◎警蹕(けいひつ)の音
警蹕とは、天皇の出御・陪膳・行幸などの際に、先を払うために声をかけることです。また、貴人の通行などの際にも行われていました。
神社祭祀では、御扉開閉や降神(諸祭では昇神も)に際してかけられます。
その音(音韻)は、明治40年の「神社祭式行事作法」では「を(wo)」の音でしたが、昭和17年には「o」の音に改められました。
長谷晴男先生『神社祭式行事作法沿革史』(平成11年4月、140頁)では、
言語学者等の考證により、「御先を追ふ声はオである」とのことで「オ」に改めた。
と書かれています。その「考證」の典拠(研究書名・論文名)は不明です。
「御先を追ふ声」というのは、
『源氏物語』(少女)に
御前駆を(お)ふ声のいかめしきにぞ、「殿はいまこそ出でさせ給けれ…」
と出てきます。またその音韻については、
『世俗浅深秘抄』(後鳥羽天皇:1180~1239)に、次のようあります。
一、称唯時ハ塞口。警蹕時開口也。
一、警蹕伏ザマ爾称。称唯ハ起ザマ爾称也。
つまり、はい、と承る声である「称唯(唯称)」の場合は、口を塞ぎ「ヲ(wo)」の音であり、「警蹕」の場合は、口を開き「オ(o)」の音であったことが確認できます。