「外国の教科書における「神道」に関する記述の点検」(平成11年5月、外務省当局へ報告)
(凡例)
◆引用 訂正個所 《訂正文》 ※コメント
※全体的な問題点として、「神道の起源=自然崇拝」「天照大御神=太陽神(日の神)」という記述が随所に見られるが、いずれも単純化しすぎである(櫻井勝之進先生のご意見による)。
【イギリスの教科書】
[1.The Cambridge Encyclopedia of Japan]
※「カルト」の訳語は、「信仰」とすべきである。
◆「神道」という言葉は同種を意味し、
The single term 'shinto' implies homogeneity,
※「同種」意味不明。
◆明治時代に造られた神話は、神道は日本人の単一の太古の伝承であるという信念を勇
《明治時代に統合された神話は、》
気づけた。
and the mytholigy generated in Meiji period
◆ヨリシロというこれら入れ物は、通常、長く薄いもので、
《樹木や岩石》
◆日本最古の人形は、玩具ではなく、カミが臨時にそれに宿るものであった。
※「日本最古の人形」とは、土偶のことか。だとすれば、「カミが臨時にそれに宿るもの」とは言い切れない。古代日本において、人形は、カミに対する祈りを表現するもの、または、人の代わりにケガレを背負ってくれるもの、であった。
◆3世紀にさかのぼる内宮
《3世紀に創祀されたと伝承される内宮》
◆日の神アマテラス
《至高神アマテラス大御神》 *確かに日本書紀には「日神」とありますが、単純な太陽神ではあrません。
◆日の神アマテラス
※同上
◆日本の島々の創造者イザナキとイザナミ
《日本の島々・神々の生みの親イザナキ・イザナミ》
◆もともとはヤマト民族と皇室の神々であり、彼らは、明治時代に統合された新しい神話によって高い地位に上げられた。
その前は、彼らは日本の多くの場所では知られていなかった。
《削除》
※彼らとは、アマテラス大御神・イザナキ・イザナミの命・スサノヲの命をさすが、これ らの神々が明治以前に知られていなかったとは言い難い。したがって、この箇所は削除。
◆休息と救済の適切な状態を得るためには、生きている者からの栄養を必要とする。
《遺族は死者に食事などのお供えをする。生きている人をもてなすのと同様の様式をもって感謝や祈りの心を表現するのである。》
※「栄養」という捉え方は不適切。
◆しかし、もし正しい供養がなおざりにされると、魂は直ちに悪意に満ち、情け容赦なく呪いを持ってけしからぬ家族を罰する。
※このような信仰はない。
◆不満足の死者の魂は、社会における災害のおもな源であるが、これには3種類ある。
33年が過ぎる前に無視されたこれらに加えて、遺族なしで死んだ魂がある。
※これは、9世紀から12世紀頃の御霊(ごりょう)信仰のことであって、この信仰は、その当時の政治社会を背景として生まれた一時的現象であり、一般的ではない。)
◆この式で天皇は、不死の天皇の魂を吹き込まれ、こうして生きている神になる、と言われた。
※これは、一部の民俗学者の学説であって、定説ではない。
◆1990年のアキヒト天皇の即位式は、……政府は大嘗祭を行い、そのために1000万ドルの支出さえ議論の余地のある決定をした。
※上代以来の伝統に従ったまでであって、議論の余地はなかった。
[2. A Geography of Modern Japan]
◆日の神アマテラス
《日の神と讃えられるアマテラス大御神(おおみかみ)》
[3. JAPAN ; A Resource Pack for Primary School]
◆日の女神アマテラスは、伝統的に日本の皇族の先祖と見なされた。
《日の神と讃えられるアマテラス大御神》 《見なされている》
◆仏教寺院は京都にある。石灯籠の柄杓をご覧なさい。
《手水鉢》
Look for the ladles on the stone lanterns, which are used to ladle water over hands to purify them.
