◎神道祭祀研究演習Ⅱ
皇學館大学大学院文学研究科博士前期課程神道学専攻「神職課程・専攻課程Ⅱ類」)の授業内容です。
○平成八年三月十四日付本澤宛谷省吾先生書簡より
…(前略)…思ふに祝詞の研究、昭和三十七年大学再興の年、教授會全員で構成した神道研究會で十月二十三日と十一月十三日の両日に亘り私が祝詞の研究史や語義に就いて発表しましてから三十何年を経過した今日、其の頃より殆ど進歩のない学界の状況にいさゝか感慨を催しました。私自身は其の時以後私なりに若干思索を深めて、その結果を『祭祀と思想』の「祝詞」の処で表明したつもりです。然し私の力足りず、又人々の関心は私となじまないのか阿波礼反應が余り有りません。
国学の祝詞研究の傳統のすばらしさを十分に踏まへながら一方ではそれを脱却して、もつと神道の祭りとそれを支へる心の世界に踏みこんで研究を進めねばならぬと思ひます。 私は
もう大分前の事になりますが、或る田舎の神社の関係の方が持参された祭礼の祝詞を拝見した事が有りました。江戸時代のものと思はれるその祝詞の余りに拙劣なのに驚きながら、それを大切に傳へつゝ唱へつゞけてをられる事にもびつくりしたことでした。にも拘らずその時の私は十分な説明をして差上げる親切さをそのとき持ちえなかつた事をいまだにひそかに恥ぢてゐます。
祝詞の歴史沿革に就いて、その不易と流行の中にもつと謙虚に誠実にはいつてゆかねばならぬと自戒してゐます。……(後略)……*この後に私に寄せられた研究上のご助言が続きます。
〔講義目的〕
祝詞研究史のなかで、大祓詞を始めとする『延喜式』祝詞を対象とする研究は中世からの歴史があり、近世国学者等の注釈的研究によって詳細を極めるようになった。
しかしながら『延喜式』祝詞以降の祝詞とくに中世の祝詞の状況を知り得る資料はきわめて乏しく、特定の神社の祝詞がまとまって残されているものに、『年中行事詔刀文』(皇大神宮)、『詔戸次第』(若狭彦神社)、『住吉大神宮祝詞』、『日吉社祝詞口伝書』、『年内神事次第旧記』所収「申立」(諏訪大社)などが知られており、また梅田義彦氏「祝詞概説」には、諸書に引用された伊勢大神宮、賀茂、石清水、平野、祇園、北野、春日などの諸社の祝詞が集成されている。
これら中世以降の祝詞は、延喜式祝詞と比べて、簡略化、形式化の傾向にあり、用語も漢語や仏教語も交え用いているものもあり、文学史的価値は乏しいにしても、延喜式祝詞が朝廷の神祇官の立場からの祝詞であったのに対して、これら中世の祝詞は、地方の諸社の祭祀に込められた、多様な祈りの言葉を具体的に知り得るとともに、古代の祝詞が『延喜式』以外に伝わっていない今、諸社の古代の祝詞を推定するよすがともなる貴重な資料である。
本演習では、祝詞の歴史的研究という観点から、今日知られている延喜式祝詞以降の祝詞(宣命)の読解を通じて、神道の祭りとそれを支える心の世界に踏み込み、祝詞の歴史沿革について、その不易と流行の相を考究してゆく。