「それでは、演劇部門の表彰に移ります。まずは、個人賞の発表です」
徹司が、個人賞というものを意識をしなかったかといえば嘘になる。ただそれは、自分が賞に値する演技をしたという自信があるというわけではなく、誰でも受賞資格のある個人賞というものだけに、自分にも可能性があるかもしれない……という程度の、言ってみれば宝くじ購入者が当選を待つような心持ちだった。
「では、発表します。……3年A組、北条雷太役、桃井徹司さん。同じく3年A組、朝倉ナオ役、鈴本朋子さん。3年D組、波多野雪絵役、市山直美さん……」
わあっと自分の周囲が湧いたのを、徹司はややぼうっとした状態で聞いていた。自分の名前が呼ばれた、とは思うのだが、今ひとつ自分の耳に自信が持てず、周りをきょろきょろと見回した。
みんなが、自分を見ている。やったなモモ、という声も聞こえる。さすがトッコ、という声も聞こえた。
――トッコ、そうだ、トッコも呼ばれていなかったか?
慌ててトッコを見る。目が合うと、朋子は大きく頷いた。二人の顔から、同時に笑みがこぼれた。
聞き違いではなく気のせいでもなく、自分が、個人賞をもらえるのだ。
「モモちゃん、おめでとう」
涼子の声に、徹司は体ごと振り向いた。
涼子も、実に嬉しそうな目で徹司を見つめていた。
「ありがとう、――栗橋さん」
この時ばかりは、徹司は照れもせずに涼子の目を見つめかえした。
「ほれモモ、表彰だぜ」
そんな徹司を、古兼が促した。徹司は慌てて立ち上がった。
体育館を見渡すと、この場に集まっている生徒全員が拍手をくれているのがわかった。
「行こ、モモちゃん」
朋子が歩き出す。徹司もその後について歩き出した。背中に受ける大勢の視線が、とても心地よかった。
壇上で賞状をもらう。
そして、振り向く。
またも、大きな拍手が起こった。
嬉しさと恥ずかしさで、徹司の表情は緩みっぱなしである。
「やったね、モモちゃん」
クラスの列に戻りながら、傍らの朋子がささやく。
「うん……。トッコのおかげだよ、ホントに」
「ありがと。でも、やっぱりモモちゃん頑張ったもの」
「頑張ったのは、みんな一緒だよ。――あとは」
「そうね、あとは――」
徹司と朋子は、再びA組の輪の中に入った。
司会の声が、響く。
「続いて、演劇部門の準アカデミー賞の発表です」
2位からの発表となるらしい。
どこだ。どのクラスだ。
徹司は、全神経を耳に集中させた。