まぁ遅刻のせいで目の前で幸せそうにカレー食ってるこいつ(昭典)に昼飯おごる羽目になった。

「うん。学食のカレーはうまい。」

大学生にもなってカレー好きってな。まぁうまそうに食うこいつの顔は良い顔をしている。カレー食ってるときが一番良い顔ってのも、どうかと思うが。

「で、柏木七海に告白ですか?お兄さん。」

カレーをいつの間にか食い終わった昭典がにやにやしながら、こっちを向いていた。

と、その瞬間周りの視線が俺の身体をぶち抜いた…痛い。痛すぎる。

「っておまえ声でけぇよ。」

小さくこの馬鹿(昭典)にいった。

「ごめん、ごめん。でもさ、柏木七海に告白なんてしても成功確率0%ですよね~。」

確かに。今まで噂では50人、いやもっと大勢の男女(なぜ女も噂に含まれているのか知らんが……あながち嘘でもなさそうだ…)が柏木七海に告白をしたが全滅らしい。おかげで彼女に告白しようと思うものなら周りから「御愁傷様!」な目で見られる。死亡確定の戦場に特攻するようなものだから仕方ない。

「告白なんてしねぇからー!」

と、立とうと椅子をひいたとき何かにドンッとぶつかり、床にものが撒ける音がした。

「あ。」

床にはカレーとその他、金属食器などが散乱し、尻餅をついた女の子がいた。柏木七海だ。柏木七海がこっちを見ながらぼかーんとした顔をしていた。

「あ、悪い。」

そういって俺は手を差し出すと、柏木七海の手をとって引き起こした。小さい可愛い暖かい手…ってそんなこと考えてる場合じゃないだろ俺!

「あっ、あの…なんて言いますか…えっと…。」

起きあがった柏木七海は頬を少し染めて、しどろもどろだった。柏木さーん、なんでそんな風になっちゃってんですか。

「あっ、柏木さ…」

謝ろうとしたとき、食堂にいた連中が「死ね!」だの「不潔!」だの「牛!」だの…罵声をとばしてきた。…ってか最後の牛ってなんだよ…。

「七海様、こんな人といたら汚されちゃいますよ。」

柏木七海の護衛のような女、九十九未蘭が柏木七海の手を取るとその場から離した。

「あっでも…。」

困った表情のまま、まだ物言いたげな柏木七海は強制送還された。相変わらず俺には周りの目線が痛いほど突き刺さるんですけど…。

「あらら、未来君も大変ですねー。」

昭典がにやにや笑いながら俺の肩をたたいた。





…ほっとけ。





とにかくそんな騒動もありーので、今日の講義も終わり無事帰宅の時間がやってきたわけだ。いつもなら家に直行、そのままオンラインゲームにin!って感じだが、今日はそうはいかない。待ちに待った、RPGゲーム「カオス☆イノセント 2nd Season」の発売日。発売日に手に入れなきゃ、何のために予約してんのかわかんねぇし、ゲーマーとして許されねぇ。

とにかく、講義が終わるや否や、鞄をもって、猛ダッシュ開始。今の俺は誰にも止めれませーんってね。

「河島さん!」

ダッシュは5秒も立たないうちに妨害された。後ろを振り返ると、そこには柏木七海がいた。あの…今呼んだの…柏木七海さんですかね…。

「お忙しいところ申し訳ありません。あの…。」

高いソプラノボイスが響く。可愛すぎる……。柏木さんに止められるなら忙しくても喜んで止まりますって!って俺、単細胞すぎ。

「あのーえっと…あの…。」

人差し指同士でもじもじしている。

「昼間は…申し訳ありませんでした。」

ちょっ…あなたのせいじゃないです!決して柏木さんのせいじゃないですよ。そんなに丁寧に謝られると全責任おいたくなっちゃいますよ。

「いいって、俺も悪かった。カレー台無しにしてごめんな。それじゃ…。」

ここはクールに立ち去るのが完璧だろ。

「私と。」

走る体勢をとっていた俺をソプラノボイスが止めた。

「私と…でっ、で、で、」

で?何だ?柏木七海は顔を真っ赤にして、伏せた。

「私とデートをしていただけないでしょうか。」

あっデートね。もちろん喜ん……って、ええええええええ。一瞬、思考回路が停止した。その様子を見た柏木七海は続ける。

「えっと…ダメ…でしょうか…?」

えっと、デートって…男女が一緒に海とか遊園地とか水族館とか遊びに行って、二人の時間を楽しむ…あの世間一般で言われるやつですか…?

