こうの史代さんの名作、『この世界の片隅に』。

映画化され、ドラマ化され、今回はミュージカルになった。

『手紙~拝啓 十五の君へ~』という素晴らしい作品を生み出したアンジェラ・アキさんの、ミュージカル作曲家としてのデビュー作だ。

 

全編を通して、ほぼ歌で埋め尽くされていると言っても過言ではないほど、多くの音楽によって進んでいく作品だ。優しく美しいメロディーが心に沁みる。

これは確かに「ミュージカル」なのだけれど、私は「音楽劇」と言ったほうがしっくりくるような気がする。なんでかな…と思いながら観終わって思ったのは、逆だからかも?ということ。

ミュージカルは劇的な場面に音楽があって、そこが見せ場だけれど、この作品は、日常に音楽があって、その音楽に乗せて細やかな言葉が届けられる。客席からはしみじみとした映画を見た時のようにすすり泣きが聞こえてくる。

 

とてもとても素敵な「音楽劇」だと私は感じました。

 

バラバラの、ささやかだけれど大切なエピソードを紡いでいくことで「すず」の人生を立体化していく作品であるため、どうしても切り貼り感は残る。ストーリーを全く知らない人は、ちょっと確認していった方がいいかもしれないけれど、先行作品を見ている人は、自分の心の中で少し足りない部分を補いながら十二分に味わえることと思う。

 

今回は素晴らしいキャストの素晴らしい歌声で、完成度の高い作品に仕上がっている。昆夏美さんの声はもっともっと聴きたいくらいに素晴らしかったし、海宝直人さんも音月桂さんも、本当に素晴らしかった。

けれど、この作品は、市民劇団や学校公演などでも広く長く上演されていくといいなあとも思う。

ユニゾンの曲も多いし、メッセージ性の高いソロは、そのメッセージに心を込めていけば、一流の俳優を集めなくても一流の作品にきっとなる。

そんな楽曲によって構成されている、普遍性を持った作品だと思う。

 

あと、もう一つ言うと、これはやはり夏に、8月に観たい。

観るべきだ!

再演はぜひ、夏にお願いしたい。