Fix bayonets !!!!
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前回はQ3.マスケット銃の歴史について概観したところで終わった。フス戦争から三十年戦争まで、マスケット銃の黎明期から戦列歩兵による横隊戦術が登場するまでを学習した。生徒の知識の確認をしながら、マスケット銃の歴史を解説した。
Q4.軍事革命とは?からは少し難しい学習となる。最初に「中世の兵士はどんな戦い方をしていたでしょうか?」と発問する。生徒は「馬に乗って戦った」と答えられるであろう。ここから中世の戦い方と近世の戦い方を比較させる。中世の軍隊の主力は重騎兵であり、一部の「戦う人」が軍事力を独占していた。しかし近世になると農民でも銃や槍の使い方が分かれば、誰もが銃兵や槍兵として騎士を倒すことができた。
その結果、兵士に求められる質も変化した。中世までは馬にのって槍を操る技術や肉体的な卓越性が求められたのに対して、近世のマスケット銃兵には難しい技術は必要なかった。それいじょうに規律や従順さが求められるようになる。このことは社会に大きな変化をもたらした(これが古典的な軍事革命の理解である)。
Q5.兵士に求められる質が変化したことで、どんな変化がおこっただろうか…?では、生徒に以上の変化が社会にどのような影響をもたらしたかを考えさせる。生徒にとってかなり難しい課題であるので、ヒントをだしながらグループで話し合わせる。生徒からは、「だれでも兵隊になれるようになった」「兵隊の数が増えた」「騎士が没落した」などのような意見が出るだろう。「兵隊を食べさせたり、武器を修理したりするのに商人が軍隊についていくようになった」まで生徒から意見が引き出せたらこの部分は大成功だ。
Q5の結論としては様々に考えられる。これが正解!というものはないようだが、いずれにしても古典的な軍事革命の理解ではこの変化を主権国家の成立に結び付けている。変化の結果として、各国は数万規模の常備軍を維持し始めるようになった。そして大規模・複雑化した軍隊は、国家への権力集中をもたらした。その一方で、軍隊を維持するための租税徴発や人的資源の搾取など市民への負担が増大することにもなった。
次に、古典的な軍事革命論に対する批判・修正を2つ紹介する。1つはG.パーカーによるもので、城塞の設計に革新(イタリア式築城術の登場)が起きたことに重きをおく。高い城壁をそなえた中世の城塞では、大砲の火力に対抗できなかった。大砲に対応するために分厚くて低い城壁をそなえた「イタリア式築城」がイタリア戦争以降に普及する。各国が常備軍を組織するようになったのは、このような城塞に張り付けておく兵士が増えたことに起因するとパーカーは述べる。古典的な軍事革命が戦列歩兵による横隊戦術が登場したことが社会に大きな変化をもたらしたとするのに対して、パーカーは大砲でも簡単に陥落させることのできない築城術の変化によって兵員数が増大し、社会に変化をもたらしたと主張する。
もう1つは軍事革命そのものに対する批判である。戦争の変化は「断続平衡的(突発的でランダム)なものだった」として、1つの大きな出来事による大変化ではなかったと主張するものだ。
Q6でここまで学習した軍事革命をめぐる論点を整理し、Q7では近世ヨーロッパで戦争が社会に大きな変化をもたらしたことを「革命」と呼ぶことはできるだろうか?ということについて考えさせる。この部分は『論点・西洋史学』を参考にした。かなり難しい問いなので、生徒がうまく反応するかどうかは分からない。しかしこの発問に生徒が答える努力をすることで、歴史の大きな変化を体験することができるであろう。軍事革命の議論を検討して、比較することでちょっとした歴史家体験ができる実践だと思う。
参考文献
・著:クリステル・ヨルゲンセン、マイケル・F・パヴコヴィック、ロブ・S・ライス他、訳:淺野明 他 (監修)『戦闘技術の歴史3 近世編』、創元社、2010年。
・著:バート・S・ホール、訳:市場秦男『火器の誕生とヨーロッパの戦争』、平凡社、1999年。
・監修:金沢周作、『論点・西洋史学』、ミネルヴァ書房、2020年、166~167ページ(古谷大輔「軍事革命論」)。
・鈴木直志『ヨーロッパの傭兵』、山川出版社、2003年。
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