四章 【大切な忘れもの】 4 (35) | 中華の足跡・改

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徹司はあらためて、深く息を吸い込み、そして春谷に体ごと向き直った。

「春谷さん。ええと……。――ごめん」

言ってから、頭を下げる。

下を向いたまま、続けた。

「みんなの気持ちとか考えないで、確かに突っ走りすぎたと思う。だけど、その……悪気があったわけじゃないんだ。それで、不快に、というか、嫌な想いをさせちゃったのはアレだけど……」

話せば話すほど、なんだか支離滅裂になってきてしまい、言葉に詰まった。

「桃井君……もう、いいよ」

春谷が、そこで静かに声をかけた。

徹司は、顔をあげた。

春谷はこわばった表情のまま、視線をさまよわせていた。

「私の方こそ、悪かったと思ってる。ずるい方法だっていうのも、わかってる。でも……すごく悔しくて、それで……」

春谷の声はだんだんと小さくなっていった。

静寂が、その場を支配した。

店内の有線放送で流れるJUDYMARYの「OVER DRIVE」が、場違いなほど明るく響いた。

沈黙を破ったのは、佐野だった。

「じゃあ、もう大丈夫じゃね?春谷も、協力できるだろ?モモに頭下げてもらったんだし」

佐野の言葉に、春谷はこくりと頷いた。

「うん……もう、変なことは言わない。私に、できることを、やるよ」

それを聞いた途端、徹司の肩から重荷がすうっと消えた。

「よかった……」

心から、つぶやく。

「トッコには、私がまた電話で謝っておくね」

と、春谷が立ち上がりながら言った。

佐野も、同時に立ち上がった。

「ありがとう、本当に」

徹司は二人にもう一度軽く頭を下げた。

春谷は、ううん、と首を振り、佐野は、いいよ、と笑った。

二人が去った後、徹司は涼子にも頭を下げた。

「栗橋さんも……ありがとう。ホントに助かったよ」

「ううん、私は何もしてないよ。でも、よかったね」

「うん。トッコも喜ぶよ、きっと」

上機嫌な徹司を見て、涼子は一瞬だけ、複雑そうな表情を浮かべた。

「……モモちゃんってもしかして」

つぶやくような声だったため、徹司にははっきりと聞こえなかった。

「え、なに?」

「ううん、なんでもない。ええと、じゃあ私も、そろそろ行くね」

何となくそそくさと、涼子は立ち上がった。

徹司は、自分も一緒に店を出ようかとも考えたが、机のトレイにはまだポテトの山が残されていて、これを放って帰るのも不自然か、と思いなおした。

「うん、じゃあ、またね」

「バイバイ。練習、がんばってね」

涼子は左手にトレイを持ち、右手をひらひらさせて、徹司に背を向けた。