神奈川に来て一か月…。春の陽気な日差しの中僕は誰もいないワンルームアパートに帰ってきた。
家事を一通り終わらせて一休みしていると、僕の視界の隅になにか動くものが見えた気がした。
額に冷たい汗が滲み出てきた。僕は恐怖心を抑えてゆっくりと動くものがいたほうへ、視界を移した。
そのとき、僕が目にしたのは
一匹の、蜘蛛だった。
僕は短い悲鳴を上げ、尻餅をついた。
嫌な汗が噴き出てきた。隣人を呼んで駆除してもらうという発想が、頭の中を過った。
しかし、そのために態々手間をかけさせるのは人との関わりという観点から考えると、かなり異質で異常なものだった。
そう。人は蜘蛛の一匹や二匹、自力で駆除出来るものなのだ。
僕は震える手で落ちていた雑誌を拾い上げ、丸め始めた。
吐息が溢れ出す。僕は震える声で呟いた。
殺してやる、と。