第7章。傷と稲妻。


次の北高女子の出番まで3試合ある為、観客席の生徒も入れ換わり始める。

試合後にトモアキ先輩と会う約束だが、みなみは先程のテレンス香奈の言葉が心に突き刺さりまだ動けずにいた。

「みなみ…待ち合わせ行ける?大丈夫?」

様子から明らかにそれどころではない事は解っているが、しおりが声をかける。そこへ試合直後のユカが走ってきた。

「みなみ、重田センパイ待ってるよ!…って、どうしたの!?」

「しおり…ユカ…ごめんね。待ち合わせ間に合わなさそう。ううん…難しいみたい。」

笑顔を作ろうとすればするほど、涙が溢れて止まらない。そんなみなみを見てユカが、

「…そこで待ってて。私がトモアキ先輩呼んでくるから!」

と、走り出そうとする。行動派のユカはみなみを動かす事が出来ないならと判断し、思い付いた事を実行しようとする。

「トモアキ先輩、移動中は直ぐ親衛隊に囲まれてしまうわ。人気の無い卓球室前を選んだのは、男子更衣室が側にあるから近寄れないから。みなみが行けないなら此方へ呼ぶしかない。」

「待って!まだみなみが落ち着いてないわ!少し時間をずらせない?」

しおりが不安を隠せず引き止め反論するが、ユカはユニフォームのままで駆け付けておりケータイを持っていない為、直接行かなければそれさえ交渉出来ない。それを察した3人の間に沈黙が走る。

1分程して、決意して涙を拭ってみなみが立ち上がった。

「先輩を待ちぼうけさせる訳にはいかないよね…ごめんね、私が行くから大丈夫。」

勇気を振り絞ったもののまだまだフラフラしている。

「本当に大丈夫?心配だから一緒に行くわ。」


しおりが寄り添いながら、みなみはゆっくりと移動を始める。ユカも心配しながら、先ずは階段を降りてホールへ向かうように2人を先導し、入れ換わりの生徒達の渦に向かって行った。


スポーツセンターの体育館の1階の暗がりに、卓球室はある。
手前の男子更衣室からは、テニスコートで行われている中学生男子の地区大会の選手が廊下まで溢れているが、3人はそこを掻き分けてトモアキの元へ向かう。

「トモアキ先輩!」

卓球室前にユカが姿を見つけて声をかけた。しおりはみなみに、

「私、ここで待ってるから…自分なりの答えを出してね。」

と背中を押し、後をユカに託して曲がり角で別れた。

「尾木さんお疲れ様。あ、門倉さん!来てくれたんだね。」


トモアキがみなみとユカに気付いて笑顔で声をかける。ユカがみなみの手を引いて、トモアキの前に立たせようとした、その時。

「尾木さんっ!姿が見えないと思ったら…ここで何してるの?次の試合までアップと言ったでしょう!」

廊下に声が反響してみなみ達を包む。声の主は、由美先輩だった。

「すみません先輩…すぐ戻ります。」

逆らう訳でもないが、冷たく平たく謝るユカ。みなみに『頑張って。』と合図して戻っていく。
しかし由美は、探しに来たユカと一緒には戻らず、みなみとトモアキの側に近付いていくとみなみを一瞥してトモアキに言う。

「重田君…この子のどこが良いの?地味なフリして人を死に追いやるような過去の持ち主なのよ?」

みなみに向き直り、さらに由美が続ける。

「あなたもあなた。光を浴びて輝く重田君に、自分が相応しいとでも?」

「おい、由美っ!何を言い出すんだ!止めろ!」

いつも穏やかなトモアキがさすがに怒りを露にしたが、由美のテンションは止まらない。

「…だってそうでしょう!友達が太陽の様な男に恋した瞬間、裏切って死なせたような奴なのよ!ねぇ、門倉みなみさん?」

「…。」

トモアキが声を荒らげた事も驚いたが、それよりも、自分がよく知らない人に悔やんで消したくても、忘れるわけにはいかない傷口を再び、しかも想い人の前で裂かれてみなみは声を失い崩れ落ちる。

「門倉さんっ!」

トモアキが駆け寄りみなみを抱き止めると由美を睨み付けた。

「由美っ!いい加減にやめろ…!」

「本当の事よ!…じゃあ聞くけど重田君はどうして私じゃダメなの?いつも傍にいた私を見てくれないの!?」

由美も努力家で、自力でバスケ部のキャプテンも、学年トップも、親衛隊からのガードからトモアキを護る術も掴んできたからこそ、自身の頑張りが報われなかった事が怒りとして噴出している。みなみにもその熱が伝わった。
だからこそ、抉じ開けられた過去が足枷になり、トモアキに自分は相応しくは無いと再確認せざるを得なくなった。

黙るしか出来ないみなみ。

…あの時、気付いて口に出してしまった一言で、樹理を死に追いやったのは、紛れもない、私。

そんな私が…、光輝くトモアキ先輩と幸せを望む資格ある?

