言ってしまえば、本書はそういったホラーチックなエンタメ性を狙った物語ではなく、あくまで穏やかに、村の中だけで形見の収集が行われ、博物館は出来上がっていく。



登場人物たちに名前はなく、技師、老婆、少女、庭師、家政婦、沈黙の伝道師などとしか呼ばれない。


そのせいか作品全体には終始“静”の雰囲気が満ちており、読み終わる頃にはこの村から離脱しなければならないのを寂しく感じてしまった。




この村はなんなのだろう。


エンタメ性を狙った物語ではないと書いたけど、堀江敏幸の解説にもあるように、もしかしてこの村は死者たちの村なのかもしれないのだ。


そういった解答は一切書かれていないが、あまりにも外から隔絶されすぎているし、やって来た技師(主人公)はもう二度と元の場所へは帰れないと示される。


そしてそのことを最終的には受け入れる技師。


少女と共に、これからも増え続けていく形見の博物館を守って生きていくのだった。






一気読み必至のエンタメ本もいいけど、たまにはこういった静かな文学を愛でるように読むのも悪くない。