1.はじめに

 今回の実践は勉強会を通して知り合った先輩教員の実践の追試である。先輩教員の実践にアレンジを加えて今回の授業を展開した。

 4月、私の場合、世界史Bのカリキュラムはイントロダクションをはさんで「大航海時代」が最初の単元となる。プリント学習で大航海時代とその背景や大西洋三角貿易、奴隷船などについて生徒が学んだあと、映像資料「ROOTS」を使った授業を展開する。今回紹介するのはこの授業だ。

 前時までに生徒は奴隷船のなかを書いた絵図を通して、奴隷交易という歴史の闇をそれなりに学習し、それなりに当時の奴隷たちに思いをはせていた。しかしそれは「かわいそう」という短絡的な感想程度でしかなく、その考えをもっと深化させるために本時の授業では映像資料を活用した。

 当時の学校は座学が苦手な生徒が集まっていて、以前も述べたように普通に授業をやるだけでは生徒は目に見えて飽きてしまう。そこで授業ではいろいろな工夫をするのだが、そのひとつに映像資料の活用がある。映像資料はそれだけでもかなりの効果があり、その内容が適切なものかどうかは教員が見極めなくてはならないものの、勉強が苦手な生徒にもかなりうけがよかった。今回視聴させたROOTSも生徒の反応は良く、主人公のクンタ・キンテという言葉の響きの良さもあって食い入るように見入っていた。

 

2.実践

 授業時数に余裕のある学校だったので、2時間をつかってROOTSを鑑賞させた。鑑賞させた内容は以下のとおりである(BS-TBSのHPを参照した)
第一夜 さらば母なる大地
1750年、西アフリカのガンビアで生まれたクンタ・キンテ。やさしい両親に見守られて立派に成長したクンタだが、成人の儀式を終えたある日、奴隷商人に捕まってしまう。そして、遥かなる異国の地アメリカへの厳しい旅が始まり、同時にそれは波乱に満ちた人生の船出でもあった…。
 
第二夜 愛する者たちの別離
奴隷商人に捕まりアメリカ大陸へ連れてこられたクンタ・キンテは、”トビー”という名前をつけられ、辛い日々を送っていた。同じ農場にいる教育係フィドラーの注意も受けず、クンタは脱走を何度も試みるが全て失敗。それを見かねた料理係ベルは献身的な看護をする中で、彼に好意を持ち二人は結婚。娘・キジーが誕生する。

 このうち第二夜の途中までを見せて、次の時間でグループワークを行った。大西洋三角貿易について復習したあと、ROOTSのあらすじを「小学生に説明するように」書くように指示した。この活動によって、生徒が鑑賞したROOTSの内容を自分の中で噛み砕いて表現するように企図した。

 今回、鑑賞したシーンは大まかに分けて2つの場面が描かれている。アフリカで暮らすクンタ・キンテというシーンと、彼が奴隷商人につかまって奴隷船で運ばれていくシーンだ。後半のシーンでは、奴隷船の雇われ船長デイビスと奴隷管理担当のスレーターという人物が登場する。劇中で彼らの会話をプリントに引用し、生徒に配役をさせて音読させた。

デイビス船長:どんな人間なのだ、黒人とは。
スレーター:種類が違うんです。犬に狩猟用の品種とペット用の品種があるように。黒い奴らは、頭は悪いが、奴隷に向く。あなたが船長のようにね。自然界の秩序ですよ。
デイビス船長:そうか、なんとなくわかるよ。
スレーター:それに、アフリカから連れ出す方が連中のためです。
デイビス船長:それはどういう意味かね?
スレーター:つまりキリスト教の国へ来るんですから。アラーの国にいるよりいいですよ。共食いから助けることにもなる。みんな人を食べますから。
デイビス船長:さっきも言ったように、船倉に関しては君が一番だ。私は航海に専念する。
スレーター:できるだけ大勢生かしときますよ。
デイビス船長:そうだ、お互いの領分で責任を果たしていこう。
スレーター:了解です。積み荷はお任せを。彼らの言葉もわかります。
デイビス船長:言葉?
スレーター:奴らの扱いにまともな言葉はいりません。うなっているだけなので。

  視聴させたROOTSの前半部分では、アフリカで生活する人々の伝統や文化が描かれる。しかし当時の白人は黒人をこのように考えていた。デイビス船長は敬虔なキリスト教徒であった。そのため彼は葛藤するものの、最終的には自分を納得させて奴隷船の船長としての任をまっとうする。

 次にこの会話から当時の白人の黒人に対する考え方を読み取らせて、以下のように表現させた。

黒人は、(                                  )な人々
→ 実際は…(                                )な人々

 最後に、デイビス船長、スレーター、クンタ・キンテの立場から奴隷貿易について考えさせようと思ったが、時間が来てしまいこの部分については十分に取り組めなかった。