高野和明 『ジェノサイド』
- ジェノサイド/角川書店(角川グループパブリッシング)
- ¥1,890
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《このミステリーがすごい!第1位》 《SFが読みたい!第6位》 その他数々のランキングでも上位を獲得し、第2回山田風太郎賞も受賞したベストセラー。
ベストセラーは信用しないようにしているが、これは稀有な例外。めちゃくちゃ面白い。
抜群のリーダビリティで、分厚い単行本も一気読み。
ハリウッド顔負けの国際防諜軍事サスペンス(SF風味)だ。
『ジェノサイド』という剣呑なタイトル。
「大量殺戮」や「民族虐殺」の意。
この本では、あらゆる意味でのジェノサイドが描かれる。
人類はあまりにも臆病で残虐だ。
だからこそここまで進化し、生物界の頂点に居座っているとも言えるが、それが人類滅亡の引き金にもなりえる。
きっかけは、とある超知性。
それだけの存在で、人類は自らの果てしない愚かさを浮き彫りにして、生来の野蛮さを遺憾なく発揮する。
人類の愚行。そして進化。
読みながら思い浮かんだのは、ミスチルの『さよなら2001年』という歌の歌詞↓
ねえ 神様
僕等に課せられてる そんな使命があるとしたら
進化(すす)むこと? それとも総てを終わらすこと?
老学者ハイズマンの言うように、人類はそろそろこの星を次の存在に譲るべきなのだろうか。
進むのか、終わらせるのか。
その答えを出すのは人類だ。
そしてそれは必ずしも賢明な答えを出すとは限らない。それが人類だ。
……いやなんか、本気で感想を書こうと思ったらちょっとした小論文になってしまいそうなくらいに密度の濃い小説w
薬学に関する理系用語も頻出して、さながら瀬名秀明の『BRAIN VALLEY』のようでもある。(あっちは脳科学だけど)
他には、伊藤計劃の『虐殺器官』も想起させるかも。
(前半の、ウイルス感染と未知の生物という組み合わせは、小川一水の『天冥の標2 救世群』を思わせる。要するにそれだけ色んな要素が詰め込まれてるということ)
SFネタは正直ありがちなもので、いわば《地球規模の『幼年期の終り』(になりそうになる)》といったところだけど、そこはたいして重要じゃない。
問題は、人類はこれからどうするのかということだ。
人類は本当に生き延びたいのだろうか?
なんだか自ら滅びたがっているようにすら思えてしまう。それほどまで、人類が抱える愚かさと残酷さは根深い。
ああもうなんて言ったらいいのか……。
大仰なことばかり書いたけど、とにかく一級のエンターテインメント小説としてべらぼうに面白いのでおススメ。
その過程で、否が応にも「人類」という種について熟考してしまうだろう。
過去、現在、未来を含めて。
これ、英語に訳して欧米でも発売すればいいのに。
むしろアメリカにこそ読んでほしいと思うような……。
いや、全人類必読かな。
人類の未来を見据える上でも、これは読んで、そして考えなければならない。
進むのか、終わらせるのか。