※写真を見て確認する必要あり。
◆鈴を鳴らして彼女がお参りに来たことを神社の神に告げる。
《削除》
※俗説である。
◆おみくじは、木、枝、植物に結びつけなければならない。
《木の枝などに結びつける習慣がある》
◆神官は、……木のつち矛を持ち、
《訳語 笏》 a wooden mace
◆悪運が去ることを願って、結びつけられる。
※おみくじは、このような願いで結びつけられる訳ではない。
【アメリカの教科書】
[1. JAPAN In the Global Community]
◆古代日本の宗教は、自然崇拝のひとつのかたちで、のちに神道と呼ばれた。
《人々の社会を支援し永続させてくれる存在をカミとして崇拝することから始まり》
◆大和部族の長は、神道最重要の日の女神が彼の祖先だ、と主張した。
《最高神アマテラス大御神を彼の祖先として信仰した。》
◆日本最古の宗教は、神道である。それは自然崇拝のかたちで始まった。
昔の日本人は、神々は、海、山、自然界のいたるところに住む、と信じた。
《自然の事象のうち、特別な物、力あるもの、有利なもの、その他なんらかの意味で社会を支える、それ以外の自然と区別されたものを神聖視した》
[2.(A) HISTORY AND LIFE THE WORLD AND ITS PEOPLE 2nd Edition]
◆2. Early Japanese civilization borrowed from China
挿絵解説
The sun goddess and the sea god are creating the island of Japan
《Izanagi and Izanami are commanded to solidify the land. They create Onogoro Island》
◆日本の神話によると、島々は神と女神によって作られた。
《一組の夫婦のカミによって生み出された》
◆日の女神の皇孫が、支配者に選ばれた。
《最高の神》
※補足《支配者はその尊い恩恵によって太陽に比較されたので、その初原の神もまた太陽にたとえられた。》
◆ヤマトの長は、日の女神の子孫であると主張した。…日の女神をあらわすブロンズの鏡
《アマテラス大御神》
◆自然は理解され敬われねばならないと考えられた。
※「理解され」の意味不明
◆多くの神社が、滝、巨大な森、岩のかたまりなど自然の重要な面を崇めるために、
《多くの神社は、》 《をカミの表象とした時代もあった。》
◆日本史の初期の時代に建てられた。
《削除》
※この場合の「神社」が建造物の意味であれば、日本史の初期の時代の「神社」はかならずしも建造物を伴わない。
◆ヤマト支配者が天皇になった時、
日本は文字やなんら重要な建築・美術をほとんどもたなかった。
《はなかったが、豊かな歌(詩)をもち、道徳を持っていた》
◆中央政府には本当の権力はほとんどなかった。
※「本当の権力」の意味不明。 権威はあったはず。
◆5世紀には、漢字とともに中国語をもたらした。
《中国の思想》
[2.(B) HISTORY AND LIFE THE WORLD AND ITS PEOPLE 3rd Edition]
※上記と同じ
[2.(C) Teacher's Annotated Edition for HISTORY AND LIFE The World and Its People]
◆日本文化は自然崇拝を反映する。
《自然と共に生きる精神を重要視する。》
[3. Japan Third Edition]
◆なぜそれらが起こるのかを理解せずに、これら破壊的な自然力をコントロールする道を求め、日本人は神道を行った。
※自然現象にたいする近代のような科学的理解は、日本人に限ったことではない。
◆もともと神道信者は、自然の中のカミのみを崇めた。
《日本人は、人々の社会を支援し永続させてくれる存在をカミとして崇拝することから始まった。》
◆日本では今日、仏教の影響のひとつだが、カミは神社で崇拝される。
《削除》