「はい。」

顔を真っ赤にした柏木七海が頭にハテナマークを10個、いやもっと浮かべてこっちを見ている。

ちょっと待て…落ち着けよ河島未来。柏木七海が何を考えてるか知らないが、デートっていったら考えている例のアレしかないわけで…もしそうだとしたら柏木七海が俺に少しでも気があるってことになるが。何しろ50人以上(女も含む…)もけっている女だ…まさかあるわけないよな…。

「あっ…あの…えと…」

ちょっ!可愛すぎるからそんな困った顔でこっち見ないでくれーこれこそ本当の萌えの状態。

「私、何か変なこと言っちゃいましたか…?」

「いえ!行きます!」

あーあ、言っちゃった…でも嘘じゃないわけで…。

「はい。」

柏木七海は満面の笑みを俺に見せた。喜んでくれているみたいなんで結果おーらいか…。

「じゃあ…これを。」

柏木七海はメモを取り出すと俺の手に渡した。メールアドレスが小さくて丸い可愛い文字でかかれていた。えっと、まさか…

「時間や場所はまたメールさせていただきたいので、ここにメールいただけますか?」

はい、喜んで!…マジで…。

この日常からはみ出した反日常の出来事に俺は全くついていけない。と、俺が混乱している間に「でわ、後日。」と丁寧にお辞儀をして柏木七海は去っていった。

とりあえず、なにが起こったのか未だに理解できないが整理してみよう…。突然、超可愛くて超お金持ちのお嬢様が、帰り際の、貧乏大学生でそんなにルックスがいいわけでもない俺を呼び止めた。そして、恥ずかしがっているのかもじもじしながらデートに貧乏大学生(自分のことだけど)を誘う。断る理由なく、てか、OK以外の答えなんてないので、いきおいでOKしてしまう。するとメルアドを書いた紙を渡して、メールしてくれと頼んでくる。

…待て、何気にお嬢様のメルアド手に入れてんじゃん…。やばい、なんか恥ずかしくなってきた…。顔熱いし…。柏木七海…か…マジで好きになってしまいそう…まぁ最初から好きになってたけどさ。

そのまま柏木七海のことだけ考えて家に直行。



………ゲームもらいに行き損ねた事は翌日まですっかり忘れていた。








 世界をまたにかける柏木財閥のご令嬢、容姿は美人系というよりかわいい系、人形みたいなクリッとした瞳、肩まで伸びた黒々とした綺麗な髪、そしてソプラノボイス。性格も文句なしの100点、いや120点満点。

……とまぁ俺の猿並みの頭ではこれ以上の表現は出来ない。それぐらい柏木七海というお嬢様は完璧すぎたのだ。天使だ!いや、大天使・ミカエル様だ!ってそんな表現しか出来ない俺、馬鹿すぎ…。

 俺自身の自虐はさておき、毎日のようにオンラインゲームばかりしている俺だったのだが、今日はかのノストラなんとかがした予言が完全的中(もう無理だけど)よりも遥かに確率の低い事態に遭遇してしまって、ゲームに集中出来ねぇんだけど…。てか、まだドキドキおさまんない。どうおさえればいいっていうんだよ…。

事件は今日の大学の帰宅しようとしたまさにその時に起こった。目の前には柏木七海。そして、彼女が口にした、

「デートをしていただけないでしょうか?」



*



「朝ご飯は!」

「いらねぇ!やばいやばい…!」

とにかくやばいんだ…昨日の夜中に、オンラインゲームに夢中になりすぎて気付いたら朝の4時。チャット画面に「オールナイトだぜぇ!」とか打ち込んだ5分後にはバタンキューって俺の馬鹿…。目の前にはあの超お嬢様の姿があって、俺に向かって「結婚してください」だってよ。当然俺の答えは「俺でよければ。」なんて超幸せ気分に浸ってると思ってパッと気がついたら…現実はそんなに甘くなかった。床には目覚まし時計が電池はずれて止まってるし、1階からは芽衣(中学生の生意気な妹だが)の「行ってきまーす」とか聞こえるし…。えらい早い出発だなとか思って携帯見たら…講義始まる30分前…。終わった。………本当俺のバカ!

