吉田篤弘 『針がとぶ Goodbye Porkpie Hat』


針がとぶ - Goodbye Porkpie Hat (中公文庫)/吉田 篤弘

¥741
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伯母が遺したLPの小さなキズ。針がとぶ一瞬の空白に、いつか、どこかで出会ったなつかしい人の記憶が降りてくる。遠い半島の雑貨屋。小さなホテルのクローク係。釣りの好きな女占い師…。ひそやかに響き合う、七つのストーリー。(Amazonより)




『つむじ風食堂の夜』で有名?な作家、吉田篤弘の短編集。


短編集だけど、小川洋子の解説にあるように、長編とも連作短編とも言える緩やかな繋がりが各編にある、なんとも不思議な読み心地。



収録作は、


「針がとぶ」

「金曜日の本―『クロークルームからの報告』より」

「月と6月と観覧車」

「パスパルトゥ」

「少しだけ海の見えるところ 1990-1995」

「路地裏の小さな猿」

「最後から二番目の晩餐」

extra story「水曜日の帽子―クロークルームからのもうひとつの報告」




こういった本は、自分の中では《静かな文学》というジャンルに分類される。


解説を書いている小川洋子や、よしもとばなな、堀江敏幸などもそれだ。



波乱万丈な物語がどうにも受け付けない心境のとき、こういう《静かな文学》を求める。


決して押し付けることもなく、いつのまにか隣にただいてくれるだけのような、空虚な心に寄り添ってくれるような文学。



この本もそれに違いないと踏んで、確信通りの穏やかさをくれました。



ゆっくりと、撫でるように、そして何度でも読みたい一冊。





ところでこの本は装丁も素晴らしく、特に表紙の絵がたいへん気に入ってしまいました。


どうやらミヒャエル・ゾーヴァという人の絵らしいけど、大きな絵を買って部屋に飾りたいくらい好き。


動物をユーモアに、時にシニカルに描く作家のようで、手前にいるのはパジャマのようなものを着たアヒル?だろうか。


その後ろの夜の海。
暗いけど暗すぎず、不安よりも穏やかさを感じさせる暗さが良い。


自分がいつも心のどこかで求めていた風景のような気がして、この本を買ったのもこの絵に惹かれたからと言っても過言ではないです。



ぜひ書店で実物をご覧あれ。