※仏教の影響により複雑または華麗な神社建築が生まれたことはあるが、神社自体は仏教の影響で生まれたのではない。
◆神社に近づく前に、信者は手を洗い口をすすいで、身を清める。それから、儀式なしで、
《削除》
彼らは神社のカミに食品やその他の供物を捧げる。それから短い祈祷が言われる。
※神社への一般の参拝において、「祈祷の言葉」が言われるとはまれである。
◆次の祈祷は、苗を植える時に神社で唱えられるものである。
《次の祈祷文「のりと」は古代の朝廷における豊かな収穫を祈る儀式(祈年祭)において 唱えられたものである》
※一般の神社参拝について言及した直後の延喜式祝詞の引用は唐突であり、不適切。
◆この祈りのどこにも、あるいは日本のお祈りのどこにもカミの恐怖は表現されていない。
《日本のお祈りでは、カミへの畏怖の観念が表現されている。》
※日本の祈り「祝詞」の常套句に、
かけまくもかしこき某神の大前に恐み恐みも白さく……恐み恐みも白す。
との表現があるが、その意味は、
言葉にかけるのも恐れ多い某神の大前に恐れ謹んで申し上げますことには、……と恐れ謹んで申し上げます。
の意である。
◆教会と国家の統一は、……大戦中の動機づけの努力の重要な部分となった。
《国民を励まし団結させる》
[4. Live in Japan]
◆神道は、自然の多くの神々と、木や川や滝やその他自然のなかのものの霊を崇拝することであった。
《神道は、氏族または地域共同体の守護神をまつることから始まり、やがて発展し生活のいろいろの部門の守護神をもまつることになった。自然物をカミのシンボルとすることがあるので、自然崇拝としばしば混同されるが、決して自然崇拝ではない。》
◆太陽の女神が、これらのなかでもっとも偉大であった。
《最も偉大なカミをアマテラス大神という名で讃えることにした。》
◆神社はどこにでもある。
《共同体があれば、どこにでもある。》
◆門が神社を示す。それは輝く赤で、まっすぐの柱の上の二本のカーブした木材でできている。《「とりい」という門が神社を示す》《多くは木または石で造られ、二本の柱が二本の横材を支える単純なデザインで、扉はない。稀には赤く彩色される場合もある。》
◆神社では、参拝者は2・3回手を打ち、
《2回》
[5. The Regional Studies Series Japan]
[6.(A) Patterns of Civilization volume 1]
◆キリスト教、回教、仏教と違って、神道に聖なる書はない。
《教義や教典はない》
[6(B) WORLD HISTORY Patterns of Civilization]
◆日本の宗教的信仰は、自然崇拝に集中した。
《自然の事象のうち、特別な物、力あるもの、有利なもの、その他なんらかの意味で社会を支える、それ以外の自然と区別されたものを神聖視した》
◆人々は自然を恐れなかった。むしろ、彼らは見えない力を恐れた。
《自然の恵みに感謝し、自然の猛威を恐れた。》
[7. Japan Tradition & Transgormation Revised Edition]
※訳語(カルト→祭祀)
◆皇族は、ヤマトの昔の太陽系のウジの聖職者の仕事を保持する。
《最高の神アマテラス大御神の子孫として》
太陽系の政治的支配は、先祖の神である日の神の、他のウジの神々にたいする優位として表され、
《天皇》 《日の神と讃えられるアマテラス大御神》
その4分の1は、政府が支持した。
《季節的儀礼に朝廷からお供えが奉られた》
こうして彼らは……有害な害虫すらも敬った。
※有害な害虫、「虫送り」「虫除け」の対象であり、敬われたのではない。
◆日の女神とさまざまなウジの神々は、元は、神人同形論の形に入れられ神話に織り込まれたそのような自然の神々であった。
《天皇は、唯一にして最高の権威として地上の太陽にたとえられたので、その始源を太陽のカミという名で讃えた。これがアマテラスという形容詞を持つ至高神である(日本ではウジの始源として讃えるカミをオヤガミというので、しばしば祖先と誤解されるが、血のつながった祖先ではない。)》
