今回のエピソードはいつものよりもかなり長め。
なんせ、濃い一日だったもんで...
オスロ入り四日目。
その前夜、2週間のイタリア、フランス、スペイン旅行から
戻ってきたばかりの友人たちと合流することになっている。
この旅行に私も誘われていたけど、
スケジュールの調整がつかず、結局、オスロで会うことにした。
友人たちと言うのは、五月に東京で会ったばかりの
マレーシア系中国人のピーターとカレン、
その友人のホック、そしてピーターのパートナー、モートンである。
ピーターはクアラルンプール(KL)で
『Peter Hoe Evolution』 という
ニューヨークタイムズでも紹介された
人気なアジア雑貨店を2店舗経営している。
ピーターの許可を得て、
彼がNYTの取材で撮影された写真をここに載せることにした。
残念ながら、店のホームページは作っていないそうだ。
私自身はまだ一度もピーターの店に行ったことがないけど、
彼の店には現地在住の日本人や欧米の駐在員はもちろん、
日本から来た観光客もよく訪れるだという。
KLにご旅行の際は、ぜひ覗いてみてください。
Peter Hoe Evolution + Beyond
こちらの店舗にはカフェが併設されている。
145,2F,Jl. Tun H.S.Lee,50000 KL (本屋さんの上)
tel:2026-9788
Peter Hoe Evolution
2,Jl.Hang Lekir,50000 KL
tel:2026-0711
この日はピーターとモートンの自宅でランチに招待されている。
市の中心から車を走らせて15分ほど行ったところに、
二人の愛の巣がある。
ピーターがマレーシアで事業を経営している一方、
モートンはノルウェーでコンサルタントをやっている。
ピーターはゆくゆくオスロに移住するけど、
それまでに、モートンと“通い婚“の形をとっている。
ノルウェーでは同性の結婚は合法である。
二人は2年前にオスロ市内にある
とても素敵なホテルで結婚式を挙げたものの、
法律上の婚姻関係にはまだ至っていない。
というのは、ピーターが外国籍である上、
ノルウェーに常住していないため、
手続きにちょっと時間がかかっているからだそうだ。
「死んだら、モートンと同じ墓に入りたい。
そのためにペーパー上も夫婦になりたい。」
軽口をよくたたくピーターのこの時の表情は
いつともなく真剣だった。
ピーターとモートンの自宅は
6階建てのマンションの最上階にある
広さ約100平米の2LDK。
モートンが数年前に購入した家だそうだ。
スタイリッシュでかつ機能性の高い
北欧風キッチンと家具が
天井の高いマンションに品よくおさまっている。
「なにこれ?このうちのバスルーム、
うちのリビングルームよりも広いわ!」
トイレを借りるときに思わず二人にそう叫んでしまった。
日本と違って、
欧米ではバス・トイレが一緒になっている家がほとんど。
ノルウェーの冬の厳しい寒さをしのぐために、
タイルの床には暖房が入っている。
夏だと言うのに、この日のオスロの気温は18度。
床の温みが足の底から気持ちよく体に伝わる。
「ノルウェーではこの広さは普通よ。」
「寒くたっていい。この広いバスルームのために
私、ノルウェーに引っ越してもいいわ。」
と、私が冗談を言うと、
「Lapisなら、絶対ノルウェーでの生活気に入るよ。」
実際に、ノルウェー入りしてから、
不快な経験が一度もない。
人は親切で礼儀正しい。街も清潔だ。
日本人受けする国だと思った。
この日はモートンの友人のAさんもランチに呼ばれている。
古希に近いAさんもまた同性愛者である。
リタイアした彼には、現在パートナーはいない。
家の庭に花、野菜やハーブを育てながら
独りで悠々自適に暮らしているそうだ。
この日も自宅の庭から愛らしい花を摘んで来て、
