PARIS | ラヴィデミコ

PARIS

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セドリック・クラピッシュ監督、ジュリエット・ビノシュ、ロマン・デュリス主演



その他豪華キャストによる、その名も『PARIS』



今現在パリに住む人たちはもちろん、



世界中に数え切れないほどいるであろうパリ(フランス)好きに対して、



ある意味挑戦的な映画だと思いました。



だって、パリをよく知っている人も、あんまり知らないけどあこがれてる人も、



これから知ろうとしている人も、



「題名がパリっていうぐらいだから、さて、一体どんな「パリ」を描いてるのか



観てやろうじゃない(ふふふ)」



と、思うと思うんです。



あたしだって、『YOKOHAMA』って映画ができたら、



観にいきますよ。



「こんなんじゃないよ~実際」って言いたいがために(笑)



映画にするってぐらいだから、多かれ少なかれ、



美化されたり、誇張されたりしてるはずだもの。



ただ、人によって、その街に対する印象や思い入れが様々なのは



あたりまえのこと。



変に斜にかまえて観るのではなく、



これまで異国の地を撮り続けてきたクラピッシュにとっての



故郷とは、



「パリ」とは。



そんな興味からこの作品を観てみることにしました。



・・・



ロマン・デュリス演じるピエールは、重い心臓病を患い、



移植をしなければ余命いくばくもないとの宣告を受ける、元ダンサー。



不安にさいなまれながら、バルコニーからパリの街を歩く人々を眺めては



その人生に思いを馳せ、孤独に日々を過ごしている。



姉であるシングルマザーのエリーズ(ジュリエット・ビノシュ)は、



病気の弟の世話をすべく三人の子供たちを連れてピエールの家に移り住み、



仲間に文句を言われながらも、代表として勤める社会福祉士の仕事を減らす。



・・・



ピエールは、自分の命が危ないと知りながらも、自暴自棄になったりはしない。



季節が移りゆくパリの街並みをじっと見下ろし、



行き交う人々の生活を感じ、想像する。



少しでも「生」にすがろうとする、その静かな後姿が印象深い。



・・・



物語は、この姉弟と少しずつどこかですれ違う人々の群像劇となっており、



そのすべてを忘れずに追っていくのは少し大変。



風変わりな歴史学の教授、その教授が恋に落ちる



若く美しい女学生、教授の弟で「まともな」建築家、



小うるさいパン屋の女主人(ほんとにいそう)、エリーズが通うマルシェの八百屋さん、



パリに行くことを夢見るカメルーンの青年・・・



特に、ファブリス・ルキーニ演じる大学教授は印象深い。



地位と名声は得ても、生きることに不器用で孤独な中年男性。



この手のキャラクターは、哀愁漂う中にもなぜだかおかしみがあって、



愛着がわく。



歳の離れた学生との恋愛は、使い古されたエピソードながらも



やはりどきどきして見守ってしまった。






・・・



しかし、とにかく、パリは美しい。



ピエールのアパルトマンから、エッフェル塔の展望台から、



モンパルナスタワーから、モンマルトルの丘から、



灰色の空の下、ほぼ均一な高さの建物が見渡す限り並ぶ街並み。



一度でもこの街を訪れたことがある人なら、



その説明のつかない美しさを否定するのは、至難の業だ。



・・・



その美しい街で、それぞれの生活を、人生を生きる人々。



この作品で描き出される彼らは、



日々もがきながら、苦しみながら、



それでも幸せを探して生きる人たち。



それ以上でも、それ以下でもない。



そう、パリジャンも、パリジェンヌも、



実は、私たちとなんら変わりがない。



あの美しい街に住んでいるということだけで、



世界中からあこがれのまなざしで見られることの多い彼らだって、



ただの人間なのだ。



当たり前のことなんだけれど。



・・・



ある意味、この作品は、パリの人たちに向けたものかもしれない。



日々の些細な出来事に不平不満を言うばかりでなく、



もう一度この街の美しさを思い出して、



そこに自分が身を置いているという幸せ、



今ある幸せに少しでも気づいてくれたら、という思い。



なぜって、



みんな、自分の幸せには、なかなか気づけないものだから。



すぐそこにあるものほど、なかなか目に入らないものだから。



・・・



ラストシーン、タクシーの窓から見上げた空にのぞく青空。



微笑むピエールの表情に心ゆさぶられる。



賛否両論あるこの映画ですが、



個人的には大ヒットとなった『スパニッシュ・アパートメント』などより



好きです。



(たぶん、パリが好きだからだと思うけど・笑)



ストーリーというよりは、雰囲気を感じ取る作品かも。



最近パリ(フランス)不足のあなた、ぜひご覧ください。