諸君はゴールドラッシュを知っているだろうか?
ゴールドラッシュとは1800年代のアメリカ、オーストラリアなど多くの国で金脈を求めて、一攫千金を夢見る大量の採掘者が押し寄せてきた事象のことを指す。
当時何より価値をもつ「金」を彼ら彼女らは人生をかけて追い求めた。
しかし、その実、富を残せた者は多くなく、大半の者は志半ばに倒れている。
時は過ぎゆき、2015年。
この時代は意識高い系大学生がTwitter、顔本を闊歩し口々に自分の人脈を自慢していた時代だった。
トプ画には札束をもったアカウントが入り乱れ、彼らは口々に謳っていた。
自分みたいに金持ちになる方法を教えますと。
彼らは今生きているのだろうか。
もちろんコロナウイルスなんてものはなく、僕の大好きな歌舞伎町は毎日莫大な富と自殺者を量産し続ける楽園だった。
そんな世界で僕はブリーチ仕立てのダサい金髪にインターネットで「イケてる×大学生」の検索で出てきた服をマネキン買いするような燻ぶった大学2年生で、何百万の奨学金に危機感を感じながらも、行動はしないそんな人間として生きていた。
この日の珍しく講義に出席していたのも時給1000円のカラオケバイトまでの暇つぶしだったと思う。
今思うと、運命がほんの少し変わったのかもしれない。
その時ほんの少し歴史が動いた、なんて。
教授が述べる。
「物質が頂点を極めていた時代は終わりを告げ、人の動きと繋がりが「人財」として莫大な利益を上げ続ける時代が来ました。
その中で頂点を司る役割としてそれらを管理するヒューマンリソースマネジメントがあります。皆様は就職して、先々労働者の立場になりますが、今回の講義を通して皆様には管理者の視点にも触れてください。」
一生人に使われる人生なんてごめんだと思った。
数日後、僕はメンズキャバクラの新人キャストという立場で歌舞伎町の真ん中くらいのローソン通りに立つ。
教授の教えを聞いてまんこの管理者になりたいと思ったのだ。
僕なりに教授の教えを解釈した結果である。
なぜかその授業の単位は落とした。納得できない。
東京に旅立つときホストだけはするなと親に言われたので僕は言いつけを守り、メンズキャバクラで働くことにした。
親の言いつけを破ってはいけない。
隣でたつ先輩キャストの一夜という冴えない男が僕に調子のよい顔で言った。
「ここは1億万通りといって、ここで声をかけ続けれるやつはスカウトでもホストでも一億掴める男になれる。
でもさ、声かけなんてものはどんなバカでもできるのに、なぜみんなできないかわかる?
メンタルが弱いからなんだよね。心が折れるようなやつは一生何も掴めない。
俺は絶対ここで掴んで見せるから、その時はお前も俺の派閥で面倒見てやるよ」
その1か月後、一夜はバックヤードで他のキャストから1万円を財布から抜いたのがばれて仙台に帰っていった。
ものすごく詰められて心が折れたらしい。
彼は1万円しか掴めずに消えていった。
やがて僕もエースを失い、急速にやる気をなくして退店する。
「声をかけ続けたものだけが1億万円掴める」、この頭の悪いフレーズだけが僕の中に残り続けた。
それから2年後、僕はスカウトマンとして街を駆け回っていた。
コカローチオブ歌舞伎ストリート。
歌舞伎で唯一簿記が使えるスカウトマン。
これが僕の宣伝文句。
声かけをするときは学生証(他人)を見せて信用アピールの後、アポイントを取得。
写真部分は指で塞ぐ。ほとんどの人は大学名しかみなかった。
他にも確立を上げるために何でも試した。
同業風俗からの乗り換えを狙うために時間帯ごとに一人で女の子が出入りするラブホ調べ上げ、エクセル管理の後、営業エリア選定、もちろん女の子の出勤も帳簿で管理。
また女の子の待機所をつきとめ何時間も張り込んだこともある。
もし、この行為がばれていたら僕は五体満足でこの世にいない。
スカウト業は、まさに点と点が繋がった瞬間だった。
保証は何もない。敵も多いし女性にも恨まれる。
もちろん精神的疲弊は計り知れず、多くの仲間が闇に消えた。
現代社会なのに法律は守ってくれるどころか襲い掛かってくるとかマジで最高である。
それでも僕らはこの世界に、メンタルと管理のみで成り上がれる一攫千金の世界に夢を見た。
僕の目指すべきは「この楽園全てのまんこ」の管理人。全てを抑えて1億万円を稼ぎ出す。
それ以外のことは考えない。
これが僕が追い求め続けた現代版ゴールドラッシュだった。
睡眠不足の頭、歩きまわってフラフラの足。
それでも、その日計上予定の売り上げみれば疲れはすぐに吹き飛んだ。
仕事帰りの始発に乗る時のどこかへ飛べそうな気持は未だに忘れられない。
現在僕は普通の会社員をしている。
昨日の商談での粗利は300万。Zoomで家から一歩もでることなく決まった。
世界は変わり、スカウト時代に到達できなかった粗利が在宅で手に入る時代となった。
街で声掛けしていたスカウトはネットスカウトが主流となり、オリンピックでなお一層街は浄化される予定だ。
僕のいたスカウト会社も潰れた。
現代版ゴールドラッシュは終わった。
結局、僕は楽園で過ごした4年間で奨学金返済分のみ掴んだ。
1億万円は夢のまた夢、借金のない普通の生活だけ残った。
他のスカウトの末路に比べるとだいぶマシらしい。
だというのに未だに僕は新宿にいけば夜にスカウトの真似をして女の子から連絡先をもらう。何件とっても1円にもならない。
登録しては、すぐ消すことを繰り返す。
ただただこの楽園で何者かになれるかもしれない時間が大好きだった。
だから僕はこの無意味な行為をやめられないのかもしれない。
不夜城の残党として。
※この話はフィクションです!スカウト行為は迷惑防止条例違反だからだめだゾ!★