食卓を飾ってくれた。
ランチのメニューはシンプルだが豪華でもある。
一行がイタリアなどから持ち帰ったイベリコハムやワインに、
地元で捕れた甘みたっぷりのエビ、焼きたてのパン、
そしてAさんの庭で採れた野菜でこしらえたマンゴサラダ。
ディナーの用意はゲイ男4人がしてくれた。
私とカレンはそばでシャンパンを飲みながら
その様子を見ていただけ。
「普通の家で、
いっぺんにこんなたくさんの男性がキッチンに立つ光景は
日本ではまず見ないわ。」
実際、私自身が今まで男性に料理を作ってもらったことは
数えられるほどの回数しかない。
「まぁ、かわいそうに。
ノルウェーの男たちは料理するのよ。
その中でもゲイは特に料理がうまいわ。」
ピーターはそう言いながら
そばでパンを切っているモートンを優しくハグした。
その動作がとても自然で慈しみ深かった。
私の知っているゲイは概して料理上手。
ファッションセンスが良く、
家のインテリアにも凝っている。
その上、女性以上に気配りがいい。
「それなら、モックにすてきなノルウェー男を探してあげたら?」
年一回(?)オスロで催される国際ゲイ集会に参加するために、
モックは3週間前に先にオスロ入りしている。
モックとはオスロで初めて会った。
彼もまた気のきく優しいゲイである。
ピーターが肉食系ゲイいなら、
モックは草食系ゲイと言ってもよいだろう。
「モックはもっと積極的に男にアタックしていくべきよ。
相手が寄ってくるのを待っていたらいつまでたっても
なにも起きやしないわよ。」
ワインでより滑舌になったピーターは
間髪入れずに舌を巻きたてる。
「いいのよ。タイミングが来れば、
ワタシにもふさわしい人がきっと現れるさ。」
モックは少しはにかみながら言う。
4人のゲイ男に二人のストレート女が一つのテーブルを囲い、
3時間近く飲みまくり、食べまくり、喋りまくりのランチ。
私の普段の暮らしでよく見られる光景ではないけど、
特に違和感はない。
逆に、
ストレートに発言できる雰囲気に私は居心地良さを感じる。
国籍、人種、性別に関係なく、
人間そのものの魅力に、私はいつも惹かれるのだ。
6人で3キロほどのエビを平らげた。
解凍しただけの北海のゆでエビが
こんなにも甘いものだとは知らなかった。
舌鼓を打つ絶品!
パンにバターを塗り、
殻を剥いたエビをぜいたくに並べ、
その上にディルをのせ(これもAさんの庭から)、
軽くレモンを絞り、塩コショウをかける。
これがノルウェー人の食べ方だそうだ。
そのエビサンドをシャルドネと交互にいただく。
その間に他愛のない会話が弾む。
まさに至福のひと時だ。
この日の夜、同じメンバーが
モートンの友人宅でディナーに招待された。
モートンが言うには、
ノルウェー人は時間厳守の民族である。
食事に呼ばれた場合、
必ず約束の時間きっかりに現れなければならない。
5分早くても遅くてもダメ。
私たちが約束時間より2分遅れて招待主の家の前に到着した時、
家の主人はすでに玄関の外で私たちの到着を待ちわびていた。
モートンの友人のBさんは出版社で編集の仕事をしている。
BさんのパートナーのCさんは
ノルウェー有名な性愛学者だという。
二人はオスロの近郊に築75年の一軒家に住んでいる。
もちろん、その間何度も改築を重ねてきた家だ。
家の前には手入れの行き届いた庭がある。
そこにはスチール製ランチテーブルとイスが数脚置かれている。
庭の奥にある小さな池に6尾の小ぶりの鯉が優雅に泳いでいる。
Cさんはラジオで自分の番組或いはコーナーをもち、
週一回リスナーから性愛について相談を受けている。
彼は現在、
学術的観点から見たゲイの性愛について執筆中だという。
Cさんは若いころ、俳優業もしていた。
元奥さんは近年に亡くなった有名なイギリス人女優だったそうだ。
後でカレンから元奥さんの名前を聞いたけど、
