第268話 その2 成宮の孤独の続き。

 

降谷は四球は出してもランナーをホームに帰すことはなく、落ち着いた様子で投げ続ける。その姿を見た稲実のエース成宮、「つまりはエースの重圧から解放されて、のびのび投げられてるってこと?」と、まったく面白くないという表情。

 

成宮はエースの重圧を一人孤独に背負ってきている。そんな成宮からすれば、エースを沢村に譲ったばかりの降谷が素晴らしいピッチングをするなんて、許せないのでしょう。

 

でも、降谷が解放されたのはエースの重圧からではなく、自分から解放された。降谷は自分で自分の殻を破った---ということを前回ブログで書きました。

 

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そして迎えた3回表。

ピッチャー成宮。

気迫のピッチングで青道バッター金丸を苦しめます。苦悩する金丸の表情がとても良く、もはや芸術的。

 

対照的なのが成宮の落ち着いた表情。冷静なキラー。

 

金丸を空振り三振に打ち取ったところで、降谷に対して語りかけるかのように、成宮つぶやく。

「それでいいなら、別にいいけど...俺とは関係ねえや」

 

自分は降谷とは違う。エースの重圧を乗り越えて成長してきたんだ。そう自分に言い聞かせているようです。

 

稲実二塁手の下級生、江崎が、三振を取った成宮に向かって「カッコイイっす、鳴さん!」

成宮「知ってるー」

 

読者である私もそんな圧倒的に強い成宮、カッコいいと思います。でもね、一緒にプレーしてるスタメン2年生が、試合中に3年生に向かって、本気でそんなこと言うかなー。それじゃあ、江崎は成宮のチームメートじゃなくて、ファンじゃないか?ファンがスターと一緒にプレーして喜んでる……まあ、スター成宮らしい返答で笑えたし、面白くていいんだけど。

 

稲実のチームってそんな雰囲気なのか。なーんか、違和感

 

続くバッター麻生も三振に打ち取り、ついに成宮の球速は150キロに到達します。観客大騒ぎ。

 

観客席にいる稲実投手コーチの近藤大樹。初登場です。「さあ、ここから上げていこう。」ここから成宮がさらにすごくなること、分かっているわけです。それにしても、稲実にはこんなコーチがいたんですね。若くてまだ20代か30代前半か。新任?青道に対抗できるよう投手力アップのため雇われたのかな。他校から見ると青道の投手の顔ぶれは相当な脅威でしょう。恐らく優勝候補。

 

 

ここからキャッチャー多田野の回想シーンに入ります。彼が間近で見てきた成宮の魅力を回想してくれます。

 

「ただ純粋に、日々目標をもって・・」

ウエイトや大きなボールなどを使った地道なトレーニングの様子が描かれます。

「湧き上がる好奇心、ひらめきに、突き動かされるように・・」

ストイックなんですね。

「ラプソードと出会った時の、子どものようなはしゃぎ方」

確かに子どものようにカワイイ。もう近藤コーチも多田野もそんな成宮にメロメロなんでしょう。それにしても、稲実ラプソード買ったんですね。投手力アップに力入れてるんだ。現実の世界でも導入している高校があるようです。

 

 

多田野の回想続きます。

「新しい球種を思いついたら、何時だろうと確かめずにいられない」

そんな時、成宮は多田野の教室にまで来ちゃいます。これもとてもカワイイ。小学生の弟がお兄ちゃんに会いに高校にきちゃったーみたいな。

 

「もちろん、わがままもたくさん言う・・・」

疲れて歩けないと言う小柄な成宮をおんぶする大柄な多田野。そうか、成宮は多田野の弟か。

 

かと思えば、思いっきり大人な表情を見せることもあるのが、成宮の魅力。そんな時の彼には「ハンサム」という言葉がぴったり。顔が良いだけではなく、ストイックな生き方。。。。マウンドを真剣にトンボがけして整備する成宮を、多田野はハッとした表情で見つめます。新たな一面を発見したのでしょうか。

「それでも時々・・この人は野球の悪魔に取りつかれているんじゃないかと、思う時がある・・」

 

成宮は、野球の悪魔にとりつかれている・・・

 

その言葉に、多田野の本音が表れていると思います。

 

野球の神でも精霊でもなく、悪魔。

成宮は悪魔そのものではない。悪魔にとりつかれている。

 

昔話などに「キツネにとりつかれた」という言い方があります。その人が悪さをしているのではなく、その人にとりついたキツネが悪い。そいういう考え方です。

 

成宮が悪いのではなく、成宮にとりついた野球の悪魔が悪い。

 

…多田野は、成宮に相当苦労させられているのでしょう。野球の技術面だけでなく、精神的にも。

 

試合中に成宮に頬をつかまれ、そのまま話をさせられたり・・・。多田野よく我慢してる。

 

成宮とバッテリーを組んだばかりの頃、多田野は成宮に対してもっと冷めた態度でした。しばらく経ってからも「先輩としてどうかと思う」と言っていました。多田野は成宮の性格が苦手でも、技術的にはるかに優れる成宮についていき、認められなければ、多田野の野球人生は終わります。助けてくれそうな原田達は卒業してもういません。誰も助けてくれません。今の3年のカルロスや白河は、多田野に、「成宮を甘やかすな」と言い捨てて歩き去ってしまいます。多田野は成宮のことを本心でどう思っていようと、稲実の正バッテリーとして周囲の全ての人から認められなければなりません。

 

多田野は頑張って、技術的には認められるようになりました。その過程で、自分を押し殺した部分もかなりあったのでしょう。相手に自分を合わせすぎる「過剰適応」と呼ばれるような状態にあるのかもしれません。成宮に自らを合わせようと頑張りすぎ、自分の心を抑えてしまっている。

 

成宮がとても魅力的なパーソナリティであることも、災いした。惚れてしまった弱み、大好きな相手のためなら、そして自分の夢のためなら、辛くても我慢できるーーーそんな心境?それって過剰適応・・・そして危ない関係、「共依存」と言えるかも。「僕が鳴さんを孤独にさせない」ために、過剰なほど成宮に合わせて、頑張ったけれど、結局、成宮鳴は孤独なまま。

 

どちらのためにもならない共依存。

 

成宮と多田野という主要選手の危ない人間関係は、周囲にも悪影響を及ぼしているのでは。例えば江崎。

 

成宮は周囲の多くの人を振り回すだけの莫大な精神エネルギーを持っています。技術的にも劣っていた下級生の多田野が成宮をコントロールするのは無理でしょう。多田野は性格が普通の人、「ただの人」です。

 

もし御幸が稲実に入学していたら、こうはならなかったでしょう。御幸は性格が並外れて強く、相当な策士で、2人が出会った時から成宮を翻弄していました。

 

多田野には、キャンディーズの曲「優しい悪魔」を贈ろう。あの人はーーあ~くまぁ。

 

 

成宮は、筆者にとっては、「天使」です。超人的能力を持ち、チャーミングな性格とルックス。人の心の間を軽やかに飛び回り、ハートをわしづかみにしていく。いたずらっ子で、意地悪なところを隠そうともしないんだけど、憎めない。この漫画をさらに面白くしてくれるキャラ。読者にはキャラの害は及ばないから。

 

 

さーて。この268話の最後に、コーチの予言通り、成宮はさらにパワーアップして「変身」します。あっけにとられた表情の降谷と沢村。筆者はスーパーサイヤ人になった悟空を思い出してしまった・・・。

 

今日はここまで。次回269話 30巻 第269話 成宮ゾーン状態、でも負けてない降谷に続きます。