二章 【無限の世界へ】 2 (12) | 中華の足跡・改

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その日の帰り道。徹司は、ずいぶんとぼんやりと歩いていたらしい。どんな考え事をしていようと、足だけは通学路をたどるものだが、さすがに自動的に知人を知覚する能力はない。

目の前の人影に気がついたのは、衝突の1メートル手前、というところだった。

「どうしたい桃井、難しい顔しやがって」

はっと顔を上げると、目の前には上山と鈴本()千子(ちこ)が立っていた。

「モモちゃん、自殺でもしそうな顔してたけど――大丈夫?」

紗千子はそんなことをいいながらも、全然心配そうな表情をしていない。

「いやいや、こんなことくらいでいちいち自殺してたら、命がいくつあってもたりゃしないよ」

徹司は苦笑した。

「こんなことって……なにかあったの?」

紗千子に続いて、上山も、

「恋愛相談だったら俺が聞いてやるぜ」

などという。

その言葉に徹司が少し考え込んだのは、図星だったからではなく、この二人に話を聞いてもらおうか、と思い立ったからである。どのみち、自分ひとりで考え込んでいても仕方のないことだ。

「あれ、マジで恋愛相談だった?」

「違うって。そうじゃないんだけど――普通の相談ならあるんだけど、ちょっと時間もらえないかな?」

徹司の言葉に、上山と紗千子は顔を見合わせた。

「あたしは構わないけど」

「俺も、いいよ。じゃ、どっかでお茶しながら話そっか」

「なら、あそこ行かない?新しくできた喫茶店、スターバックスだっけ。一度入ってみたかったのよね」

柏という街は、千葉県北西部の中心都市、と言ってもいいかもしれない。常磐線と東武野田線が交差する柏駅前は、昼夜を問わず、人並みが途絶えることはない。

繁華街は『千葉の渋谷』などというかっこよくもない異名をとるほどの賑わいがあり、夜ともなると駅前広場にはストリートミュージシャンがあふれだす。

駅前の様子がカラオケの映像に使われているのは、地元民にはよく知られている。映画館やカラオケ、飲み屋にゲームセンターと、娯楽場所にも事欠かない。自然、周囲の住人たちは、遊ぶときや待ち合わせのとき、「とりあえず柏で」ということになりやすいのだった。

徹司は厳密には柏市民ではないのだが、最寄り駅(といっても歩けば一時間はかかる)が柏駅のため、普段の通学でも柏駅を使うし、街にもなじみが深い。

ただ、あまり喫茶店などという場所を利用したことはない。もっとも、これはまあ高校生としてはめずらしくもないかもしれない。

上山と紗千子と共にスターバックスという名のしゃれた喫茶店に足を踏み入れた徹司だったが、こういうところでどんなものを注文すれば良いものか、少し迷ってしまった。

悩んだあげく、とりあえず無難そうなところでブレンドコーヒーだけを注文し、さっさと席を見つけて腰をおろした。上山も、同じくコーヒーだけを持って、徹司の向かいに座る。紗千子は、なにやら食べるものも注文したいようで、陳列ウィンドウの前でどのケーキが一番おいしいものなのか、真剣な顔で検討しているようだった。

「おいおいサッチー、いつまで悩んでんだ?」

たまりかねた上山が、声をかける。

「だってこの子たちみんな、食べて欲しそうな顔してるんだもの」

紗千子はこちらを振り向きもせずに言った。

「じゃあみんなの希望をかなえてやったらどうだ?」

「そうしたいところだけど、そうすると今度はお財布が文句言うのよ」

猫舌の徹司は、まだコーヒーには口をつけず、無意味にマドラーでぐるぐるとかき混ぜながら、二人の会話を聞いていた。まだ何一つ話をしたわけでもないのだが、心が少しずつ軽くなっていくのがわかる。

(この前もそうだったけど)

と、徹司は思った。

(一人で悩み事なんかするもんじゃないらしいな)