横石は徹司と古兼を等分に見て、
「ちょうどよかったぜ。ちょっと柏でゲームやっていかねぇ?俊誘ったのに、行かねえってんだもん」
「いやあ俺、ゲーセンってあんまり好きじゃないから」
と、後藤が弁解するように言う。
横石はそんな後藤の肩をぽんとたたいて、笑った。
「まあ実は俊と行ってもしょうがないんだけどな」
そしてまた徹司たちを見て、続けた。
「ちょっとこの前、新しい連続技練習したからな。勝つぜ、今度は」
徹司は古兼と視線を交わして、軽く肩をすくめた。
「やれやれ、熱心なことで」
古兼が続けて、
「まあ、たぶん無駄だけどね」
と、挑発するような口調で断言する。
「んだと、コラ」
と横石はあっさりとその挑発に乗ってくる。
そこで後藤が、
「なに、何のゲーム?」
と口を挟んできた。
それに答えて解説を始めたのは横石だ。
「ファイティングバイパーズっていうやつで、3Dの格闘ゲームさ」
「3D?じゃあバーチャファイターみたいな感じかな?」
「ああ、よく似てる。なにしろ作ってるメーカー一緒だからな」
横石は解説を続けた。
「もともと剛志がやってるの見て、おもしろそうだからやってみたら、すっげえハマっちゃってさ。でも剛志はともかく、俺と同じ時期に始めたはずのモモもなんか上達早くて、あんま勝てねえんだよな」
横石が嘆いたように、徹司・古兼・横石はよくこのゲームで対戦するのだが、横石の勝率は明らかに悪い。
徹司に言わせれば、横石の戦法は単調で攻め方のパターンも少なく、そうそう負けやしねえよ、というところなのだが。
「というわけでさ、行こうぜ。徹司も剛志も、ヒマだろ?」
と、横石は再び誘いをかけてくる。
徹司にしても、決してこのゲームが嫌いではないし、横石の誘いに乗るのはやぶさかではないのだが、正直なところ今は古兼から話の続きが聞きたかった。
が、この場ではそうはいえない。
まあ、この先いくらでも話をする機会はある。
ちらりと古兼を見ると、どうやら古兼もその意を察したようだった。
古兼は軽く頷くと、えらそうに横石に告げた。
「よかろう、相手をしてやろう」
「けっ、大口叩けるのも今のうちだぜ」
柏駅で徹司らは後藤と別れ、電車を降りた。
柏駅周辺には、徹司の知る限りでも10を超える数のゲームセンターが存在している。徹司たちがよく行く場所はそのうちの一つで、「イルカ」の名で呼ばれるゲームセンターである。
入り口を入ってすぐのところに「ファイティングバイパーズ」の対戦台が置かれている。
ゲーム界において、こういった『対戦格闘』というジャンルのものは、近年目覚しく発展している。火付け役は、格闘ゲームの代名詞ともいえる「ストリートファイターⅡ」であろう。
一台のゲーム機をはさんで友人同士、あるいは見知らぬ人と対戦し、負ければその場で終了、勝った者のみがゲームを続行できるというシビアな世界だが、それゆえに多くのユーザーが強さを求めてゲームに没頭した。そして、上級者の間では、「どのように勝つか」や「かっこいい連続技」といったギャラリー受けを狙った要素も追及されるようになる。
さらには、対戦格闘物の進化と共に、数多くの専門用語が生まれ、また対戦時の暗黙のルールなども築かれていくのだった。
「お、空いてる空いてる」
と、横石がさっそく席に座り、50円を投入してゲームをスタートした。
横石がいつも使うキャラは、エレキギターで相手を殴ったり突いたりする、パンクロッカーキャラである。
「さ、かかってこいや」
「ほんじゃ、お先に」
と、古兼が向こう側の席に回り、50円を入れて『乱入』する。
徹司はのんびりと両替機に千円札を入れながら、二人の対戦を眺めた。
古兼は複数のキャラクターを使いこなすが、今回選択したのはスケボーを武器代わりに振り回すキャラである。
「Round1 Fight!」
戦闘が始まった。