 いや、まだ計算上は間に合う。家から駅まで10分、今から10分後ジャストに出る電車に乗って5分、そこから7分猛ダッシュ!間に合うじゃん。いける!猛スピードで支度を済ませて(実際のところ、昨日と服も変わってるわけじゃないし、鞄の中身も何ら変わってねぇ…。まぁ机にもたれかかってたおかげで髪だけは完璧だ)家を飛び出した。いつぞや見た事があった、懐中時計を持ったウサギのごとく走っていた。…っていっても、運動神経も何もない俺の足はめっちゃ遅いけど。とりあえずそんな事は関係ない、今は間に合えばそれでいいんだ。

 丁度駅に着いたとき、時計を見てみると過去新記録更新だった。内心、嬉しさがわき出てきたが、喜んでる暇なんてない。早く電車に…

「ドアが閉まります。ご注意ください。」







…遅刻確定。





「おはよ…。」

親友の昭典の隣に座るや否や俺は死んだバッタのように机に倒れた。

「ありゃ、遅かったねー。あっ、はい。」

昭典がカードをくれた。忘れたが、法律の……なんとかというこの授業では毎回授業の頭に出席カードというものが配られ、授業の終了時に提出して退席する。ただし、配り方が雑なため一人で手に入れようと思えば何枚でも取得可能。つまり誰かに頼めば楽なわけだが…

「今日の昼飯は未来のおごりだね。」

こういった暗黙のルールは存在するんだよな…。とにかく遅れた方のためにカードをとるが、罰ゲーム有り。世の中甘くはない。カードを渡した昭典は、鞄からおもむろに携帯ゲーム機(今、流行りのPA(ポータブル・アドバンス))を取り出すと机にうまいこと隠して始めた。授業きかねーならこなきゃいいのに…とか思ったが、狙いは昼飯だと考えなくてもわかったからあえてつっこまなかった。



ふと、顔を前に戻すと、斜めちょっと前に座っていた女の子と目があった。女の子はポッと頬を赤く染めて顔を背けると、床に落ちていた白い消しゴムを拾い上げた。ちょっ……かわいすぎるでしょ。俺が顔背けたいって…目があっただけで恥ずかしいし。柏木七海最高。

柏木七海。

国内ならず海外までもまたにかける貿易の巨匠、柏木財閥の令嬢。容姿は美人系というよりかわいい系、人形みたいなクリッとした瞳に、肩ぐらいまで伸びた黒々とした綺麗な髪、そしてソプラノボイス。性格も文句なし100点満点…いやそれ以上。って頭の悪い表現しか出来ない俺にはとうてい言葉に出来ない人。成績優秀で、完璧な人ですよ。さっきもきっと、消しゴム落としたの見られて恥ずかしくて…ですよね!可愛い~。って俺マジきもいね。わかってる。

大体、あんなお嬢様と、ゲーオタで、勉強好きなこんな俺とは住む次元が違いますよね。あはは…。

「未来、どうした?また柏木七海、見てんの…無理だからやめときなよ。」

ゲーム画面しか見てないおまえが何でそれに気づいた!

「勘。」

鋭すぎる…。

まぁこいつはおいといて、可愛いよな~柏木七海。あんな子、彼女にいたらしんでも良いわ。

「だから無理だから諦めなって。」

だから鋭すぎるわ!超能力だよね。完全に。















教会の中にはただ雨と雷の音だけが響いた。雨に打たれた幸治の服は突然の雨でびしょびしょに濡れていた。
「幸、早くふかないと風邪ひいちゃう…。」
瑠璃はポケットからハンカチを取り出すと幸治の顔の滴を拭った。
「大丈夫。それより瑠璃は…。」
「私は大丈夫!だって幽霊だもの。」
「そっか。」
幸治の手が瑠璃の服にかすめたが確かに濡れてはいなかった。
「綺麗…。」
教会の壁を見て瑠璃は呟いた。十字架の掲げられている正面の壁の上には天使の描かれた大きなステンドグラス。時折光る、雷の閃光により反射されそれは輝いた。
「本当だ。」
二人はステンドグラスを見つめていた。