なじみのない名前だったから覚えていない。
おもしろいことに、Cさんの元奥さんが
なんとAさんの元恋人でもあった。
なんとも不思議な関係だ。
ピーターやモートンと違って、
Aさんも、BさんもCさんもかつては異性愛者だった。
というよりも、
自分が同性愛者であることに気付いていなかった。
其々結婚歴を持ち、子供もいる。
そう言うゲイは多いようだ。
香港に住む知人は夫との間に二人のかわいい子供がいる。
家族四人で幸せな日々を過ごしてきた。
もちろん、これからも夫と共に子供の成長を楽しみに
"growing old togehter" と思っていた。
しかし、夫がある年のクリスマスの日に突然家を出て行った。
それも、愛する「男」の元へ。
彼女はこの青天の霹靂の出来事から生まれたトラウマを
しばらく引きずっていた。
それもそうだ。
長年隣で寝ていた夫にある日
自分が本当は同性愛者だとカミングアウトされたら、
耐えがたいショックを受けるのは容易に想像できる。
それも一家が団々すべくクリスマスの日に。
あまりにも残酷すぎる現実だ。
全員が庭でワインを一杯飲んでから、
家の主人が私たちを家の中に招き入れてくれた。
モートンの家でもそうだったけど、
BさんとCさんの家に上がる時も、みんな靴を脱いだ。
ノルウェー人と日本人の意外な共通点を見つけて、
私はノルウェー人により親近感をもった。
Bさんがディナーを用意している間、
Cさんが家の中を案内してくれた。
二人が住むには広すぎる、
地下一階、地上3階の北欧風の家の床は
松の木をふんだん使ったフローリング。
階段を踏めば、この家の歴史を語るかのように
床がミシミシと音を立てる。
リビングルームにはアンティークの家具と調度品が
いたるところに置かれている。
ダイニングテーブルの上に吊るされている
古典風シャンデリアは18世紀の代物。
Cさんのひいひいおばぁちゃんが
恋仲だった当時のノルウェー国王から頂いた逸品だという。
貴族の血筋を受け継いでいることを匂わせる発言だけど、
自慢している様子を感じさせない嫌みのない言い草と
落ち着いた学者らしい立ち振る舞いが
すでに彼の出身の良さを物語っていた。
ダイニングルームの横にある3.5畳もあろうキッチンには
暖をとるための小さな暖炉がついている。
2階には書斎とマスターベッドルーム、
そしてバスルームがある。
家の最上階には
恐らく後から増築したと思われる書斎とサンルームがある。
質素だが、とても居心地がいい。
サンルームには背の低いソファ、
床にはクッションが並べられている。
音楽を聞きながら本を読むには最高な環境だ。
半地下にある部屋には
独立したキッチンとバスルームがついている。
その気になれば、人に貸せる。
全体的に、
家の住人の趣味の良さを感じさせるすてきな家だ。
モダン風のモートンとピーターの家と対照的な
家づくりだが、それぞれの魅力がある。
本当は写真をとりたかったけど、
家の主人たちとは初対面だと言うこともあって、
遠慮した。
ディナーはビュッフェ式の軽食。
キンチンに並べられている料理を皿にとって、
ダイニングルームでいただくスタイル。
サラダ、ペンネパスタ、キッシュに
手巻き風サンドイッチと言った軽食だけど、
どれもBさんの手作りだという。
サンドイッチ・ラップのイメージ
どの料理も美味しかった。
ここにも料理のうまいノルウェー男性(ゲイ)がいた。
私は、自分でキッシュを作ろうなんて先ず思わない。
ただ、失礼なことに、
ランチのエビがまだお腹の中で消化しきっていなかったため、
せっかくの手作りディナーを私はあまり頂けなかった。
お酒が適当に入ったところで、
BさんとCさんの馴れ初めで話が盛り上がった。
「Bさんとは国立劇場の石柱の間で会った。
柱の陰から彼が僕に“青いリンゴはいかが”と差し出したのだ。」
