外は小雨が降っていた。
何とかスーツケースを開けることはできたが、そのスーツケースはもう廃物。
新しいスーツケースが必要だ。
でも、初めて訪れたこの町、どこへ行けばいいんだ?
この国は、一歩でもシティから離れると、どこへ行くのも車が必要だ。
躊躇したが、本社の秘書のキムに電話した。
電話の向こうで、キムは「ショッピングに出かけましょう。」と明るく誘ってくれた。
1時間後、キムはホテルのロビーに現れた。
大柄の金髪女性。そして、3人のティーンエージャーの母でもある。
ちなみに、彼女と会うのは、この時が初めてだった。
「せっかくの日曜日なのに、呼び出してごめんなさい。」
「いいのよ。家族にランチを用意して、ブラウニーをオーブンに入れて出かけてきたから、ゆっくり買い物しましょう。」
車で数分ほど行ったところの「百貨店」に到着した。
夕べのトラウマからか、店に入ったとたん、私の買い物スイッチは直ちにON!
郊外の町の百貨店だが、品揃いはかなり豊富。
スーツケースのほか、サンダル2足、キャンドル、ランチョンマット、ふわふわバスタオルまで(だって2枚で千円の厚地タオルがあまりにも魅力的だったんだもん!
)、カート一杯分の勝利品をゲット!全部で税込みで3万円も行かなかった。円高万歳!


2時間の買い物後、キムと近くのタイレストランに入った。
テーブルに着くなり、"I need a drink!" とキムに言った。
もちろん、ソフトドリンクのことを言っていると、この国の誰もが解釈しない。
私はロングアイランド・アイスティを頼み、キムも別のカクテルを注文した。
前菜にレモングラス・シュリンプ、そしてそぞれれチキンとポーク料理をメインに注文した。
キムとご主人のジョーンは共に再婚者同士、いわゆる”a blended family"。
長男はジョーンと前の奥さん、長女のアンバーはキムと元夫との間に生まれた子供。
そして、キムとジョーンの間に生まれてきた次男のジェイクは13歳。
自閉症をもつジェイクのIQはなんと135。
自閉症の子供は、繊細の上、隠れた才能をもつものが多い。
物事を見る角度も一般の人たちと違う。
「神からの贈り物でもあり、負担でもある」
ジェイクは一般の子供たちと同じ学校に通っている。
自閉症に対する理解が足りない周りの子供たちは、かなり残酷なことをジェイクに言ったり、したりもするそうだ。
それでも、キムとジョーンはジェイクを過保護しようとしない。
ジェイクの音感は抜群に良いそうだ。
キムとジョーンは彼をスペシャルクラスに入れて、彼の才能を伸ばそうとしている。
家に閉じ込めるのでなく、ジェイクのペースで社会生活に慣れてもらうのが彼らの考えだ。
注文した料理はアメリカ人好みのやや甘めの味付けだったが、まぁまぁ美味しかった。
2杯目のロングアイランド・アイスティを飲み干したころ、強い眠気に襲われた。
アルコールのせいか、時差のせいか。
3時ごろにキムと別れて部屋に戻り、そのままベッドになだれ込んだ。
目が覚めたのは夜の八時半。
ただいま11時。
目はぎんぎんに覚めている。
まずっ。