※自然現象の人格化が、すべての神話の始まりであるとする、マックス・ミュラーの自然神話論によるのもであろうが、その説は20世紀に入ると支持されなくなった。
◆無数の神社……ほかのものは……のどかな村の神社である。多くは、
山頂あるいは自然美のその地の場所に立つミニチュアの箱のような建物以上ではない。
※神社の典型的な鎮座地は「山頂」ではない。
※「ミニチュアの箱」という表現では小さすぎる。
◆すべて鳥居があるが、これは単純な門で、2本の縦の柱と1本か2本の横木でできている。
《2本》
◆神社での参拝は複雑で、主として柏手を打って神の注意を引き、それからお辞儀をして多分おそなえをする。
《削除》
《神社での参拝は、まずお供え(今日ではお金の供物が主である)をして、お辞儀をして 拍手をして、神々への敬意を表し、お祈りをする。》
◆地域社会の若者たちは、時には騒々しく陶酔して、神を神輿にのせて、各自の家や店を訪れてこれらを清める 《神々に縁の深いところや氏子地域を巡って、その恵みを人々に与える。》
◆神道はこのように、アジアやヨーロッパの偉大な信仰に比べると、単純でいささか原始的な宗教であるが、その態度や実践は、歴史を通じて日本の文化の主たる構成要素であり続けてきた。
※19世紀の進化論的な宗教の見方であり、認められない。下線部削除
[8. THE FIRST BOOK OF JAPAN]
◆古代日本の宗教は神道と呼ばれ、国中に106000以上の神社がある。
《現在80,000以上の》
◆日本人は、彼らの食物の源として自然を崇拝し、その美しさのゆえに自然を崇拝する。
《の恵みに感謝し、自然現象に対しても畏怖の観念を抱き、様々な儀礼を執行してきた》
[9. IN JAPAN]
◆神道は、……1946年まで国家宗教であった。
《国家の直接または間接の管理下にあった。》
◆神社とお寺は同じように見えるが、神社には鳥居があって悪い霊を遠ざける。
《俗界と聖域を区切っている》
◆重要な試験準備の学生はお祈りをお願いして、ファックスで送ってもらえる。
《一般的には、神社でご合格祈願のご祈祷を受けたり、絵馬に祈願内容を記して奉納する》
※なにをファックスで送ってもらえるのか不明確。ファックスでの祈祷のやりとりは極めて特殊な例であり、通常のものではない。
[10. Scholastic Eorld Culture JAPAN]
◆ほかの神話とともに、これらは日本の最古の土着信仰である神道の「聖典」となる。
それは、カミとして知られる自然の神々に集中している。
《に対する観念もうかがえるが、主眼は日本の神々や国土の起源、天皇の統治の起源を語るものである》
◆神道、あるいは「神々の道」は、個人の倫理を強調する宗教ではない。それは、男や女に彼らの罪の責任を求めない。むしろそれは、自然に対する恐怖感を吹き込み、清めの儀式の価値を強調する。
《個人の倫理よりも共同体の秩序を破壊する罪は、より重視され、罪を犯した者は、ハラエが科せられ、罪を贖った。ハラエはやがて重要な清めの儀式をして神道の祭祀に不可欠の儀式となった》
◆清めの儀式は、小枝で水を注ぐ神官によって行われる。
《清めの儀式のうち、「塩湯(えんとう)」と呼ばれる儀式は、……》
[11. Across the Centuries]
[12. The PAGEANT OF WORLD HISTORY]
【カナダの教科書】
[1. JAPAN A Resource Guide]
◆トリイは、神聖な鶏が毎朝アマテラスに挨拶したときに止まっていた止まり木の大版である。
《カミの聖域に近づくための門の一形式である。》
※「霊鳥の止まり木」から起こったというのは俗説である。
◆トリイは幸運をもたらすとされる。写真でよく、トリイが港や波止場にあるのがある。船乗りたちは、トリイをくぐると幸運が来ると信じている。
《トリイが港や波止場にあるのは、そこに神社があるからである。船乗りたちはトリイをくぐって神社に参拝し、航海の安全を祈る。》
※本来のトリイの機能ではなく、特殊な信仰である。トリイは幸運をもたらすという信仰はない。