と、Cさんが話す。
後でピーターから教えてもらったが、
二人はおそらく誰かを介して国立劇場で会う約束をしたのであろう。
そして、「青いリンゴ」が互いを認識するための合図だった。
私はBさんとCさんの出会い方にロマンティズムを感じた。
話が日本人とノルウェー人の類似点に移った。
「両方とも礼儀正しくて、時間を守る。
それと、家を上がる時は靴を脱ぐところかな」と言ったら、
みんなが笑ってくれた。
「フォーマルなディナーだと
女性がロングドレスを着る場合もある。
その時は招かれた家の床を汚さないよう
女性がきれいな靴を持参して履き替えることもある。」
とモートンが教えてくれた。
なるほど。
そのきめ細かい気遣いも日本人と共通している。
ノルウェーでは、食事に招待された場合、
食後にゲスト(グループの場合は代表者)が
招待してくれたホストに短いお礼のスピーチを述べるのが
礼儀だそうだ。
ピーターにすすめられ、カレンがスピーチをした。
PRのプロのカレンはホストのこころを上手にくすぐる程度に
素晴らしいディナーと二人の家に賛辞を送った。
同業者として、
彼女のレベル高いコミュニケーションスキルに脱帽!
10時半ごろ、私たちはBさんとCさんに再度礼を言い
帰途に着いた。
私はこれだけの数のゲイに囲まれて
一日を過ごしたことがない。
会話の内容もゲイ・コミュニティから各国の文化まで、
話題が多岐にわたり、実に刺激の多い日でもあった。
旅行の醍醐味は、やはり現地の人とのふれあいにある。
だから、旅はやめられない。
人と出会うほどおもしろいことはないからだ。
なんせ、濃い一日だったもんで...

オスロ入り四日目。
その前夜、2週間のイタリア、フランス、スペイン旅行から
戻ってきたばかりの友人たちと合流することになっている。
この旅行に私も誘われていたけど、
スケジュールの調整がつかず、結局、オスロで会うことにした。
友人たちと言うのは、五月に東京で会ったばかりの
マレーシア系中国人のピーターとカレン、
その友人のホック、そしてピーターのパートナー、モートンである。
ピーターはクアラルンプール(KL)で
『Peter Hoe Evolution』 という
ニューヨークタイムズでも紹介された
人気なアジア雑貨店を2店舗経営している。
ピーターの許可を得て、
彼がNYTの取材で撮影された写真をここに載せることにした。
残念ながら、店のホームページは作っていないそうだ。
私自身はまだ一度もピーターの店に行ったことがないけど、
彼の店には現地在住の日本人や欧米の駐在員はもちろん、
日本から来た観光客もよく訪れるだという。
KLにご旅行の際は、ぜひ覗いてみてください。
Peter Hoe Evolution + Beyond
こちらの店舗にはカフェが併設されている。
145,2F,Jl. Tun H.S.Lee,50000 KL (本屋さんの上)
tel:2026-9788
Peter Hoe Evolution
2,Jl.Hang Lekir,50000 KL
tel:2026-0711
この日はピーターとモートンの自宅でランチに招待されている。
市の中心から車を走らせて15分ほど行ったところに、
二人の愛の巣がある。
ピーターがマレーシアで事業を経営している一方、
モートンはノルウェーでコンサルタントをやっている。
ピーターはゆくゆくオスロに移住するけど、
それまでに、モートンと“通い婚“の形をとっている。
ノルウェーでは同性の結婚は合法である。
二人は2年前にオスロ市内にある
とても素敵なホテルで結婚式を挙げたものの、
法律上の婚姻関係にはまだ至っていない。
というのは、ピーターが外国籍である上、
ノルウェーに常住していないため、
手続きにちょっと時間がかかっているからだそうだ。
「死んだら、モートンと同じ墓に入りたい。