いいえ。私のせいでトモアキ先輩が苦しんだりいなくなってしまうのは耐えられない。


みなみはそんな事を考えながら、今自分を支えてくれているトモアキの腕を離そうとする。

しかし、彼は離れようとしたみなみを逃がそうとはせず、抱き締めた腕に力を込めて、由美に語りかけた。

「…由美がいつも俺の事を考えてくれているのは知ってたし、凄く感謝してる。でも…恋愛感情というよりは、どちらかというと友情なんだよ。ごめんな。」

「…私だって、まだ尾木さんとかなら黙って見守れるわよ!けど、何故あえてワケアリなこの子なの!?」

由美はまだ納得は出来ない様子で責め立てる。そこへ意外な人物がやって来た。

「由美っ、待って!」

「…依代センパイ。どうしてここへ?」

みなみも驚いた。声の主は依代だった。先程の由美の声を聞いたしおりが、探し出して連れて来たのだ。しおりも後ろで息を切らしながら待機している。


「澤口さんに頼まれたの。由美が過去の事でみなみちゃんを責めてるって。」

「依代…。」

「あのね、由美はみなみちゃんを誤解してる。確かにあの時、この子の友人・樹理ちゃんはみなみちゃんと言い争った後に亡くなった…けれど、みなみちゃんが彼女の恋を妬んでいた訳じゃ無いの!」

「…え?」

由美が依代の話に耳を傾ける。トモアキもまた、みなみを支えて抱き締めたまま依代を見つめる。みなみはそこで俯くしか出来なかったが、真実が語られ始めようとしていた…。
こんばんは。

遅ればせながら今年も宜しくお願いしますm(__)m


SSの更新がめっちゃ遅れていて申し訳ありません…マイペースながらも何とか書いてます。半年であと3章更新目標にしてます(^^ゞ


…明日、上司として長年お世話になってきた薬局長が退職される為送別会をするのですが、まさかあの人が出席するとは思いませんでした。
何も告げずに辞めて周りを驚かせてたので、来ないかと思っていました。

…ヤバイ!世津名は気をめっちゃ抜いていた!ショック!
服どうしよう?メイクどうしよう?そういや最近肌荒れてるしおまけに除毛してないしっ!!(←何故そこ?)と、慌てて至るところの角質ピーリングして、GU行って、LOFTの化粧品コーナー行って…と、バタついている始末ですガーン


会える事が楽しみな反面、ちょっと不安な自分もいます。


実は…11月頃から職場のいざこざが色々有りすぎて心身が荒んでおりまして。


揉めたくないのに揉めさせられる日々が続いており、毎日激怒プンプン丸プンプン(←コピーライト美勇士さん・笑)な世津名が結果『ワガママで一番痛い人ドンッ』になってしまう今日この頃で、逃げ出せたらどんなに楽かな?辞めてしまおうか?と考えてばかりで。


でも世津名は…あの人が辞める予感を感じた時に「理由によっちゃただのワガママですむかっ」とここで書いてたんだ。自分が守れてないのに人に言うんじゃねーよ!プンプンって事になる。辞めたら、私の負けだ。


ただ、現実は…。


新しく来たパートさんが、頑張って教えても使えないと判った為、チェンジ希望を訴えてるのですが、周りもその人が能力が無いと解ってるのに、私が愚痴ると「私の教育が悪い。」とか言われるしショック!