それからしばらく教会の中で待っていた二人だったが、一向に雨が止むことはなくただ時間だけが過ぎていき、窓から見える外の世界は闇に包まれ始めていた。それに伴って薄明るい照明しかない教会の中も暗くなってきた。
「暗くなってきちゃったね。」
「うん…。」
と、その時、雷が閃光をはっしたかと思うと教会の中の照明が一瞬にして消えた。
「きゃっ!」
とっさに瑠璃は幸治にしがみついた。
「停電みたいだ…。大丈夫だよ。」
「うん。」
瑠璃の手は幸治の服を掴んだままだった。
「瑠璃って昔から暗いとこ苦手だよなー。」
「だって怖いんだもん…。」
「確か…あの時からだよな。」
瑠璃が暗闇を怖がり始めたのは小学低学年の頃に起こったとある事件からだった。

その日の夕方、瑠璃と幸治は同級生五人くらいと学校近くの林でかくれんぼをしていた。丁度、烏がなき始め日は傾き始めていたので、最後の一回やろうということになった。ジャンケンの結果、最後の鬼になったのは瑠璃。側の木に顔を伏せて、瑠璃はカウントを始めた。
しばらくして、『もうい~かい』と声あげた。だが、返事はこない。瑠璃は顔を上げて探し始めた。返事が聞こえなかったということは近くには隠れてないと考えた瑠璃は林の木がたくさん立ち込める薄暗い細道に入っていった。
日が傾いているせいかとても暗く不気味な感じを漂わせていたが、当時、冒険好きだった瑠璃にとってはわくわくするような場所でしかなかった。辺りの木の裏や大きな岩の裏を探してみるが誰もいない。
ここには誰もいないと思った瑠璃が引き返そうとしたとき、後ろの草むらでガサガサっとなにかが動く音がした。[誰か隠れてる]そう確信した瑠璃はその草むらの方に歩いて行った。と、足元に踏み場がなく瑠璃は体制を崩して下に落ちた。
「いたーい…。」
痛さを堪えながら立ち上がった時、瑠璃は穴に落ちてしまったことを悟った。自分の頭より少し高いぐらいの穴。瑠璃は穴から抜け出そうと足をかけ登ろうとするが、足をかけた部分の泥は崩れてしまい、なかなか上に登ることが出来ない。
「誰か助けてー!」
瑠璃は叫んだ。だが、誰も来なかった。
日は更に傾いて薄暗かった景色は一気に暗闇へと変わっていった。
瑠璃は穴の底にうずくまり、泣いていた。