そのためにペーパー上も夫婦になりたい。」
軽口をよくたたくピーターのこの時の表情は
いつともなく真剣だった。
ピーターとモートンの自宅は
6階建てのマンションの最上階にある
広さ約100平米の2LDK。
モートンが数年前に購入した家だそうだ。
スタイリッシュでかつ機能性の高い
北欧風キッチンと家具が
天井の高いマンションに品よくおさまっている。
「なにこれ?このうちのバスルーム、
うちのリビングルームよりも広いわ!」
トイレを借りるときに思わず二人にそう叫んでしまった。
日本と違って、
欧米ではバス・トイレが一緒になっている家がほとんど。
ノルウェーの冬の厳しい寒さをしのぐために、
タイルの床には暖房が入っている。
夏だと言うのに、この日のオスロの気温は18度。
床の温みが足の底から気持ちよく体に伝わる。
「ノルウェーではこの広さは普通よ。」
「寒くたっていい。この広いバスルームのために
私、ノルウェーに引っ越してもいいわ。」
と、私が冗談を言うと、
「Lapisなら、絶対ノルウェーでの生活気に入るよ。」
実際に、ノルウェー入りしてから、
不快な経験が一度もない。
人は親切で礼儀正しい。街も清潔だ。
日本人受けする国だと思った。
この日はモートンの友人のAさんもランチに呼ばれている。
古希に近いAさんもまた同性愛者である。
リタイアした彼には、現在パートナーはいない。
家の庭に花、野菜やハーブを育てながら
独りで悠々自適に暮らしているそうだ。
この日も自宅の庭から愛らしい花を摘んで来て、
食卓を飾ってくれた。
ランチのメニューはシンプルだが豪華でもある。
一行がイタリアなどから持ち帰ったイベリコハムやワインに、
地元で捕れた甘みたっぷりのエビ、焼きたてのパン、
そしてAさんの庭で採れた野菜でこしらえたマンゴサラダ。
ディナーの用意はゲイ男4人がしてくれた。
私とカレンはそばでシャンパンを飲みながら
その様子を見ていただけ。
「普通の家で、
いっぺんにこんなたくさんの男性がキッチンに立つ光景は
日本ではまず見ないわ。」
実際、私自身が今まで男性に料理を作ってもらったことは
数えられるほどの回数しかない。
「まぁ、かわいそうに。
ノルウェーの男たちは料理するのよ。
その中でもゲイは特に料理がうまいわ。」
ピーターはそう言いながら
そばでパンを切っているモートンを優しくハグした。
その動作がとても自然で慈しみ深かった。
私の知っているゲイは概して料理上手。
ファッションセンスが良く、
家のインテリアにも凝っている。
その上、女性以上に気配りがいい。
「それなら、モックにすてきなノルウェー男を探してあげたら?」
年一回(?)オスロで催される国際ゲイ集会に参加するために、
モックは3週間前に先にオスロ入りしている。
モックとはオスロで初めて会った。
彼もまた気のきく優しいゲイである。
ピーターが肉食系ゲイいなら、
モックは草食系ゲイと言ってもよいだろう。
「モックはもっと積極的に男にアタックしていくべきよ。
相手が寄ってくるのを待っていたらいつまでたっても
なにも起きやしないわよ。」
ワインでより滑舌になったピーターは
間髪入れずに舌を巻きたてる。
「いいのよ。タイミングが来れば、
ワタシにもふさわしい人がきっと現れるさ。」
モックは少しはにかみながら言う。
4人のゲイ男に二人のストレート女が一つのテーブルを囲い、
3時間近く飲みまくり、食べまくり、喋りまくりのランチ。
私の普段の暮らしでよく見られる光景ではないけど、
特に違和感はない。
逆に、
ストレートに発言できる雰囲気に私は居心地良さを感じる。
国籍、人種、性別に関係なく、
人間そのものの魅力に、私はいつも惹かれるのだ。
6人で3キロほどのエビを平らげた。
解凍しただけの北海のゆでエビが
こんなにも甘いものだとは知らなかった。
舌鼓を打つ絶品!
