成宮鳴は子どもの頃から凄腕のスカウトマンだった。
これはと思う選手を集めて最強のチームを作るという発想も凄いし、実現してしまう行動力も凄い。選手への指摘も的確で、即座に相手の心を掴んだ。
まだ中学3年なのに!
カルロスは成宮に声をかけられて稲実に進学した選手の1人。
同じようにして集まったチームメイトたちに「侵食され、貪欲になっていく」
切磋琢磨して能力が磨かれていく。
それでも「足りない」
「足りない…」
野球でさらに上を目指しているから。
それだけじゃなくて、
精神的な何かが欠けていたからではないかと私は思う。
成宮は「釣った魚にエサをやらない」タイプなんじゃないかな。
選手たちは、世代最強投手である成宮にあんな風に声をかけられ、嬉しくなった。
でも入学してみたら、成宮は自分のことで精一杯。
稲実に集まった彼らは、成宮の向上心から刺激を受けることはあっても、成宮からもっと声をかけられることも、受け止められることも無かったんだろう。
同学年の仲間たちも、対人スキルがいまいちな奴らばかりで、支え合う連帯感に欠ける。
そんな稲実の存在意義はひたすら勝つこと。最強であること。
でもそれじゃ、やっぱり足りない。
この稲実戦、どこか切ない感じが漂っているのは、そのせいかな、と思う。
そこが、稲実戦と市大三高戦との大きな違いだと思う。あれは結束したチーム同士の熱々の戦いだった。
カルロスが打ったボールをキャッチしたのは、同じセンターの東条だった。この時、東条はカルロスのことを意識していただろうなぁ。
東条って、
青道に凄い選手が多すぎてやや地味に扱われてるけど、2年生で不動のセンター。投手もできる強肩、走るの速そう、打てる、頭も顔も性格も良い、オールラウンダー。
稲実主力選手の間の、薄めの人間関係。
そうなったきっかけの一つは、彼らが1年生の時の出来事かもしれない。
成宮は夏大で暴投し、チームは敗戦。
成宮は精神的ダメージを負い、自室に10日間引きこもった。
ActIIではないほうのダイヤのA 180話。
成宮は、鳥の羽音に怯えるほど神経がすり減っていた。
同学年の仲間は、干渉せず、自力で復活するのを待つことを選んだ。
そういう「待つ」関係がずっと続いているんだろう。
特定の相手への接し方って固定されてしまいがちなのか。
3年生になってもみんな、成宮の変化を待っているんだろう。
殻を破って、歩み寄ってくるのを。
その兆し、
高校最後の試合になるかもしれないこの試合で、青道に追い詰められて、
やっと出てきた。
うーむ、
カルロスの「足りない…」って
それだけじゃないかも。
不完全燃焼のような、
やり残したことがあるような感じも
あるのかもしれない。
…自分から成宮に働きかけていない。
稲実のような複雑な高校野球チームという設定、驚き。