「お母さんも、かつて少女だった」という事実に、娘は大人になってから気付くものです。母親はずっと昔から「お母さん」であったと子供時代は思っていましたが、そんな母親にも少女時代や思春期があったということを、娘は次第に理解していくのです。
本書の主人公は、昨年百歳を迎えた寺崎テイさん。栃木県のとある村に生まれたテイちゃんという女の子が、どのように成長し、大人になっていったかを書いた
著者は、テイさんの娘さん。長く編集者として活躍した著者は、テイさんの人生を詳細に調べ、テイさんの気持ちになってこの本を書くことによって、母親を一 人の人間として理解しようとしました。
テイさんは、有名人ではありませんし、激動の人生を送ったわけでもありません。しかし読むうちに引き込ま れ、思わず小さなテイちゃんにエールを送りたくなるのは、彼女が一〇〇年前の、普通の女の子であったからなのでしょう。汽車が通る度にかまたきの小父(お
じ)さんが子供たちにキャラメルを投げてくれた時の、嬉(うれ)しさ。懸命に勉強して、女学校を受験した時の、緊張。テイちゃんの感情は、いつの間にか自 分のものになっています。
一○○年前の女の子
の暮らしは、今とは全く違うものです。季節
ごとに様々な行事があり、お祖母(ばあ)さんがその指揮
を執る。村の中には今で言うところの格差はあるけれど、そのことを感じさせないような気遣いも、お祖母さんが孫たちに教えていく。テレビはないけれど、富 山の薬売
りやら、越後の寒紅売りといった外からやってくる人たちが、外の情報
はもたらしてくれる……。
一○○年前の生活風俗
と、人々の気持ちと を正確に伝える本書は、娘から母に対する愛の書でもあります。「お母さんがお母さんでなかった頃」のお話は、娘にとって眩(まぶ)しく、哀(かな)しく、
そして誇らしい。母と娘の間に存在する幸せな紐帯
(ちゅうたい)が完成させたこの本は、読者の脳裏に、母との記憶を喚起させるのです。