パンにバターを塗り、
殻を剥いたエビをぜいたくに並べ、
その上にディルをのせ(これもAさんの庭から)、
軽くレモンを絞り、塩コショウをかける。
これがノルウェー人の食べ方だそうだ。
そのエビサンドをシャルドネと交互にいただく。
その間に他愛のない会話が弾む。
まさに至福のひと時だ。
この日の夜、同じメンバーが
モートンの友人宅でディナーに招待された。
モートンが言うには、
ノルウェー人は時間厳守の民族である。
食事に呼ばれた場合、
必ず約束の時間きっかりに現れなければならない。
5分早くても遅くてもダメ。
私たちが約束時間より2分遅れて招待主の家の前に到着した時、
家の主人はすでに玄関の外で私たちの到着を待ちわびていた。
モートンの友人のBさんは出版社で編集の仕事をしている。
BさんのパートナーのCさんは
ノルウェー有名な性愛学者だという。
二人はオスロの近郊に築75年の一軒家に住んでいる。
もちろん、その間何度も改築を重ねてきた家だ。
家の前には手入れの行き届いた庭がある。
そこにはスチール製ランチテーブルとイスが数脚置かれている。
庭の奥にある小さな池に6尾の小ぶりの鯉が優雅に泳いでいる。
Cさんはラジオで自分の番組或いはコーナーをもち、
週一回リスナーから性愛について相談を受けている。
彼は現在、
学術的観点から見たゲイの性愛について執筆中だという。
Cさんは若いころ、俳優業もしていた。
元奥さんは近年に亡くなった有名なイギリス人女優だったそうだ。
後でカレンから元奥さんの名前を聞いたけど、
なじみのない名前だったから覚えていない。
おもしろいことに、Cさんの元奥さんが
なんとAさんの元恋人でもあった。
なんとも不思議な関係だ。
ピーターやモートンと違って、
Aさんも、BさんもCさんもかつては異性愛者だった。
というよりも、
自分が同性愛者であることに気付いていなかった。
其々結婚歴を持ち、子供もいる。
そう言うゲイは多いようだ。
香港に住む知人は夫との間に二人のかわいい子供がいる。
家族四人で幸せな日々を過ごしてきた。
もちろん、これからも夫と共に子供の成長を楽しみに
"growing old togehter" と思っていた。
しかし、夫がある年のクリスマスの日に突然家を出て行った。
それも、愛する「男」の元へ。
彼女はこの青天の霹靂の出来事から生まれたトラウマを
しばらく引きずっていた。
それもそうだ。
長年隣で寝ていた夫にある日
自分が本当は同性愛者だとカミングアウトされたら、
耐えがたいショックを受けるのは容易に想像できる。
それも一家が団々すべくクリスマスの日に。
あまりにも残酷すぎる現実だ。
全員が庭でワインを一杯飲んでから、
家の主人が私たちを家の中に招き入れてくれた。
モートンの家でもそうだったけど、
BさんとCさんの家に上がる時も、みんな靴を脱いだ。
ノルウェー人と日本人の意外な共通点を見つけて、
私はノルウェー人により親近感をもった。
Bさんがディナーを用意している間、
Cさんが家の中を案内してくれた。
二人が住むには広すぎる、
地下一階、地上3階の北欧風の家の床は
松の木をふんだん使ったフローリング。
階段を踏めば、この家の歴史を語るかのように
床がミシミシと音を立てる。
リビングルームにはアンティークの家具と調度品が
いたるところに置かれている。
ダイニングテーブルの上に吊るされている
古典風シャンデリアは18世紀の代物。
Cさんのひいひいおばぁちゃんが
恋仲だった当時のノルウェー国王から頂いた逸品だという。