助けてくれないくせに、自分で手を下せばいいのに、私に全てやらせておいて文句言ったり。自分も気を付けてなければならない事をミスっても軽い感じで此方に尻拭いさせてたり、頑張ってるのに追い討ちかけて色々な仕事増やしてきて、「世津名さんももう中間管理職を経験する時なんですから。」と、さも私が上を目指さなきゃいけないみたいに言われるし。

…私はただ、一緒に働いている薬剤師さん達や患者さん達の力に、少しでもなりたいと思ってこの仕事を選んで、食いぶち稼いでるだけで、それだけで充分に満たされて幸せで、上に立ちたいなんてこれっぽっちも思ってない。
この仕事好きなのに、望んでいない方向に進まされ、普通にしていたら挙げ足取られて嫌味言われて、ましてや、傷付けたくなくたって人を傷付けてしまう事だってあるのに、敢えて誰かを苦しめてまで出世する事なんて望んでない。


…怒りで心が荒んだり、自己嫌悪して泣いてしまったりと、悪循環な毎日を送っている事が本当に疲れてしまって、心が自分でも解っている位汚れてしまっている。


せっかくKさんが年末に、あの人の出没情報を教えて下さったのに、涙でグズグズしょぼんでとても会いに行ける状況ではなく、ましてこんな今の私を、あの人が笑顔で受け入れてくれるわけないでしょう…と、チャンスを放棄してしまいました。そんな私を見て欲しいなんておこがましいですよね。

…まして明日は、若くて可愛い女の子が2人も来ますし、年齢でも人間性でも負けてしまうんだろうな…。

あくまで明日の主役は薬局長。だから、一言でも話せたら十分かもしれません。
一瞬でも良いです。

あの時みたいに視線を交わせたら、何か生まれるでしょうか?


…その前に仕事あるけど汗

はー、緊張してきましたしょぼんあせる眠れるかなぁガーン


それでは、また。
第6章・暗雲。


バスケットボール部の試合会場・北部スポーツセンターに、みなみはしおりと共にやって来た。丁度開会式が終わる直前で到着し、試合に出場する各校の部員達が、二面あるコートの各々の位置に着こうとする所だった。
ユカやタカユキはもちろんトモアキの姿が良く見える席を探すが、さすがにギリギリに飛び込んだので都合良くベストポジションが空いている訳もなく、通路側の後部座席に落ち着く。程なくして、タカユキが二人に気付き、声をかけた。

「しおり!門倉!来てくれたんだな。」

「あんたじゃなくて、ユカとトモアキ先輩を応援に。ねっ、みなみー。」

「しおり…朝っぱらから鋭い返しだな。あ、そういや門倉、トモアキ先輩が話したいそうだから、ユカの試合が終わったら、一階の卓球室前で会いたいって。」

「わかった。植木君、いつもありがとう。」

「良かったわねみなみ。返事は決まった?」

「うん…でもドキドキするよぅ。しおりー、どうしよーう!」

三人で会話を交わしていく中で、自分の事のように心配してくれるしおりやタカユキに嬉しくなり、みなみは思わず顔を紅くしてしおりに抱き付く。答えがバレバレのその姿にタカユキが思わず冷静に突っ込む。

「門倉、落ち着け。それ、しおりじゃなくて後で重田先輩にしてきな。」

「あら、良いわよ私は。みなみったら可愛いんだから♪」

しおりの冗談混じりの百合キャラ突っ込み返しに、タカユキはまたしても容赦なくやられる。ほぼ毎日見ているのに、みなみはいつも二人のやり取りに飽きずに笑いをこらえられない。


ピーーッ!


第一試合開始のホイッスルが鳴った。東側のコートでユカがジャンプボールを制したのを見届け、

「んじゃ頑張れよ門倉!」

と、タカユキはみなみにエールを送り、男子部員達の元へ戻るとしおりに告げて駆け足で二人と別れた。


開始すぐさま、ユカのカットが上手くいき、パスが通った由美先輩のシュートが決まると、みなみ達北高サイドが沸く。女子で構成された北高応援団の声援にも熱が入っていく。攻撃のターンが回った相手校の応援部員も、負けじと選手達の名前を入れたオリジナルの応援歌で対抗する。

互いに一進一退しながら前半戦を終えたハーフタイム。しおりが飲み物を調達しに席を立った為、一人になったみなみに声をかけた人物がいた。

「みなみちゃん。」

「あっ、依代センパイ!」
姉の友人、依代だった。先日話していた通り会う事が出来たのだ。

「一人で来たの?トモミは…無事部活行ったのかしら?」

「今自販機まで行ってますが、しおりと一緒です。お姉ちゃんは…『何で今日に限って六時間も練習なのー?マジ現実逃避したいしっ!』って、最後まで駄々こねてました。」

苦笑い混じりで姉の話題で盛り上がった。今頃くしゃみをしていそうだ。

「トモミって何だかんだ言いながら真面目に色んな事に取り組むんだよね…あの頃も、トモミとみなみちゃんだけが、あいつの陰謀に気付いてたんだよね。」

依代がふと呟くと、みなみも苦笑いしながら返す。

「ただ…気付いてしまったせいで樹理が亡くなったかと思うと、気付かない方が良かったのかもしれないですよね。」

「ううん…樹理ちゃんには申し訳ないけど、樹理ちゃんの件が無かったら、私も他の子も、今頃学校が嫌になってたかもしれなかったから。トモミとみなみちゃんが皆を救ったんだよ。自分を責めないで…。」

