この世界には3つの「界」が存在する。
天界・人界・魔界-
天界には神と天使が住み、人界には人間が住み、魔界には悪魔と怪物が住んでいる。
人界には人知れず、多くの天使と魔族(悪魔や怪物を総称してそう呼ぶ)が生活している。
しかし、人ではない彼らが人界で生活するには、あるひとつの条件をクリアしなければならなかった。
それは、天魔学院と呼ばれる学校で6年過ごし、人界における「普通」を学び・修得すること。
この学院に集う者たちは天界・魔界両方が協力して行われるある一大イベントに関わることが許されたエリートたちである。
学院を卒業した者たちは人界のいたる所で人間に混じって生活し、様々な情報を集め、それを天界・魔界へと送る。
イベントが行われるまで人界で生活する者もいれば、一定期間で天界・魔界に戻りそこでイベント運営に加わる者もいる。
だが、学院にいる間はだれしもが「普通」を楽しんでいた。天界や魔界では味わえない日常がそこにはあったからだ。
「で、僕を呼びだした理由は何なんです?」
不機嫌な顔を隠そうともせずに、一人の青年が言った。
「実はね、これから先、あのイベントに君の力が必要だから、学院に来て欲しいんだ」
青年の向かいには、金髪碧眼のハリウッド級…いや、トップモデル級のイケメン青年がいた。
明らかにブランド物のオーダーメイドだとわかるスーツが嫌みなくらい似合っているのが嫌みだ。
彼は天魔学院高等科で西洋史を教えている教師、マイケル・ブレイドという。
対する青年はダメージ加工の入ったGパンに青のパーカー、普通にそこら辺にいる日本人だ。
この組み合わせで、二人がいる場所がマクドナルドでは浮くなと言う方がムリであろう。
「イヤだね。僕にはもうこちらでの生活が確立している」
「だからこそ…なんだけどね。新しい企画が立ち上がっていて、そのメンバー選出もすんでいる。あとは君が加わってくれれば完璧なんだよ」
マイケルがしゃべっている間、青年はハンバーガーに齧り付いていた。
「で、オレみたいな問題児抱え込んで、おたくらは何が得すんのさ」
先ほどとは変わって、少し乱暴な言葉遣い。こちらがこの青年の本来のしゃべり方なのだろう。
「得なんて何もないさ。ただ、君のお祖父様が是非にとおっしゃっていてね」
「はっ?オレにお祖父様なんてもんは…アレのことか…」
言葉の途中で思い当たる節があったのか、青年はますます嫌そうな顔をする。
「そう、我らが父上がね。どうも、手のかかる子ほど可愛いらしい」
そう言ってマイケルは天使の微笑みともとれる極上スマイルを浮かべた。
「あっそう。そーいや、何年か前に『出来損ない』を可愛がってるってウワサ聴いたな。こっちじゃ出来損ないなんて珍しくともなんともないが…あのウワサ、マジだったんだ」
「君が言う『出来損ない』もメンバーに入っているんだけどね」
トレイに乗っていたもの全て食べ終わった青年は立ち上がった。
そして、意地悪い笑みを浮かべて言った。
「親父と兄貴、姉貴を説得してきなよ。トップ3の命令があれば、オレは動いてやるよ」
じゃあな、と手をひらひらさせて、青年は店から出ていった。
「やれやれ、一筋縄ではいきませんね。あなたよりその3人を説得する方が大変なんですけど…」
マイケルの独り言は店の騒音にかき消された。
都内某所-天魔学院高等科
都内と言っても都心に行くには1時間以上かかる緑溢れる町に天魔学院はある。
「マイクせんせー、お出かけされてたんですか?」
高等科の職員通用口で靴を履き替えていると、たまたま通りがかった生徒に声をかけられた。
「こんにちは、有栖川さん。ちょっとスカウトしに行ったんですが、ふられてしまいました」
彼女は学徒会役員でもあり、あの企画のメンバーでもあるので正直に話す。
「えっ?卒業生をメンバーにいれるんですか?」
水色と青のチェックのジャンパースカートに首元にすみれ色のリボン、天魔学院の天使用の女子制服に身を包んだ彼女はびっくりした様子で聞いてきた。
「いや、彼は卒業生ではないよ」
「でも、ここを卒業しないと天使・魔族は人界では生活できませんよね?」
有栖川はさらに驚いて、身を乗り出すように質問してきた。
「そうです。しかし、彼の生い立ちはかなり特殊ですので、例外ってやつですよ」
有栖川の興奮を抑えるために、優しく笑顔で言い聞かす。
「はぁ。でも、その人?色んな意味で凄いですね。マイク先生のお願いを断るなんて…」
少し納得のいかない様子を見せつつも、彼女は感嘆して言った。
「有栖川さん、それどういう意味ですか?」
マイケルの笑顔は変わらなかったが、明らかに何かを含んでいた。
危機を察した有栖川は後退しつつ、何でもありません!失礼しますっ!と言って逃げた。
つづく


