真夜中のピアニスト
久々に映画の感想を。
『真夜中のピアニスト』
2006年のセザール賞を総なめにした、ジャック・オディアール監督、
ロマン・デュリス主演作品。
原題は『De Battre Mon Coeur S'est Arrete(僕の心臓の鼓動が止まる)』。
よって、「ピアニスト」が主題の映画ではありません。
裏稼業に近い仕事をしている28歳の主人公トマ(ロマン・デュリス)が、
やめていたピアノによって自分の人生を変えようと思い立ち、
もがき苦しみながらも少しずつ何かを変えていくストーリー。
重く暗めのテーマながらも、テンポよく進むストーリーと音楽、
先に見えるわずかな希望、誰もがどこかしらで共感してしまうであろう
トマのだめだめなキャラクター設定(笑)に引き込まれます。
ロマン・デュリスはこういう悩み苦しむ若者役がうまい。
『スパニッシュ・アパートメント』のイメージが強いからかもだけど。
『ルパン』で見せたようなアクションヒーローものよりは、すんなりはまります。
美形、というわけでは決してないと思うのですが(少なくとも私の好みではない)、
出演作を観ているうちに、なんだかすてきに見えてくるのがロマンくん。
そしてどんなにパリっとのりのきいたシャツを着ていたとしても、
そのままの清潔感溢れるスタイルよりは、
そこに血がついたり、ネクタイがくずれたりしちゃったほうが
数倍魅力的に見えるという・・・
そんな危ない魅力が人気の大きな理由なのでしょうね。
フランスの男優さんは、美形すぎるよりは、そういう内面からでるセクシーさ
みたいなものが重視される傾向にある気がします。
・・・
誰もが持っているであろう、「かなわなかった夢」。
自分が生きている現状への不満が積もりつもったとき、ふと自分には違う道も
あったのではないかという考えにとらわれ、とりつかれたように行動を起こすトマ。
誰かに自分を認めてもらいたくて、でも真の意味で愛情を注いでくれる人は
誰もいない。何かにすがろうとピアノに向かう彼をも、誰もがとりあってくれない。
そんな中、ピアノを教えてくれる言葉の通じない中国人女性ピアニストは、
いつしか彼の癒し、唯一「夢」を理解してくれる存在となっていった。
(全体的に夜のシーンが多いなかで、光があふれる彼女の白い部屋で
ピアノを弾く場面が際立っている。)
その夢がかなったかどうか。
大切なのはそこではなく、それをかなえるために、どうもがいたか。苦しんだか。
一度でも夢を追いかけたことがある人なら、トマのもがき苦しむ姿に
多かれ少なかれ共感を覚えるだろう。
「ずっと思い続けてれば夢はかなう」は、かなった人が言う台詞。
かなわなかった人だって数え切れないほどいるはずだ。
ただ、どちらにも共通するのは「夢をもてた」ということ。
生きる上で、何でもいい、「夢」をもつことは少なからず希望につながる。
・・・
監督のジャック・オディアールは『リード・マイ・リップス』(ヴァンサン・カッセル主演)
の監督さんです。
両作品とも、フランス映画らしい、暗め・重めの雰囲気ですが、
ただそれだけで終わらない、ちゃんと先の光が見える展開が好きです。
映像もスタイリッシュで、ロマンくんもヴァンサンさんもとってもセクシー[E:heart]
おすすめです。