競馬には様々な格言やジンクスがある。

 

格言としては「夏は牝馬」や「皐月賞は速い馬、ダービーは運がある馬、菊花賞は強い馬が勝つ」など。

どちらかというと抽象的かつポジティブなものを格言と呼んでいると思う。

 

一方ジンクスとしては、「芦毛馬は走らない」、「1番人気は秋天を勝てない」など。

具体的かつネガティブなものがジンクスと呼ばれている。

 

しかし我々はタマモクロス、オグリキャップ、メジロマックイーン、ビワハヤヒデ、ゴールドシップ等々、数多の芦毛の名馬を既に知っているし、昨年驚異のレコードで1番人気イクイノックスが天皇賞(秋)を圧勝したのは記憶に新しい。

つまり格言と違い、ジンクスはいつか「破られる」のだ。

 

「1番人気は秋天を勝てない」は1988年にオグリキャップが1番人気で敗れてから2000年にテイエムオペラオーが1番人気で勝つまで12年続いた。

ちなみに1984年にミスターシービーが1番人気で勝つまでの間にも18年ほど1番人気が勝てない時期があったようだが、その時そういうジンクスが言われていたかどうかはさすがに自分も知らない。

しかし90年代後半の秋天ではたしかにそういうことは言われていて、マックイーンの降着などもジンクスのせいだと言う人がいたように思う。

 

このジンクスの最大の被害馬は98年に1番人気だったサイレンススズカだろう。

あの悲劇を「ジンクスのせい」だなどとは言いたくない。

だが結果として「1番人気は秋天を勝てない」というジンクスはあの年も守られてしまった。

 

ただ勝てないというだけのジンクスなら、後で笑い話にすればいい。

だが馬の命を奪うジンクスなどあってはならない。

あのジンクスは「やりすぎた」のだ。

 

その翌年の秋天も1番人気セイウンスカイは5着に敗れジンクスは継続したが、勝ち馬はサイレンススズカと父を同じくするスペシャルウィークであり、鞍上は言わずもがなの武豊。

あの天皇賞でサイレンススズカの手綱を握っていた武豊自ら、亡き盟友に捧げる勝利を掴んだ形となった。

 

そしてその翌年の2000年、ついにこのジンクスは1番人気の世紀末覇王によって終止符を打たれることになる。

それ以降、天皇賞秋はむしろ1番人気の信頼性が高いレースとなり、そんなジンクスは忘却の彼方に葬られた。

やりすぎたジンクスの末路だと自分は思っている。

 

ここに「青葉賞馬はダービーを勝てない」というもう1つのジンクスがある。

青葉賞が創設された1994年以来、ただの1頭もこのレースの勝ち馬からダービー馬が出ていない。

もっともこのジンクスは単なるオカルトではなくて、東京の芝2400mという過酷なレースを中3週で2度走るというローテーションがこの時期の3歳馬には負担が大きいことが影響していると言われている。

つまりジンクスではなく必然であると。

だが青葉賞馬がダービー2着に惜敗している例はいくつもある。

ローテーション云々で疲労が残っているというなら、2着どころか掲示板に載るのもやっとなのではないか?

クビ差、半馬身差程度の僅差は、疲労の蓄積度合いの差などではなく、それこそダービー馬が備えているという「運」の差のように思えてならない。

運なるものを操るのは、ジンクスというオカルトが最も得意とするところではないだろうか。

 

だがこのジンクスも「やりすぎて」しまった。

昨年の青葉賞馬スキルヴィングは、ダービーで2番人気に推されながら直線で伸びを欠き、17着入線後、急性心不全で死亡した。

スキルヴィングの青葉賞での強さを考えると、昨年はこのジンクスを破る最大のチャンスだったように思う。

ジンクスという名の魔物もそれがわかっていて、だから禁じ手を使ってでもそれ阻止しようとした。

 

もちろんそんなのは自分の妄想に過ぎない。

しかし青葉賞馬がダービーを勝たない限り、どこかの誰かがそれを「ジンクス」と呼んでしまう。

だから青葉賞出身のダービー馬が現れることを渇望する。

そんなジンクスを葬り去るために。

それがジンクスなるものに屈してしまった形になったままのスキルヴィングを弔うことになるような気がするからだ。

 

この理由から今年のダービーは青葉賞馬シュガークンを本命にする。

いや青葉賞馬がダービーを勝つまで、自分は青葉賞馬をダービーの本命に推すつもりでいる。

 

最初に書いた通り、ジンクスはいつか破られるのだから。