楳澤和夫「「考える歴史の授業」を実現するための「問い」づくりの方法」(「考える歴史の授業 下」(pp.243~251)より) 

1.目次

はじめに

「問い」づくりを追及させる

  生徒と一緒に作っていく授業に感動

  生徒が主役の授業とは

  指導案通りに進む授業を目指すのか

  生徒が歴史像を作り上げていく授業を目指す

  生徒が主体的に考えようとする授業へ

学ぶ意欲を喚起する「問い」のつくりかた

  3種類の発問

  アイヌの主張は、なぜ作為的に描かれたのか

  集団自決に追い込んだのは米軍か日本軍か

おわりに

2.著者について

 『考える歴史の授業 下』には3本の総括論文が掲載されている。前回の加藤公明の論文の他にあと2本あるが、今回は楳澤和夫の論文を紹介したい。本書の紹介は加藤論文で行ったので割愛し、今回の著者である楳澤和夫についてまず調べてみよう。

 

 楳澤和夫は現在の千葉県歴教協の会長で、千葉県公立高校の勤務を経て、千葉大学教育学部非常勤講師、敬愛学園高校特任教諭として活躍している人物だ。主な著作に『絵画・写真・地図を使って討論を』(日本書籍、2000年)や『これならわかる沖縄の歴史れきしてき事実Q&A』(大月書店、2003年)、『社会科教育の今を問い、未来を拓く』(共著)(東洋館出版社、2016年)などがある。

 

3.要旨

 本稿は前段と後段に分かれて書かれている。前段ではある教育実習生の「教育実習ノート」を分析して、授業づくりの中でいかに「問い」づくりが重要なのかを明らかにしている。また後段では、楳澤が『考える歴史の授業』に寄稿した2つの実践を取り上げて、「問い」づくりの具体的な方法を示している。

 

4.感想など

 今回は特に前段の「問い」づくりの問題に注目して感想を述べる。以下は前段部分のエッセンスともいえる部分の引用だ。 

「自分の頭を使う授業=考える授業」では、何を考えてもらうかが重要である。しかし、教師が考えさせたい問題と、生徒が考えたい問題にはズレがある。授業ではどちらを優先するのか?生徒が考えたい問題を見極め、提起すれば、その後は生徒自身が自然に考えるようになる。そして、生徒が考えたことを歴史学の中に位置づけて生徒に示せばよいのである。

 教師が考えさせたいことと生徒が知りたい内容が完全にマッチするということはなかなかないであろう。生徒の需要は受験に役に立つかどうかであって、その点で言えば学校の教師は予備校講師にはかなわない。生徒にとっては受験が強く作用する。

 

 では学校の教師はなにを供給すればいいのか。楳澤は、「生徒が考えたい問題を見極め、提起す」ることを主張している。生徒の興味・関心をベースに「問い」を考えれば、生徒は自然と考えるようになる、と。また別の個所では「生徒の持っている歴史像を引き出すような発問を考えること、これが教材研究のメインテーマとなる」と述べている。

 

 本稿を読んで初心に帰れたような気がする。私の教材研究のスタートは、歴史に興味をもってくれない生徒をどうにかして振り向かせよう、という一心であった。この若々しく荒々しい思いを洗練させると、楳澤の主張と重なり合う部分が多くあるであろう。生徒の興味・関心をベースに問いを考えれば、生徒は自分の頭を使い始める。考える歴史の授業が成立する。いろいろな教育論や教育手法がでてきている昨今ではあるが、そもそも「問い」とは生徒を振り向かせるための方法であった。そのことを思い出させてくれる本稿であった。