「あの時、助けてくれたのも幸だったよね。」
瑠璃は遠くを見つめていった。
「折角、絶対見つからねぇ自信あったのに肝心の鬼がこないもんなぁ!」
幸治は笑った。
「穴におちちゃってたんだもん…。でも、皆、私は帰っちゃったんだって思って家に帰ったのになんで幸だけ探しに来てくれたの?」
瑠璃は幸治の顔を見た。と、同時に停電していた薄明るい電気が付いた。
「俺も帰ろうとしたよ。でも…。」
「でも…?」
「…瑠璃ってさ、道一人で歩かなかったじゃん。絶対どこ行くのも一緒だったし。だから、帰ろうとしてたんだけど引き返して探したんだよ。なんかあったんだって思ったから。」
幸治は少し照れながら瑠璃から目線をはずした。
「幸って…私のことちゃんとみててくれたんだ…。」
幸治を見つめていた瑠璃の目から涙が溢れた。瑠璃はそっと幸治の手を握った。
「ありがとう…。」
小さく呟いた。
「瑠璃…。」
目線をはずしていた幸治が瑠璃に目線を戻したとき目を丸くした。
「瑠璃!」
僅かだが瑠璃の姿が薄くなっている。
「えぇ…もう時間みたい。」
瑠璃は既に気が付いていた。もう幸治の前にこうしていられる時間はないということを。
「…。」
「幸…。」
幸治はうつ向いたまま何もいえなくなってしまった。ポツポツと涙が下に落ちている。しばらく沈黙が続いた。
「……瑠璃。」
「何?」
幸治は目の涙を手で拭うと立ち上がった。
「俺さ…瑠璃と一緒にいられたことが今まで生きてきて一番の楽しいことだった。」
「うん。」
「だから、瑠璃が転校してしまうって聞いたとき本当辛くて…。何も考えられなくなって…。」
教会の中に雨音と幸治の弱々しい声だけが響く。
「その時は瑠璃の電話とかで頑張らないとって思えた。」
「うん。」
「でも…その日、瑠璃が死んだって…!」
「幸…。」
瑠璃はそっと立ち上がった。
「頭の中、真っ白だった。俺は瑠璃を守ってやることが出来なかったって…。」
「そんなことないよ。」
「肝心な時に瑠璃のために何もしてやれない自分が嫌だった。だから、もう俺も瑠璃を追い掛けて死の…」
幸治が言葉をいい終える前に瑠璃は幸治の真正面まで走りよると幸治の頬を叩いた。
「る…り…?」
幸治の目の前の瑠璃は今まで見たことがない強い眼差しだった。しかし、どこか寂しそうな雰囲気もあった。
「幸…馬鹿な事言わないで…。」
瑠璃の目から涙が滴となって頬をつたった。
「…。」
「幸は何も悪くない。だって、幸がいつも一緒にいてくれて楽しかったよ。私に幸せをくれたのは幸だったんだから。そんなこと言わないで…。」
「でも…。」
「死ぬなんて思わないで。そんな簡単に…。幸がいなくなっちゃったら莉音ちゃんはどうなるの?隆君は?悲しむ人沢山いるんだよ!」
「瑠璃…。」
「幸…私の分まで生きて。」
瑠璃の強い思いを感じた幸治はただ静かに固まっていた。
「瑠璃…ごめん…。俺、間違ってた…本当、情けない…。」
幸治は地面にうずくまった。
「私が最後に伝えたい言葉。幸、これから辛いこととか泣きたいこととか沢山あると思う。そんなとき、行き詰まってもいいと思う。泣いたっていいと思う。だけどしっかり強く生きて!これから楽しいことだって絶対あるんだから。」
瑠璃は涙を流しているにも関わらず顔は微笑んでいた。
「うん…。」
「約束。」
瑠璃はうずくまっていた幸治の前に小指を立てた。幸治は頭をあげると目の涙を手で拭って笑った。
「おう…約束!」
幸治は小指を重ねた。二人の小指は強く結ばれた。
と、幸治は瑠璃の腕を引き寄せると瑠璃を抱き締めた。
「ありがとう。俺が瑠璃に一番伝えたかったこと…。ありがとう、いつも側にいてくれて。二人の約束は叶わなかったけど本当…嬉しかった。楽しかった。」
幸治は微笑んだ。
幸治の抱き締めた瑠璃の体は静かに薄くなっていった。そして、いなくなってしまった。最後に『幸、ありがとう。』と言い残して…。教会の中は雨と雷の音だけが響いていた…。


【素敵なヒトトキをありがとう】



三年後。

「遅刻しちゃうー!いってきまーす!」
莉音は慌てて家の玄関を飛び出した。
「いってらっしゃい。」
幸治は莉音が出ていく姿を笑いながら見送った。そして、自分も学校へ行く準備をして家を出た。
今日はまだ授業の時間には早かったが寄り道するところがあった。幸治は近所のお墓へ行くと迷うことなく一番奥にあるお墓へ向かった。片手には花を持って。
そのお墓には[新居家]の文字。そう瑠璃のお墓である。
お墓の前にしゃがんだ幸治はお墓を見つめ、話しかけた。
「瑠璃、今日は朝から莉音がさ寝坊しておお慌てでさ…。」
幸治はたまに瑠璃の元に来ては何気無い話をはなしていっていた。
「じゃあまた来るから。」
そういってお墓の前に花を置くと立ち上がった。
「おっと忘れるとこだった。」
ポケットから何かケースを取り出すとそれも花と一緒に置いて立ち去っていった。

そのケースの中には指輪。
今日は瑠璃の二十歳の誕生日。

~Fin~





≪作者あとがき≫
「伝えたい言葉」最後まで読んでくださってありがとうございます。柊棗第一作無事に完成(^_^)/コメントなど頂いた方々ありがとうございます!
最初、不思議な感じで話を進めようと思ったら恋愛系に流れました汗
とはいえ、これは私の主観が入りすぎてますが(笑)
また読んでみての感想などぜひコメント残していってください。