貴族の血筋を受け継いでいることを匂わせる発言だけど、
自慢している様子を感じさせない嫌みのない言い草と
落ち着いた学者らしい立ち振る舞いが
すでに彼の出身の良さを物語っていた。
ダイニングルームの横にある3.5畳もあろうキッチンには
暖をとるための小さな暖炉がついている。
2階には書斎とマスターベッドルーム、
そしてバスルームがある。
家の最上階には
恐らく後から増築したと思われる書斎とサンルームがある。
質素だが、とても居心地がいい。
サンルームには背の低いソファ、
床にはクッションが並べられている。
音楽を聞きながら本を読むには最高な環境だ。
半地下にある部屋には
独立したキッチンとバスルームがついている。
その気になれば、人に貸せる。
全体的に、
家の住人の趣味の良さを感じさせるすてきな家だ。
モダン風のモートンとピーターの家と対照的な
家づくりだが、それぞれの魅力がある。
本当は写真をとりたかったけど、
家の主人たちとは初対面だと言うこともあって、
遠慮した。
ディナーはビュッフェ式の軽食。
キンチンに並べられている料理を皿にとって、
ダイニングルームでいただくスタイル。
サラダ、ペンネパスタ、キッシュに
手巻き風サンドイッチと言った軽食だけど、
どれもBさんの手作りだという。
サンドイッチ・ラップのイメージ
どの料理も美味しかった。
ここにも料理のうまいノルウェー男性(ゲイ)がいた。
私は、自分でキッシュを作ろうなんて先ず思わない。
ただ、失礼なことに、
ランチのエビがまだお腹の中で消化しきっていなかったため、
せっかくの手作りディナーを私はあまり頂けなかった。
お酒が適当に入ったところで、
BさんとCさんの馴れ初めで話が盛り上がった。
「Bさんとは国立劇場の石柱の間で会った。
柱の陰から彼が僕に“青いリンゴはいかが”と差し出したのだ。」
と、Cさんが話す。
後でピーターから教えてもらったが、
二人はおそらく誰かを介して国立劇場で会う約束をしたのであろう。
そして、「青いリンゴ」が互いを認識するための合図だった。
私はBさんとCさんの出会い方にロマンティズムを感じた。
話が日本人とノルウェー人の類似点に移った。
「両方とも礼儀正しくて、時間を守る。
それと、家を上がる時は靴を脱ぐところかな」と言ったら、
みんなが笑ってくれた。
「フォーマルなディナーだと
女性がロングドレスを着る場合もある。
その時は招かれた家の床を汚さないよう
女性がきれいな靴を持参して履き替えることもある。」
とモートンが教えてくれた。
なるほど。
そのきめ細かい気遣いも日本人と共通している。
ノルウェーでは、食事に招待された場合、
食後にゲスト(グループの場合は代表者)が
招待してくれたホストに短いお礼のスピーチを述べるのが
礼儀だそうだ。
ピーターにすすめられ、カレンがスピーチをした。
PRのプロのカレンはホストのこころを上手にくすぐる程度に
素晴らしいディナーと二人の家に賛辞を送った。
同業者として、
彼女のレベル高いコミュニケーションスキルに脱帽!
10時半ごろ、私たちはBさんとCさんに再度礼を言い
帰途に着いた。
私はこれだけの数のゲイに囲まれて
一日を過ごしたことがない。
会話の内容もゲイ・コミュニティから各国の文化まで、
話題が多岐にわたり、実に刺激の多い日でもあった。
旅行の醍醐味は、やはり現地の人とのふれあいにある。
だから、旅はやめられない。
人と出会うほどおもしろいことはないからだ。




