今回のドイツ出張は、ホテル住まいです。
それはセキュリティの問題でそうなりました。
借家も考えましたけど、空き巣に入られるリスクと、人と会う回数が多いから、部屋の手入れの時間削減でホテル住まいにしました。
メイドさんが部屋を綺麗にしてくれるメリットを選択しました。
泊まるホテルは、駐ドイツ日本大使館にいる従兄弟の紹介で決めました。
安心して食事が出来、ゆっくり眠れるホテルを頼んでおきました。
値段は、それなりですけど、格式のあるホテルです。
ホテルのフロントでキーを受け取り、部屋に行こうとしたら、後ろから声をかけられました。
ブンケのワカサマ、お久しぶりです。
片言の日本語で、私を呼ぶ老人がいました。
私は、振り返りました。
ミュラー、久しぶりだね。
若い時に、赤坂東急ホテルにいた、ミュラーがいました。
私の叔父が、東急の社長に仕えていて、私の父は、社長と一緒に狩猟に行く仲でした。
たまたま、赤坂東急ホテルで用事があると、留学中のミュラーには、遊んでもらっていました。
ワカサマ、今夜は私も支配人にいます。
何かあったら、この番号に電話を下さい。
そう言って、紙を渡されました。
分かったよ、ミュラー。
今度食事をしたいね。
そう言って、別れました。
部屋は、シングルルームですけど、調度品はクラシックで、落ち着いたムードが有ります。
まだ時差ボケがあるから、早く寝ようと思って、22時に、睡眠薬のマイスリを飲んでベッドに入りました。
通常、マイスリを飲んでいる時は、ほとんど夢を見ません。
ディープスリープに入るからです。
でも、この時は、夢を見ました。
女性が男性に犯されて、惨殺される悪夢を見ました。
私は、恐怖で目覚めました。
すると、足許に夢で見た男女が立っていました。
私は、急いで備前長船を出して、身構えました。
ドイツ語で、何かを叫びながら襲って来ました。
私は、二人を、いや、2体の悪霊を斬りました。
しかし、部屋を血まみれにしてしまいました。
不味いな。
私は、ミュラーを内線で呼びました。
ワカサマ、どうしましたか?
ミュラーに、事態を説明しました。
すると、ミュラーはタオルで綺麗に拭き取りました。
ワカサマ、問題は解決しました。
お休み下さい。
そう言って、部屋を去りました。
時計を見たら、深夜3時。
丑三つ時です。
日本もドイツも変わらないのか?
そう思いながら、ベッドに入り眠りました。
それからは、朝までぐっすり眠りました。
翌朝、バイキングで朝食をしていたら、ドイツ支社の秘書が迎えに来ました。
少し待ってくれ。
私は、食事を済ませ、歯を磨き、スーツに着替えてから、フロントにキーを預ける為に寄りました。
ミュラー支配人を呼んでくれないか?
日本人が呼んでいると言えば分かるから。
すると、フロントのスタッフの顔色が青ざめました。
お客様、ミュラー支配人は、丁度一年前に、急病で亡くなりました。
支配人は、最後にワカサマにもう一度会いたかったと言って、息を引き取ったそうです。
私は、背筋に悪寒を感じました。
そうだったのか?
秘書が車を入れ替えて、R8を玄関に持って来ました。
私が、アゥディに乗る寸前にミュラーの声が聞こえて来ました。
ワカサマ、お元気で。
横を見たら、笑顔でミュラーが立っていました。
幼い子供の頃に見た、懐かしい笑顔でした。