そこまで話したところで、依代がしおりの姿に気付いた。それにより、みなみもしおりに気付く。

「…みなみごめん、遅くなっちゃって。」

依代を警戒している為か、普段よりも若干固い笑顔で席に戻って来た。

「ううん。私の分まで買ってもらってごめんね。」

「澤口さん、少しだけみなみちゃんお借りしました。それじゃみなみちゃん、トモミに宜しく。」

しおりが来た事に気遣い、依代がその場を離れる。返事をして見送ったもののしおりがみなみを心配する。依代が由美と一緒のグループにいるのを何回か見ているからだ。

「みなみ大丈夫?意地悪されたりしなかった?」

「ありがとう、大丈夫よ。依代センパイはお姉ちゃんの友達で、あの事件も知ってるから。」

「そう…なら良いけど。みなみが先輩と話してると絡まれてそうで心配で…。」

みなみから渡された飲料代のお釣りを返しながら、しおりが話してると、後半開始の笛が鳴った。
しかし、前半とは違い、北高メンバーのチームワークが乱れ始めた。パスやドリブルがあっさりと相手にカットされ、リバウンドを奪われる姿が目の前に拡がる。僅差だった筈が2分弱で相手に11点も差をつけられ、北高女子バスケ部は苦戦を強いられていた。

『北高、ファイトーっ!』

男子部員達からもエールが飛び、応援団も負けじと声を張る中、監督からタイムが入る。前半に相手チームのファウルプレイにより負傷して、ハーフタイム中に怪我の手当てを受けていた副キャプテンの理恵がコートに戻ってきた。空気が一気に変わる。由美と理恵の三年生コンビが創る抜群のプレイが冴え渡り、点差をあっという間に埋めた。
相手チームのキャプテンの『やっぱりあいつらは強いわね…。』という表情で苦笑いを浮かべながらも全力で向かっていくプレイを目の当たりにしたみなみは、これから答えを伝えに行く決意を静かに固めた。

その直後だった。

みなみとしおりの後ろの席にいた男子生徒が声を上げた。

「おっ、あれアリス女学院の制服じゃね?」

「アリ女はやっぱり美人レベルが高いよなー。」

みなみとしおりも試合から一瞬目を放すと、後ろにはアリス女学院の生徒達が列を為して会場入りしてきた。次の試合の応援団なのだろう、吹奏楽部らしく楽器を持っている生徒がいる。美人が多く制服も可愛いと人気の、中学・高校・大学まである一貫校である。
そんな生徒達の列の中から一人、みなみに気付いて近付いていく、美人というよりは『可愛らしい』という表現が似合う少女がいた。

「…門倉さん?」

試合に視線を戻したみなみが声をかけられ振り返ると、一瞬にして表情が凍りつく。

「…!!香奈さん…っ。」

香奈と呼ばれた女子生徒はみなみとは対照的に無邪気な笑顔を浮かべている。

「お久し振りね。覚えていてくれて何よりだわ。」

笑顔で再会の挨拶を交わしたかと思うと、微笑みはそのままに次の言葉は冷たかった。

「…忘れたとは言わせないけど。お兄様を悪者扱いして破滅させた貴女を、私は絶対に赦さない。」

「テレンス香奈…あんたみなみを逆恨みしに来たわけ?」

二人の間にしおりが割って入る。熱い体育館に吹雪が走る感覚が周りに漂う。

「そう聞こえたのならごめんなさい。今日は試合を応援に来たんだったわ。でも門倉さん忘れないで?あなたが人の苦しみの上に幸せを手にしてる事を。」

やはり不敵な笑みで警告するように香奈が穏やかに言い放ち立ち去った。

「みなみ、気にしなくて良いから。ね?大丈夫よ。」

しおりが声をかけるが、みなみは青ざめたまま固まっていた。

気が付くと後半の試合は1ゴール差まで迫っていた。最後にユカが奇跡的な3ポイントシュートを決めて、試合終了のブザービートが鳴る。逆転勝ちに北高サイドが歓喜に沸く中で、みなみは別の意味で肩を震わせ涙を溢していた。